循環器トライアルデータベース

dal-OUTCOMES

目的 急性冠症候群(ACS)発症早期の患者において,CETP阻害薬dalcetrapibの心血管疾患リスクに対する有効性を評価する。

有効性の一次エンドポイントは冠動脈疾患(CAD)死,非致死的心筋梗塞(MI),脳梗塞,不安定狭心症による入院,心停止からの蘇生の複合エンドポイント。
コメント N Engl J Med. 2012; 367: 2089-99. へのコメント
LDL-C低下療法が動脈硬化性疾患予防に有効であることは27試験のメタ解析で,ほぼ確立されたといってよいであろう。しかし,それでも予防可能なのは23%である。つまり,残りの70%以上は治療をしてもイベント発症が起こるということであり,このことがresidual risk(残余リスク)として注目されており,その一つがHDL-Cであり,HDL-C上昇作用を有するCETP阻害薬が期待されている。しかし昨年,その一つであるtorcetrapib(tor)を用いたILLUMINATE試験は,むしろイベント発症リスクが高まるということで中止された。その原因はtorによる血圧上昇(アルドステロン上昇による)のためと推測されている。
本試験のdalcetrapib(dal)はそのような副作用がはっきり見られず確実にHDL-Cが上昇するということで,その結果が期待されていた。しかし,3年目の中間解析でプラセボに対して全く差がないことが判明し,中止決定がなされた。第一の理由として,HDL-Cの上昇がスタチン治療によるリスク減弱を上回ることができなかった可能性があげられる。第二に,dalにより軽度の有意な血圧上昇とCRP上昇がみられ(原因は不明であるが),そのためにリスク減弱の効果が薄められた可能性があげられている。
その後に控えているanacetrapibとevacetrapibというCETP阻害薬は,明らかにHDL-Cの上昇率が2倍くらい高く,LDL-Cの低下作用も有しており,アウトカムには期待がもたれる。しかし,HDL-Cの上昇による効果を純粋にみるという意味ではdal-OUTCOMESに期待されていたのである。
CETP阻害によるHDL-C上昇には動脈硬化予防効果が期待できない可能性が高まっているように思われる。(寺本
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,多施設(27か国935施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は31か月(中央値)。
登録期間は2008年4月~2010年7月。
対象患者 15,871例。45歳以上のACS(心臓バイオマーカー上昇例でECGの新規あるいは新規に発症したと思われる虚血の異常所見あるいは心エコー上の心筋バイアビリティ消失)による入院例。マーカー非上昇例でも,新規あるいは新規と思われるECG上の虚血所見,および他の閉塞性冠動脈疾患のエビデンスのある急性心筋虚血症状の場合,PCIを施行するMIは可とした。
LDL-C≦100mg/dL(≦70mg/dLが好ましい)を目標にしたスタチン治療,食事療法を受けているものは継続。
除外基準:トリグリセライド(TG)≧400mg/dL。
■患者背景:心マーカー上昇例は87%,発症からランダム化までの日数は中央値61日。
平均年齢60歳,白人88%,欧州,イスラエル50%;北米32%,BMI 28.6kg/m²,女性(dalcetrapib群20%,プラセボ群19%)。
危険因子:高血圧(67%, 68%);糖尿病(24%, 25%);高コレステロール血症(72%, 73%);喫煙(両群とも21%);メタボリックシンドローム(両群とも63%)。
既往:MI(16%, 15%);PCI(15%, 14%);NYHA I~II度のうっ血性心不全(16%, 15%)。
ACSの診断:自然発症MI 85%(ST上昇型MI 46%;非ST上昇型MI 39%),バイオマーカー非上昇の不安定狭心症13%,ACSに対するPCIあるいはCABG 91%。
薬物治療:スタチン(97%, 98%),aspirin(両群とも97%),clopidogrel, ticlopidine, prasugrel(両群とも89%),β遮断薬(87%, 88%),ACE 阻害薬/ARB(両群とも79%)。
治療法 4~12週間の単盲検・プラセボによるrun-in期間後にランダム化。
dalcetrapib群(7,938例):600mg/日,プラセボ群(7,933例)。
