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大動脈内バルーンパンピング(IABP)は血行動態をサポートすることから,血管造影やPCIを施行予定の高リスク(手技前の血行動態は安定しているものの手技中に重大な合併症を発症するリスクが高い)患者に,待機的(予防的)に使用されている。しかし,このような予防的IABPの有効性は,ランダム化比較試験で前向きに検証されていない。 左室機能の低下した広範な冠動脈病変を有する高リスクのPCI施行患者において,elective(予防的)IABPの有効性と安全性を,合併症が発生したときのみに救済的にIABPを実施するno planned IABP(IABP非予定)と比較する。
一次エンドポイントは,退院時(28日以内)の主要有害脳心血管イベント(MACCE:死亡,急性心筋梗塞[AMI],脳血管イベント,再血行再建術)。 |
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左室機能が高度に低下した例や左室の広範囲を栄養する冠動脈疾患例のPCI時には,IABPにより冠血流を増加させ心筋酸素消費量を低下させることで血行動態保持が図られる。ハイリスク症例に対する予防的IABPは実臨床ではよく行われているが,その有用性はprospectiveには明らかではない。ハイリスクPCI例に対するIABPの適応は,ガイドラインでは血行動態的合併症が存在する例のみであり,欧米ではclass IIb(エビデンスレベルC)である。BCIS-1はハイリスクPCI例に対するIABPの効果を多数例でランダム化して検討した最初の研究であるが,予防的IABPはすべてのハイリスクPCI例には推奨されない結果であった。 IABP非予定群では持続的低血圧のため12%の例で救済的IABPが必要であり,以前の報告でもハイリスクPCI例で15%にIABPが挿入されている。今回の検討では,BCIS-1危険度スコアが最大である12点の例に限定するとIABP非予定群の72%に救済的IABPが必要となり,これらの例ではIABP挿入時間や入院期間が長くなっている。BCIS-1危険度スコアは半定量的評価であり,SYNTAXスコアが確立される前にこの研究は企画されている。心筋のviabilityは評価されていないので,本当にIABPが必要な症例を選定できていない。このため,現在でもハイリスクPCI例ではIABPのスタンバイが必要である。以前よりはステント使用率が高く,PCIを多数行っている施設(平均1695件/年)のみに限定してこの試験を行っているので,待機的IABP群でのIABPの有用性がより低くなっている。今回の結果は,STEMI例のPCI時のIABP使用に対するメタ解析の結果(Eur Heart J. 2009; 30: 459-68. PubMed)と同様であることは興味深い。総合的な治療力の向上(intervention技量,ステント,薬剤など)により,以前の治療法の常識を見直す必要に迫られている。(星田) |
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PROBE(prospective, randomized, open, blinded-endpoints),多施設(英国の17施設),intention-to-treat解析。 |
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追跡期間は6か月。 登録期間は2005年12月~’09年1月。 |
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301例。固有冠動脈あるいはバイパスグラフトに対する1枝または多枝病変へのPCIが予定されている高リスク患者(左室機能不全[EF≦30%],狭窄血管により心筋の広い領域が供給されている患者[BCIS-1危険度スコア≧8,あるいは左主幹部病変,または他の閉塞した血管への側副血行供給枝により心筋の>40%供給している標的血管])。 除外基準:クラスI~IIのIABP適応(心原性ショック,48時間以内のAMI,心室中隔欠損や高度な僧帽弁閉鎖不全などのAMIの合併症など),28日以内のstaged PCI予定など。 ■患者背景:平均年齢71歳,男性(予防的IABP群81%,IABP非予定群78%),白人(95%, 94%),2型糖尿病(35%, 29%),現喫煙(21%, 20%),高血圧(63%, 61%),MI既往(75%, 73%),NYHA心機能分類(II度:29%, 21%;III度:42%, 43%;IV度:24%, 29%),EF(両群とも23.6%),BCIS-1危険度スコア(8:26%, 28%;10:両群とも26%;12:47%, 45%),左主幹部病変(27%, 29%),薬物治療(aspirin:97%, 96%;clopidogrel:両群とも93%;ACE阻害薬/ARB:89%, 81%)。 |
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予防的IABP群(151例):PCI前にバルーンカテーテルを挿入し,PCI後4~24時間まで留置。 IABP非予定群(150例):手技合併症(長時間の血圧低下,肺浮腫,難治性心室性頻拍/心室細動など)が発生した場合にのみ,手技者の判断により救済的IABPを実施。 全例にaspirinとclopidogrelを前投与し,手技中は未分画heparinを静注。abciximabの使用を推奨。デバイスの選択は手技者に一任。IABP実施例では,PCI直後(abciximab使用例は静注終了後)にheparin静注を開始した。 |
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退院時(28日後)および6か月後の評価ともに脱落例なし。 入院日数は両群ともに2日(中央値)。 [手技成績] 予防的IABP群の3例が血管確保困難のためIABPを施行せず。 ステント植込みは予防的IABP群94.2%,IABP非予定群92.5%,治療病変数(/患者)はそれぞれ2.15,2.05,手技成功率は93.9%,93%。薬剤溶出性ステントの使用率は両群ともに67%。 [一次エンドポイント] 退院時のMACCE発生率に有意な群間差は認められなかった(予防的IABP群23例[15.2%]vs IABP非予定群24例[16.0%];オッズ比0.94[95%信頼区間0.51-1.76], p=0.85)。 個別のイベントについても群間差はみられなかった(MI:12.6% vs 13.3%;0.93[0.48~1.83], p=0.85,死亡:2.0% vs 0.7%;3.02[0.31~29.37], p=0.34,再血行再建術:0.7% vs 2.7%;0.24[0.03~2.20], p=0.21)。 [二次エンドポイント:6か月後の全死亡,手技合併症など] 6か月後の全死亡に差はなかった(7例[4.6%] vs 11例[7.4%]:0.61[0.24~1.62], p=0.32)。 手技合併症はIABP非予定群のほうが有意に多く(2例[1.3%] vs 16例[10.7%]:0.11[0.01~0.49], p<0.001),同群の18例(12%)に予防的IABPが必要であった。 大・小出血には有意差を認めなかった(19.2% vs 11.3%;1.86[0.93~3.79], p=0.06)。 アクセス部位の合併症は5例(3.3%) vs 0例であった(p=0.06)。 ★結論★重度の左室機能障害,広範な冠動脈疾患を有する高リスクのPCI施行患者において,予防的IABPによる退院時のMACCEの低下はみられなかった。 Clinicaltrials.gov. No: NCT00910481 |
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- [main]
- Perera D et al for the BCIS-1 investigators: Elective intra-aortic balloon counterpulsation during high-risk percutaneous coronary intervention: a randomized controlled trial. JAMA. 2010; 304: 867-74. PubMed
- [substudy]
- 待機的IABPと長期全死亡リスク-51か月後にIABP非予定群にくらべ34%低下。
全死亡の長期追跡(中央値51か月)結果:全例が追跡を完了。全死亡は100例(33%)。全死亡リスクは待機的IABP群のほうがIABP非予定群よりも有意に低かった(42例[7.9/100人・年] vs 58例[12.1/100人・年]:ハザード比0.66;95%信頼区間0.44~0.98, p=0.039)。ランダム化から1年後までと1年後以降とで,待機的IABP群とIABP非予定群の死亡リスクに差はなかった(交互作用p=0.91)。死亡原因は特定されていないので,IABP効果の作用機序は不明:Circulation 2013; 127: 207-12. PubMed
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