循環器トライアルデータベース

NCDR PINNACLE
National Cardiovascular Disease Registry - American College of Cardiology's Practice Innovation and Clinical Excellence

目的 PINNACLE Registryは,American College of Cardiology(米国心臓学会)のNational Cardiovascular Disease Registry(NCDR)が循環器外来の質の改善を目的として2008年に開始した米国初の外来心疾患患者前向き登録で,患者の症状,バイタルサイン,投薬,臨床検査値,入院などのデータを,標準化されたデータ収集法を用いて,長期にわたり診療所ベースで収集する。2010年6月30日までに全米の30施設が登録されている。
本報では,NCDR PINNACLE Registryのデータを使用して,日常外来診療において閉塞性冠動脈疾患(CAD)患者がどの程度スタチンで治療されているかを検証する。

エンドポイントは,スタチンまたは非スタチン投与患者および脂質低下薬非投与患者の割合と,脂質低下薬非投与患者におけるLDL-C値の分布(LDL-C<100mg/dLまたは≧100mg/dL)。
コメント Circulation. 2011; 124: 2405-10. へのコメント
冠動脈疾患患者の二次予防におけるスタチンの有用性は周知の通りであるが,実臨床においてハイリスクの患者にどのくらいの割合で,LDL-Cがどの程度まで低下できているかは明らかではなく,一般には治療が不十分であると考えられている。しかし,従来の観察研究では狭心症などの不確かな冠動脈疾患患者が含まれているので,今回はPINNACLE registryの中でも確定されたハイリスク冠動脈疾患患者のみを対象としている。
結果としては,ハイリスク患者の5人に1人以上はスタチンが投与されておらず,6人に1人はどのような脂質低下療法も受けていなかった。これまでの小規模な研究では,冠動脈疾患患者の60-70%にスタチンが投与されていると報告されているが,本研究の確定されたハイリスク患者では80%近くに投与されており,日本の実情よりも良いと思われる。しかし,スタチンはLDL-Cレベルに依存せずに一定の割合で心血管イベントを低下させるという臨床結果からは,スタチンを投与されていない症例はLDL-Cレベルが100mg/dL以上だけでなく100mg/dL未満であっても全例にスタチンを投与すべきであるとの立場もありうる。ハイリスク患者でLDL-C 100mg/dL未満の症例のみにおいて,LDL-Cを層別化してスタチンの効果を検討するランダム化比較試験が必要である。
本研究の問題点としては,今回のregistryに入る外来施設は全米の中でも一部の特別な施設であるのでバイアスがかかっているかもしれない。また,非治療群の半数しかLDL-Cレベルが明らかではないので,実際にスタチンが投与されていない理由があいまいである。男性のほうがスタチン投与例が多いという結果は,女性にスタチンの副作用が出やすいことと関連するかもしれない。スタチンの種類や投与量とLDL-Cレベルのデータがあればより詳細な検討を加えることが出来るであろう。スタチン以外の脂質低下薬のみの投与例が5%に過ぎないことはスタチンの偉大さを物語っている。入院患者のDPCデータから医療の質を評価するように,外来レベルでの医療の質は日本でも大きな課題であり,LDL-C, HbA1c, eGFRなどの外来データの集積手段を全国レベルで考えるべきかもしれない。(星田