結果 予定されていた2回目の中間解析(一次エンドポイント1,135例[想定されていた数の71%]発生)で,データ安全性モニタリング委員会はdalcetrapib群の有効性が認められないと試験中止を勧告し,追跡期間中央値31か月で試験は中止された。
中止前の試験薬投与中止はdalcetrapib群21%,プラセボ群19%で,投与期間中の試験薬のアドヒアランス≧80%は両群とも89%。
dalcetrapib群はプラセボ群よりもCRP(試験開始時:両群とも中央値1.5mg/L)が0.2mg/L 有意に高かった(p<0.001)。
[脂質値の変化]
HDL-C:ベースライン時43mg/dL→ dalcetrapib群で31~40%上昇,プラセボ群は4~11%上昇,LDL-C:76mg/dL(≦100mg/dL例は86%)→ dalcetrapibの影響は小さかった。
TG:dalcetrapib群134.2mg/dL,プラセボ群133.0mg/dL→ 4~10%,6~17%上昇。
アポリポ蛋白A1:137.5mg/dL, 137.2mg/dL→ dalcetrapib群で9%上昇,アポリポ蛋白Bへの影響は小さかった。
[一次エンドポイント]
dalcetrapib群の累積イベント率656例(8.3%)vs プラセボ群633例(8.0%):dalcetrapib群のプラセボ群にくらべたハザード比1.04;95%信頼区間0.93~1.16(p=0.52)。複合エンドポイントのいずれの構成イベントでもdalcetrapib群の有効性は認められなかった(CAD死:1.5% vs 1.6%,非致死的急性MI:5.2% vs 5.1%,不安定狭心症による入院:1.1% vs 1.2%,心停止からの蘇生:0.2% vs 0.1%,アテローム性血栓によると考えられる脳卒中:1.1% vs 0.9%)。
[安全性]
dalcetrapib群はプラセボ群よりも収縮期血圧が0.6mmHg有意に高く(p<0.001),有害・重篤な有害イベントとしての高血圧も多かった。さらに同群では下痢が多く(563件 vs 358件),試験薬投与中止率が高かった(1.4% vs 0.3%)。また同群では不眠症も増加した(169例 vs 133例)。
★結論★ACS発症早期(中央値61日)の患者において,dalcetrapibによりHDL-Cは上昇したが,心血管疾患再発は抑制されなかった。
ClinicalTrials.gov No: NCT00658515
文献
  • [main]
  • Schwartz GG et al for the dal-OUTCOMES investigators: Effects of dalcetrapib in patients with a recent acute coronary syndrome. N Engl J Med. 2012; 367: 2089-99. PubMed
  • [substudy]
  • ACS後のスタチン治療下の空腹時TG値とCVリスク-短期・長期リスクと有意に関連。
    dal-OUTCOME,MIRACLの急性冠症候群(ACS)後のスタチン治療例において,ベースライン空腹時トリグリセライド(TG)値と短期・長期心血管(CV)リスクの関係を検討した結果:対象はdal-OUTCOMEのベースライン時スタチン投与例15,817例(平均年齢60歳,男性80%,TG値115mg/dL),MIRACLのatorvastatin群(ACS後に投与開始)1,501例(65歳,66%,160mg/dL)。
    dal-OUTCOMESでは,追跡期間中央値31か月で1,289例(8.1%)がCVイベント(冠動脈疾患死,心筋梗塞,脳卒中,不安定狭心症,心停止の複合)を発症。ベースラインTG値の四分位の増加ごとに長期CVリスクは有意に増加(傾向p<0.001;最高/最低四分位群[>175/≦80mg/dL]のハザード比:1.61)。
    MIRACLでは追跡期間16週で220例(14.7%)がCVイベントを発症。CVリスクはTG値の三分位の増加ごとに有意に増加した(傾向p=0.03;最高/最低三分位群[>195/≦135mg/dL]:1.50)。両試験ともにTGとリスクの関係はLDL-C値とは独立していた:J Am Coll Cardiol. 2015; 65: 2267-75. PubMed

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収載年月2013.01
更新年月2015.07