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Kangbuk Samsung Health Study

目的 肥満のなかには,肥満に起因する代謝系危険因子を保有していない,すなわち「代謝的に健康な肥満(metabolically-healthy obese: MHO)」が含まれるが,代謝的に健康かつ非肥満の人にくらべ,心血管疾患(CVD)リスクが高いかどうかは明らかになっていない。そこで,韓国のKangbuk Samsung病院総合健康管理センターの健診*を受診した男女を対象とした横断研究で,MHOの人と代謝的に健康かつ正常体重の人の冠動脈石灰化**の度合いを比較した。
* 韓国の労働安全衛生法は,全従業員に毎年あるいは2年ごとの健診(無料)を義務付けている。
** 韓国ではCVDスクリーニングに冠動脈カルシウム(CAC)スコアを使用するのが一般的になった。
コメント 肥満が動脈硬化性疾患の危険因子であることは当然のこととして捉えられていた。アメリカの最初のコレステロールのガイドラインであるNCEP-ATPでは危険因子として取り込まれていたが,その後,他の関連危険因子で調整すると肥満自体は危険因子としての有意性が示しえなかったため,ATP IIからは危険因子としては登場しなくなった。わが国でも同様で,危険因子にはあがっていない。そのためもあり,メタボリックシンドロームという腹部肥満でなんらかの代謝異常を併せ持つ肥満を特化して危険病態としたのである。しかしながら,今回の研究のように最初から代謝異常のない肥満だけを大規模に観察すると,エンドポイントが石灰化指数というサロゲートマーカーであっても,肥満が危険因子として有意性をもって認められたということは意味のあることである。本研究で,十分気をつけなくてはいけないのは,肥満がBMIで表現されているため,隠れ肥満(BMIは正常でも腹部肥満があるような場合)が見落とされている可能性があることである。とはいえ,代謝障害のない肥満でも十分な配慮が必要であることを示しているものと思われる。(寺本
デザイン 横断研究。
期間 登録期間は2010~’12年。
対象 14,828例。健診時に心臓CT検査を実施した18歳以上の男女のうち,CVD,癌の既往がなく代謝的に健康,すなわち代謝系危険因子(空腹時血糖≧100mg/dL,血圧≧130/85mmHg,トリグリセライド≧150mg/dL,HDL-C<40mg/dL[男性],<50mg/dL[女性],インスリン抵抗性[HOMA-IR≧2.5])を一つも保有していないもの。
■患者背景:平均年齢39.3歳,男性74.2%,体脂肪率22.9%,BMI(低体重[18.5kg/m²未満]581人,正常[18.5~22.9kg/m²]6,996人,過体重[23.0~24.9kg/m²]3,997人,肥満[25.0kg/m²以上,すなわちMHO]3,254人),現喫煙率22.3%,現飲酒率17.3%,運動習慣14.4%,大学卒業以上の学歴87.5%,血圧109.5/69.3mmHg,腹囲80.7cm,血糖90.3mg/dL,総コレステロール195.7mg/dL, LDL-C 121.5mg/dL, HDL-C 59.7mg/dL,トリグリセライド(TG)84mg/dL*, ALT 18U/L*, GGT 21U/L*,高感度(hs)CRP 0.4mg/L*, HOMA-IR 0.88*,CACスコア1以上6.8%。 
**中央値
調査方法 心臓CT(64列マルチスライス)の所見をもとに,Agatston法でCACスコアを算出し,0(検出不可)/1~80/>80の3段階で評価。CACスコアが対数正規分布を示すと仮定し,Tobitの回帰モデルにより,各BMIカテゴリーにおける正常体重に比したCACスコア比,ならびに石灰化(CACスコア1~80または>80)の有病率比を推定した。多変量調整時に用いられた変数は年齢,性別,喫煙状況,飲酒状況,運動習慣,および学歴。
結果 [CACスコア]
1~80:859人(5.8%),>80:144人(1.0%)。
[CACスコア比]
正常体重にくらべたCACスコア比(多変量調整)は,肥満で2.26(95%信頼区間1.48~3.43)と有意に高かったが,過体重では1.21(0.80~1.84)と有意差はみられなかった。
[冠動脈石灰化の有病率比]
正常体重に比したCACスコア1~80の有病率比(多変量調整)は,肥満例で1.39(1.15~1.67)と有意に高かったが,過体重例では1.09(0.91~1.31)と有意差はなかった。
CACスコア>80の有病率比についても,肥満例で有意に高かったが(1.67[1.09~2.56]),過体重例では有意差はなかった(1.09[0.70~1.68])。
[代謝系危険因子の関与]
上記の調整変数に代謝系危険因子(空腹時血糖,収縮期血圧,TG,HDL-C,HOMA-IR)を加えて解析すると,肥満例の正常体重に比したCACスコア比は1.84(95%信頼区間1.17~2.91)とわずかに低下したものの,有意に高かった。過体重については,1.10(0.72~1.67)と有意差はみられなかった。
さらにLDL-Cを加えて解析すると,肥満例の正常体重に比したCACスコア比は1.24(0.79~1.96)となり有意差が消失した。過体重例でも0.87(0.57~1.32)と有意差はみられなかった。
これらの結果は,CACスコア1~80および>80の有病率比について行った解析でも同様であった。
[サブグループ解析]
年齢(40歳未満/以上),性別,喫煙状況(喫煙未経験または禁煙/現在喫煙),飲酒状況(1日20g未満/以上),運動習慣(週3回未満/以上),hsCRP(1.0mg/L未満/以上),フラミンガムリスクスコア(10%未満/以上)による解析を行った結果,いずれについても有意な交互作用はみられなかった。
★結論★代謝的に健康な韓国人の若年男女において,MHOの人では正常体重者にくらべて無症候性動脈硬化性冠動脈疾患の有病率が高く,MHOが「無害な肥満」ではないことが示された。
文献
  • [main]
  • Chang Y, et al. Metabolically-healthy obesity and coronary artery calcification. J Am Coll Cardiol. 2014; 63: 2679-86. PubMed
    Puri R: Is it finally time to dispel the concept of metabolically-healthy obesity? J Am Coll Cardiol. 2014; 63: 2687-8. PubMed
  • [substudy]
  • 代謝的健康,肥満と糖尿病リスク-代謝的に不健康な人は,肥満の有無にかかわらず,代謝的に健康な人より糖尿病発症リスクが高い。
    代謝的健康状態+肥満の有無により糖尿病発症リスクを比較した後ろ向き解析結果(2005~'09年の健診時の非糖尿病例6,748人[平均43歳];追跡期間中央値48.7か月):代謝系危険因子(空腹時血糖高値,血圧高値,高TG血症,低HDL-C血症,インスリン抵抗性)を複数保有する人を「代謝的に不健康」と定義。糖尿病新規発症の多変量調整ハザード比は,「代謝的に健康+非肥満」(対照)にくらべ,「代謝的に健康+肥満(BMI 25 kg/m²以上)」例で1.385(95%信頼区間0.694~2.765, p=0.356),「代謝的に不健康+非肥満」例で4.458(2.790~7.122, p<0.01),「代謝的に不健康+肥満」例で6.489(3.873~10.871, p<0.01)と,代謝系危険因子をあわせもつ人では肥満の有無にかかわらず顕著な糖尿病発症リスク増加がみられた:PLoS One. 2014; 9: e98369. PubMed

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収載年月2014.09