デザイン 登録研究,多施設(米国の24外来施設)。
期間 登録期間は2009年7月1日~2010年6月30日。
参加者 38,775例(17万9,608例中,CAD例は39,628例,うち18歳未満,CAD患者が10人未満の施設,スタチン禁忌例などを除外)。18歳以上のスタチンが禁忌でない閉塞性CAD(心筋梗塞[MI],PCIまたはCABG既往例)の外来患者。
■患者背景:平均年齢(スタチン群68.0歳,スタチン非投与群67.0歳)*,男性(67.5%, 54.8%)*,白人(89.0%, 87.9%;p=0.05),健康保険(民間:58.6%, 59.9%;公的:35.0%, 34.0%), 閉塞性CAD:MI既往(36.6%, 39.9%)*;12か月以内のPCI(32.8%, 25.3%)*;12か月以内のCABG(28.1%, 31.7%)*,心不全(18.1%, 16.3%)*,糖尿病(27.4%, 20.5%)*,高血圧(75.6%, 66.6%)*,脂質異常症(80.7%, 53.8%)*,末梢動脈疾患(8.1%, 5.9%)*,喫煙(現在:13.6%, 13.0%*;過去:45.7%, 38.7%),BMI(29.7kg/m², 29.2kg/m²)*,心房細動(15.4%, 19.8%)*
* p<0.001。
調査方法 患者の年齢,性別,人種,医療保険(民間,公的),既往(MI,PCI,CABG,脳卒中),心不全,糖尿病,高血圧,脂質異常症,末梢動脈疾患,喫煙状況,BMI,心房細動などの情報を収集。PINNACLE Registryは日常診療データを収集するものであるため,合併症に関するデータはすべて医療記録の一環として医師から報告されたもの。
結果 [スタチン投与率]
スタチン投与群は30,160例(77.8%)で, このうちスタチンのみの投与例は23,719例,スタチン+スタチン以外の脂質低下薬併用例は6,441例(16.6%)。
スタチン非投与群は8,615例(22.2%)で,このうちスタチン以外の脂質低下薬投与例は2,042例(5.3%),6,573例(17.0%)は無治療であった。
[スタチン投与に関連する因子]
多変量hierarchical modified Poisson回帰モデルにおいて,保険未加入者はスタチン投与の可能性が低かった(民間保険加入者と比較した調整後の相対リスク:0.94, 95%信頼区間0.89~1.00;p=0.039)。一方,スタチンを投与される可能性が高かったのは,男性(1.10, 1.07~1.13;p<0.001),高血圧合併(1.07, 1.02~1.12;p=0.003),CABG既往(1.09, 1.05~1.14;p<0.001),PCI既往(1.11, 1.06~1.16;p<0.001)であった。
[無治療例のLDL-C分布]
無治療患者のうちLDL-C値が得られたのは3,365/6,573例(51.2%)。このうち,LDL-C<100mg/dLは1,794例(53.3%),≧100mg/dLは1,571例(46.7%)であった。
★結論★閉塞性CADの外来患者において,ガイドラインに基づいたスタチン治療を受けていたのは78%,スタチン以外の脂質低下薬投与患者は5%のみであった。残りの17%は無治療で,このうち半数がLDL-C≧100mg/dLにもかかわらず治療を受けていなかった。

