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急性冠症候群(ACS)の疑いで受診した患者のうち,短期の主要有害心イベント(MACE)リスクが低い患者は早期に退院できる。先行するASPECT試験では,受診0,2時間の複数のバイオマーカー値と心電図(ECG),TIMIスコアを用いた新規迅速診断プロトコール(accelerated diagnostic protocol:ADP)により,30日以内のMACEリスクが低い患者を高感度に特定できることが示された(Lancet 2011; 377: 1077-84. PubMed) 本研究では,ADPに用いるバイオマーカーをトロポニンI(cTnI)のみとして,オーストラリアとニュージーランドの胸痛による救急部(ED)受診患者において,ADPにより早期退院が可能な低リスク患者を特定できるかを検証する。
一次エンドポイントは,30日以内のMACE(死亡,心停止,緊急血行再建術,心原性ショック,介入を要する心室性不整脈,介入を要する高度房室ブロック,急性心筋梗塞[AMI])。 |
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欧米とくに米国では,胸痛を訴えて病院の救急部(ED)に搬送される患者が少なくないが,可及的すみやかに急性冠症候群(ACS)か否かを診断することが求められている。本研究は,(1) TIMIスコア=0,(2) ECGに虚血性変化なし,(3) 血清トロポニン (cTnI) 正常範囲の3つの基準でMACEの患者を除外できるかどうかを検討し,この基準で低リスクの患者を早期に同定できることを示した。ACS疑いの患者を出来るだけ入院させないで,低リスク患者を外来診療で対応するのが狙いであるが,本研究のような早期診断プロトコール (ADP) が各地で検討され,ガイドラインとして確立されるようになるものと考えられる。(堀) |
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前向き観察研究,多施設(オーストラリア,ニュージーランドの2施設)。 |
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追跡期間は1年。本報は30日の結果。 登録期間は2007年11月~’11年2月。 |
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1,975例。18歳以上の都市部の救急部受診連続患者で,ACSと考えられる症状が5分以上持続し,担当医がトロポニンの連続測定を予定したもの。 除外基準:ST上昇型心筋梗塞(STEMI),ACSによる症状でないことが明らかなもの,他院からの転院,妊婦など。 ■患者背景:平均年齢60.4歳,男性60%,白人89.8%,高血圧52.1%,脂質異常症51.1%,過去喫煙41.7%,冠動脈疾患の家族歴53.5%,既往:狭心症33.8%,AMI 23.3%,血行再建術17.3%。 |
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施設の標準プロトコールに従って患者ケアを実施。患者の追跡評価は30日後,45日後,1年後に実施した。cTnIの測定には,ニュージーランドはARCHITECT cTnIアッセイ(Abbott社),オーストラリアはDxI Access Accu cTnIアッセイ(Beckman Coulter社)を使用。 ADPにて受診時のTIMIリスクスコア=0,初回ECG上の虚血性変化なし,cTnI値が施設のトロポニン上昇のカットオフ値未満(救急部到着後0,2時間時),の3項目すべてを満たした患者を「低リスク」と判定。 |
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[一次エンドポイント] MACEの発生は302例(15.3%),大半は心筋梗塞(15.1%)であった。 ADPにより「低リスク」と判定された患者は392例(20%)。このうちMACEを発症したのは1例(0.25%)であった。 [ADPによる診断の精度] ADPの感度は99.7%(95%信頼区間98.1~99.9%),陰性適中率は99.7%(98.6~100.0%),特異度は23.4%(21.4~25.4%),陽性適中率は19.0%(17.2~21.0%)。 ADPで陰性結果が出た患者のうち74.1%が,救急部受診中または30日間の追跡期間中に詳細な評価を受け(主に初回受診中のストレス検査),治療(18.3%)もしくは処置(2.0%)を受けた。 ★結論★ADPにより,短期のMACEリスクが低いため早期退院が可能な患者を特定することができ,早い段階からの経過観察も可能となった。このアプローチにより,胸痛患者の観察時間を短縮することができる。
[主な結果]- Than M, et al: 2-hour accelerated diagnostic protocol to assess patients with chest pain symptoms using contemporary troponins as the only biomarker: the ADAPT trial. J Am Coll Cardiol. 2012; 59: 2091-8. PubMed
Hess EP and Jaffe AS: Evaluation of patients with possible cardiac chest pain: a way out of the jungle. J Am Coll Cardiol. 2012; 59: 2099-100. PubMed
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