循環器トライアルデータベース

ORIGIN
Outcome Reduction with Initial Glargine Intervention

目的 空腹時血糖の上昇は独立した心血管リスク因子であり,内因性インスリン分泌が不十分なことを示している。十分量の外因性インスリンの補充により血糖値を正常化すれば,心血管リスクは低下する可能性があるが,正式に検討した研究はない。また,n-3脂肪酸は亜急性心筋梗塞(MI)患者や心不全患者では心血管イベントを抑制する可能性があるが,糖尿病患者あるいは糖尿病リスク者における効果は明らかでない。
心血管疾患の危険因子を有する空腹時血糖異常(IFG),耐糖能異常(IGT),または早期2型糖尿病患者における心血管イベント抑制効果を,(1)n-3脂肪酸 vs プラセボ,(2)インスリンglargine vs 標準治療で検討する。

一次エンドポイントは,
(1)心血管死。
(2)心血管死+非致死的MI+非致死的脳卒中,および心血管死+非致死的MI+非致死的脳卒中+血行再建術+心不全による入院の2つの複合エンドポイント。
コメント N Engl J Med. 2012; 367: 309-18, 319-28. へのコメント
インスリン治療はかねてより,「高インスリン血症を惹起して動脈硬化を促進する」のではないかといわれのない危惧を持たれることが多かったが,少なくともこの試験ではこの問いに対しNoといって良いものではなかったかと思われる。これはすでにインスリンやSU薬を使ってでも血糖コントロールを早期に開始したほうが総死亡率,心筋梗塞が15年後には有意に減少したUKPDS80の結果からも類推できる。ただし,スタディとしてこの研究は対象者が異なり,IFG,IGT,早期糖尿病患者にグラルギンを早期介入しても心血管イベント抑制効果はなかったというネガティブスタディであったことも確かである。このような早期の患者をインスリン治療の対象にしたことに臨床的な意味がどれくらいあるのかは不明であるが,少なくとも空腹時血糖値の上昇のないIGTにグラルギンを使うことには抵抗を感じざるを得ない。(弘世
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照([1]のみ),二重盲検([1]のみ),2☓2 factorial,多施設(40か国573施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は6.2年(中央値)。
割付け期間は2003年9月~’05年12月。
対象患者 (1)n-3脂肪酸 vs プラセボ:12,536例。
50歳以上の経口血糖降下薬を単剤で服用している糖尿病,IGT(75g OGTT後の2時間血糖値が≧140mg/dL, <200mg/dL),またはIFG(≧110mg/dL, <126mg/dL)の患者で,MI・脳卒中・血行再建術の既往,虚血の記録のある狭心症,尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)>30mg/g,左室肥大,血管造影上の冠・頸・下肢動脈の狭窄≧50%,あるいは足首上腕血圧比(ABI)<0.9を満たすもの。
除外基準:HbA1c≧9%,過去4年以内にCABGを施行し,介入治療を要する心血管イベントを発症しなかったものなど。
■患者背景:平均年齢64歳,女性35%,HbA1c 6.4%*,血圧146/84mmHg,空腹時血糖(glargine・n-3脂肪酸群125mg/dL,標準治療・プラセボ群124mg/dL)*