[主な結果]
  • Arnold SV et al: Statin use in outpatients with obstructive coronary artery disease. Circulation. 2011; 124: 2405-10. PubMed
  • 脳卒中リスク中等度~高度の外来AF患者のうち約4割はガイドライン推奨のOACではなく,aspirin単剤処方。関連因子はアテローム性CAD関連疾患。
    2008~’12年に登録された心房細動(AF)患者のCHADS2スコア≧2コホート(21万380例),CHA2DS2-VAScスコア≧2コホート(29万4,962例)のうち,それぞれ38.2%, 40.2%がaspirin単剤投与例,その他がガイドライン推奨の経口抗凝固薬(OAC)投与例。多変量解析でaspirin単剤投与と関連した因子は,高血圧,脂質異常症,冠動脈疾患(CAD),心筋梗塞既往,狭心症,最近のCABG施行,末梢動脈疾患。一方,OAC投与率が高かったのは,男性,BMI高値,脳卒中・一過性脳虚血発作既往,全身性塞栓症既往,うっ血性心不全(Hsu JC et al: Aspirin instead of oral anticoagulant prescription in atrial fibrillation patients at risk for stroke. J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 2913-23.)。 PubMed
  • 一次予防でのaspirin不適切投与例-10人に1人以上(11.6%)で,施設間のばらつきが大きい。
    一次予防でのaspirinの不適切投与(10年CVDリスク<6%例への投与)の頻度と施設間差を検証した結果(68,808例・87施設):2008~’13年にaspirinを一次予防投与された外来患者から他の抗血小板薬併用例を除外した25万4,339例のうち,Framinghamリスク算出が可能だったものを解析。aspirinの不適切投与は7,972例(11.6%;女性16.6%,男性5.3%),’08年の14.5%から’13年の9.1%に減少。不適切投与例は適切投与例より若く(49.9 vs 65.9歳),男性,糖尿病,高血圧,脂質異常症,喫煙者が有意に少なかった。
    施設レベルでの不適切投与は中央値10.1%で,大きなばらつきがみられた(範囲0~71.8%,調整後median rate ratio 1.63[>1.2で有意なばらつき])。不適切投与率が中央値より低い施設は高い施設にくらべ医師や医療従事者の数が少なく,研究参加期間が短かった。≧65歳女性(21,052例),糖尿病(14,097例),スタチン投与例(40,893例)を除外した感度分析の結果も同様であった(Hira RS et al: Frequency and practice-level variation in inappropriate aspirin use for the primary prevention of cardiovascular disease: insights from the National Cardiovascular Disease Registry's Practice Innovation and Clinical Excellence Registry. J Am Coll Cardiol. 2015; 65: 111-21.)。 PubMed
  • JNC-8の血圧治療への影響-JNC-7の目標血圧未達成の外来高血圧患者のうち,およそ7人に1人がJNC-8の目標を達成すると推定されるが,これらはCVDリスクが高い。
    2014年に発表された米国合同委員会の第8次報告による高血圧ガイドライン(Eighth Joint National Committee: JNC-8)では,60歳以上の目標血圧が<140/90mmHgから<150/90mmHgへ,糖尿病・慢性腎臓病合併患者も<130/80mmHgから<140/90mmHgへ引き上げられた。これらの変更が循環器外来診療に及ぼす影響を検討するため,2008~’12年に登録された18歳以上の高血圧患者において,2003年発表のJNC-7とJNC-8の目標血圧達成率を比較した結果(118万5,253例):JNC-7の目標達成例は70万6,859例(59.6%),JNC-8は88万378例(74.3%)。目標血圧が変更されなかった60歳未満(非糖尿病)例では,目標達成率も変化しなかったが(JNC-7,8ともに19万5,200例[68%]),60歳以上のJNC-7,-8の目標達成例はそれぞれ38万5,779例(66.9%),46万6,002例(80.8%),糖尿病合併例では39.2%, 68.2%。
    JNC-7の目標未達成でJNC-8の目標は達成した17万3,519例(14.6%)の特徴をみると,23.2%に脳卒中/一過性脳虚血発作,64.6%に冠動脈疾患の既往があり,フラミンガムリスクスコアは8.5%,10年アテローム性心血管疾患リスクスコアは28%であった(Borden WB et al: Impact of the 2014 Expert Panel Recommendations for Management of High Blood Pressure on Contemporary Cardiovascular Practice: Insights From the NCDR PINNACLE Registry. J Am Coll Cardiol. 2014; 64: 2196-203.)。 PubMed
  • 2013年のACC/AHA脂質治療ガイドライン改訂の影響-現スタチン非投与例の32.4%がスタチン推奨例に,LDL-Cを≧2回測定した20.8%が測定不要になると推定。
    2013年発表の脂質治療ガイドラインでは,治療標的がそれまでのLDL-C値からリスク(アテローム性心血管疾患[ASCVD],未治療でのLDL-C≧190mg/dL,糖尿病,10年CVDリスク≧7.5%)に変更され,これに伴い非スタチン薬治療が推奨から除外され,LDL-Cを治療目標としないためLDL-Cの頻回測定も不要となった。この改訂が外来治療およびLDL-C測定パターンに及ぼしうる影響を,2008~’12年に登録された18歳以上の患者データから推定した結果(117万4,545例;平均年齢65.2歳,男性54.5%):改訂ガイドラインを適用すると,スタチン推奨例は112万9,205例(96.1%)。このうちASCVD例91.2%,非ASCVDの糖尿病例6.6%,非ASCVD・非糖尿病の未治療LDL-C≧190mg/dL例 0.3%,推定10年CVDリスク≧7.5%例1.9%。10年リスク中央値はそれぞれ20.6%, 16.2%, 12.5%, 13.8%。
    スタチン推奨例から脂質低下治療禁忌例を除外した116万4,497例のうち,スタチン非投与例は37万7,311例(32.4%;脂質治療なし29.3%,非スタチン薬投与3.1%),スタチン投与例は48.7%,スタチン+非スタチン薬投与例は19.5%で,スタチン以外の治療例は22.6%であった。登録期間中のLDL-C測定は≧2回が20.8%,>4回が7.0%(Maddox TM et al: Implications of the 2013 ACC/AHA Cholesterol Guidelines for Adults in Contemporary Cardiovascular Practice: Insights From the NCDR PINNACLE Registry. J Am Coll Cardiol. 2014; 64: 2183-92.)。 PubMed

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収載年月2012.03
更新年月2016.11