(1)MI・脳卒中・血行再建術既往(n-3脂肪酸群59.1%,プラセボ群58.6%),eGFR(77.1 mL/分/1.73m²,77.5mL/分/1.73m²),ACR(5.2mg/g, 5.1mg/g)*,EPA-DHA摂取量(210.0mg/日,209.3mg/日)** 中央値。
(2) glargine vs 標準治療:12,537例
心血管イベント既往(glargine群59.3%,標準治療群58.4%),MI既往(35.5%, 35.2%),高血圧(79.4%, 79.5%),糖尿病既往(経口血糖降下薬使用:59.8%, 58.9%;不使用:22.6%, 23.4%),IFG/IGT(11.7%, 11.4%),糖尿病罹病期間(5.5年,5.3年),血糖降下薬(metformin:27.0%, 27.8%;SU薬:30.3%, 28.9%),BMI(29.8 kg/m², 29.9 kg/m²),服薬状況(スタチン:53.8%, 53.7%;ACE阻害薬/ARB:69.1%, 69.4%;β遮断薬:52.3%, 53.0%;その他の降圧薬:41.0%, 41.1%;抗血小板薬:68.6%, 69.7%)。
治療法 (1) n-3脂肪酸 vs プラセボ
10日間のrun-in期間後にランダム化。
n-3脂肪酸群(6,281例):1gカプセル(EPA 465mg,DHA 375mgを含む)1日1回投与。
プラセボ群(6,255例):オリーブオイル約1gを含むプラセボを投与。
(2) glargine vs 標準治療
glargine群(6,264例):血糖降下薬にglargine毎夕方1回皮下投与を追加。自己測定空腹時血糖≦95mg/dLを目標として,少なくとも週1回増量。最後から2番目の受診時までに糖尿病と診断されなかった患者ではglargineを10単位/日減量し,最終受診までにmetforminを中止。
標準治療群(6,273例):試験責任医師の判断とガイドラインに基づいた最善の治療を実施。糖尿病未診断で最終受診までに血糖降下薬を使用しなかった患者は,3~4週後に75g OGTTを実施。この検査で糖尿病と診断されない場合は10~12週後に再検査。
結果 (1) n-3脂肪酸 vs プラセボ
[アドヒアランス]
両群で同等(1年後96%,試験終了時88%)。
[一次エンドポイント]
n-3脂肪酸による心血管死の有意な抑制は認められなかった(n-3脂肪酸群574例[9.1%] vs プラセボ群581例[9.3%]:ハザード比0.98;95%信頼区間0.87~1.10, p=0.72)。
[二次エンドポイント]
n-3脂肪酸による主要血管イベント(MI,脳卒中,心血管死:1,034例[16.5%] vs 1,017例[16.3%]:1.01;0.93~1.10, p=0.81),全死亡(951例[15.1%] vs 964例[15.4%]:0.98;0.89~1.07, p=0.63),不整脈死(288例[4.6%] vs 259例[4.1%]:1.10;0.93~1.30, p=0.26)の抑制も認められなかった。
[脂質値などの変化]
n-3脂肪酸群ではトリグリセライドの低下が14.5mg/dL大きかったが(p<0.001),その他の脂質,血糖値,HbA1c,血圧,心拍数に対する効果は認められなかった。
[有害事象]
両群で同等であった。
★結論★心血管イベント高リスクの糖尿病またはIFG,IGT患者において,n-3脂肪酸1g/日の補給による心血管イベントの抑制効果は認められなかった。

(2) glargine vs 標準治療
[投薬状況と血糖値の変化]
glargine群では1年後に50%が空腹時血糖値≦94mg/dLを達成し,その後も維持。投与量は1年後0.31単位/kg~6年後0.40単位/kg(中央値),アドヒアランスは2年後90%,5年後85%。同群では最後から2番目の受診時に19%がglargineを中止しており,80%がインスリン,47%がmetforminを使用し,35%が経口血糖降下薬不使用であった。
標準治療群では試験終了時のインスリン使用率は11%,metforminは60%で,19%は経口血糖降下薬不使用。空腹時血糖値は123mg/dL(中央値)。
glargine群は標準治療群よりも空腹時血糖値(2年後:90mg/dL vs 119mg/dL),HbA1c(6.0% vs 6.3%)が低かった。
[一次エンドポイント]
非致死的MI+非致死的脳卒中+心血管死の発生率は両群で同等であった(glargine群2.94 vs 標準治療群2.85/100人・年:ハザード比1.02;95%信頼区間0.94~1.11, p=0.63)。非致死的MI+非致死的脳卒中+心血管死+血行再建術+心不全による入院の発生率も同等であった(5.52 vs 5.28/100人・年:1.04;0.97~1.11, p=0.27)。
[その他のエンドポイント]
ベースライン時に糖尿病でなかった1,456例(glargine群737例,標準治療群719例)における治療終了100日後(中央値)の糖尿病新規発症率は,30% vs 35%(オッズ比0.80;0.64~1.00, p=0.05)。
癌の発生率に群間差はなかったが(ハザード比1.00;0.88~1.13, p=0.97),体重はglargine群で1.6kg増加したのに対し,標準治療群では0.5kg減少した(中央値)。
[低血糖]
重症低血糖はglargine群のほうが多かった(1.00 vs 0.31/100人・年,p<0.001)。
★結論★空腹時血糖値≦95mg/dLを目標としたインスリンglargineの6年以上の追加投与は,心血管転帰にも癌の発生率にも影響を及ぼさなかった。glargine群は糖尿病の新規発症は減少したが,低血糖発生率が高く,体重もやや増加した。
ClinicalTrials gov. No: NCT00069784
文献
  • [main]
  • (1) The ORIGIN trial investigators: n-3 fatty acids and cardiovascular outcomes in patients with dysglycemia. N Engl J Med. 2012; 367: 309-18. PubMed
  • (2) The ORIGIN trial investigators: Basal insulin and cardiovascular and other outcomes in dysglycemia. N Engl J Med. 2012; 367: 319-28. PubMed
  • [substudy]
  • (2) 糖代謝異常患者におけるCVD,死亡の新規バイオマーカー-NT-proBNP,アンジオポエチン-2,グルタチオン-S-トランスフェラーゼαを含む最大15のマーカーを同定。
    多数のバイオマーカーを同時に測定できるマルチプレックスアッセイ法を用いて,心血管(CV)転帰のリスク予測能を高めるマーカーを探索した結果(バイオバンクに血液を保存した8,401例;平均年齢63.2歳,男性66%,CVイベント既往59%):237のマーカーと,1) 心筋梗塞,脳卒中,CV死(発症は1,405例),2) 1)+心不全による入院,血行再建術(2,435例),3) 全死亡(1,340例)の関連を解析。1)~3)の独立したマーカーとして,それぞれ10, 9, 15マーカーが同定され,全3項目に共通したのはNT-proBNP,アンジオポエチン-2,グルタチオン-S-トランスフェラーゼαだった。臨床因子に同定された因子を加えると,C統計量は全3項目で上昇したが,死亡の上昇がもっとも大きかった(0.64→0.71, 0.68, 0.75):Circulation. 2015; 132: 2297-304. PubMed
  • (2) 低血糖とCVD-重症低血糖はCVDリスク上昇と関連。低血糖リスクはglargine群のほうが高かったが,重症低血糖とCVDの関連はglargine群のほうが弱かった。
    低血糖と心血管疾患(CVD)の関連性を評価し,治療群による差があるかを検討した結果:低血糖発現≧1回は3,518例で,glargine群2,614例(74.3%),標準治療群904例(25.7%)。うち症候性で介助を要する重症低血糖(血糖値≦36mg/dL)はそれぞれ5.7%, 1.8%,非重症低血糖(≦54mg/dL)は41.7%, 14.4%。重症低血糖発生例は非発生例にくらべ高齢で(65.9 vs 63.5歳),女性が少なく(31 vs 35%),空腹時血糖値(135 vs 131mg/dL),HbA1c(6.6 vs 6.5%),SU薬使用率(38.4 vs 29.3%)が高かった。非重症低血糖でも,年齢を除き(63.1 vs 63.7歳)同様の傾向がみられた。
    重症低血糖は心血管(CV)死+非致死的心筋梗塞+非致死的脳卒中の複合エンドポイント(ハザード比[HR]1.58;95%信頼区間1.24~2.02, p<0.001),死亡(1.74;1.39~2.19, p<0.001),CV死(1.71;1.27~2.30, p<0.001),不整脈死(1.77;1.17~2.67, p=0.007)と有意に関連した。また,重症夜間(午前0~6時)低血糖と複合エンドポイント(1.64;1.01~2.65, p=0.044),死亡(1.64;1.04~2.58, p=0.033)にも同様の関連がみられた。一方,非重症低血糖と転帰には有意な関連は認められなかった。
    重症低血糖に関連するCVリスクは,glargine群のほうが標準治療群よりも低かった(複合エンドポイントのHR:それぞれ1.38, 2.39[交互作用p=0.047],死亡:1.34, 3.13[p<0.001],CV死:1.37, 2.89[p=0.016],不整脈死:1.24, 3.66[p=0.010])。この結果はSU薬の使用で調整後も変わらなかった。非重症低血糖と夜間重症低血糖では治療群の割付けの影響は認められなかった:Eur Heart J 2013; 34: 3137-44. PubMed

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収載年月2012.09
更新年月2016.03