循環器トライアルデータベース

UK TAVI Registry
United Kingdom Transcatheter Aortic Valve Implantation

目的 経カテーテル的大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)後の短期臨床転帰については多くのデータがあるが,1年を超えるデータは乏しい。英国は,2007年に最初のTAVI候補症例が確認されたのと同時に,TAVIの実践と普及を監視するためのナショナルプログラムを立ち上げた。本研究では,このプログラムに登録された患者データを用いて,臨床現場でのTAVI施行患者の特徴を明確にし,中~長期の臨床転帰を評価した。

エンドポイントは生存。
コメント J Am Coll Cardiol. 2011; 58: 2130-8へのコメント
重症大動脈弁狭窄症(AS)の手術では人工弁置換術(AVR)が行われるが,高齢・冠動脈疾患合併・左室機能高度低下・腎不全・呼吸不全・脳血管障害・末梢動脈疾患では手術リスクは高くなる。2002年に初めて人に応用されたTAVIは高リスクのAS症例に急速に広がりつつあり,AVRの代替治療となっている。外科手術が適さない非常に高リスクのAS例でTAVIと内服治療(バルーン大動脈弁形成術を含む)を比較したPARTNERコホートB trialでは,TAVIのほうが1年後の臨床転帰は良いが脳卒中と主要血管合併症が多かった。重症AS手術適応例でTAVIとAVRを比較したPARTNERコホートA trialでは,TAVIはAVRと1年後の予後では非劣性であったが,TAVIのほうが脳卒中のリスクが高かった。
これらの結果は限られた施設でSAPIENのみを用いて行われているため,本研究では多施設でアクセスルート別に2つの製品を用いた英国でのすべての症例の臨床転帰を中期で検討している。30日後の死亡率は7.1%であり,これまでの他の報告(5.0-12.7%)と遜色はなく,特に2009年だけでみると4.3%へと低下している。非経大腿アプローチ群では他の報告と同様に経大腿アプローチ群より予後は悪いが,より高リスク症例が含まれることに起因している。他のTAVI報告や80歳代のAVR例と同様に,術後30日から1年目までに死亡率は急速に高くなるが,1-2年目の間では死亡率は5%ぐらいに保たれている。リスク層別では,logistic EuroSCOREが0~20と21~40で死亡率は変わらず,40以上では30日後の予後は変わらないが30日~6ヵ月で25%が死亡している。どのような高リスク例が予後不良かは多変量解析の結果(左室駆出率30~49%,中等度~高度の大動脈弁閉鎖不全症(AR),COPDのみが独立して予後と関連)が参考になると思われる。ただし,TAVI後には左室駆出率の低下は改善する可能性があること,COPDが高度であれば症状がASに由来するのかCOPDに由来するかの判別が困難であることに留意する必要がある。
CoreValveではペースメーカーが必要となる率が高いが,左室流出路にステントがあたり左脚ブロックを生じやすいので,右脚ブロックの例では要注意である。AVR後でも問題となる弁周囲からのARがTAVIの予後と関連しているが,ARそのものが予後に関与しているのか何らかのマーカーとなっているのかは明らかではない。CoreValveのほうがARの発生が多いが,ARの頻度や程度の軽減のために操作技術上も弁のデザイン上も改善が望まれる。経大腿アプローチでは主要血管合併症を減らすことも今後の課題である。TAVI後のMRI検査では84%に無症候性脳血管障害を認めるとの報告があり,塞栓予防デバイスが有用かもしれないが,この合併症のため低リスクAS症例へのTAVI応用が問題となっている。しかし,実臨床では低リスクAS例でのTAVIとAVRのランダム化試験が望まれている。(星田
デザイン 登録研究,多施設(英国の25施設)。
期間 追跡期間は11~46か月(2010年12月12日まで)。
登録期間は2007年1月~’09年12月31日。
参加者 870例(TAVI 877件)。重症大動脈弁狭窄のためTAVIを実施した高リスク例。
■患者背景:[全例]平均年齢81.9歳,男性52.4%,最大圧較差80.9mmHg,EF≧50%:64.0%,EF 30~49%:27%,EF<30%:9.0%,NYHA心機能分類III/IV度77.0%,冠動脈疾患(CAD)47.6%,心臓手術歴30.4%,末梢血管疾患(PVD)29.0%,糖尿病22.8%,慢性閉塞性肺疾患(COPD)28.7%,クレアチニン>2.26mg/dL 6.7%,logistic EuroSCORE* 18.5。
* EuroSCOREのロジスティック回帰版で予測死亡率を示す。
[アプローチ別]症例数(経大腿アプローチ群599例,非経大腿アプローチ群271例),NYHA III/IV度(73.9%, 84.0%;p=0.001),CAD(43.4%, 57.1%;p<0.001),心臓手術歴(27.3%, 37.1%;p=0.003)CAD(44.5%, 51.6%;p=0.04),PVD(19.5%, 48.7%;p<0.001),クレアチニン>2.26mg/dL(5.4%, 9.4%;p=0.03),logistic EuroSCORE(17.1, 21.4;p<0.001)。
[製品別]症例数(CoreValve群452例,SAPIEN群410例;不明8例),平均年齢(81.3歳,82.6歳;p=0.007),最大圧較差(83.4mmHg, 77.5mmHg;p=0.003),NYHA III/IV度(73.9%, 80.3%;p=0.03),CAD(44.5%, 51.6%;p=0.04),PVD(25.8%, 32.4%;p=0.04)。
調査方法 現在欧州で市販されているTAVIデバイスは,SAPIEN,CoreValveの2種類。SAPIENは経大腿アプローチ(2007年11月承認)または経心尖アプローチ(2008年1月承認),CoreValve(2007年5月承認)は経大腿,鎖骨下アプローチ,もしくはまれに直接大動脈アクセスで実施。
参加施設は治療を行った全例のデータを前向きに(データベース構築前の治療例は後ろ向きに)収集し,ウェブベースのデータ入力システムCentral Cardiac Audit Databaseに提出。死亡の追跡はNational Health Service(NHS)Central Registerにより実施。周術期~手技後の合併症は自己報告。
結果 死亡の追跡率は100%。
TAVI施行率は2007年66例,2008年273例,2009年538例と年々増加した。
1施設あたりのTAVI実施数は24例(中央値)。
[手技成績]
手技成功は846例(97.2%)。植込み不成功は8例,緊急大動脈弁置換術への切り替えはSAPIEN群の6例(0.7%)のみで,いずれも経心尖アプローチであった。
[生存率]
生存率の推移は,30日後92.9%→ 1年後78.6%→ 2年後73.7%。
SAPIEN群(死亡率:8.5 %→ 20.6%→ 28.3%)とCoreValve群(5.8%→ 21.7%→ 23.9%)の有意な群間差は認められなかった。
経大腿アプローチ群は非経大腿アプローチ群と比較して死亡率が低かった(5.5% vs 10.7%[p=0.006]→ 18.5% vs 27.7%[p=0.002]→ 22.5% vs 36.7%[p<0.001])。
[死亡の予測因子]
多変量モデルで1年後の死亡を有意に予測した因子は,EF 30~49%(ハザード比[vs EF≧50%]1.49;95%信頼区間1.03~2.16, p=0.03),中等度/重度の大動脈弁逆流(1.66;1.10~2.51, p=0.016),COPD(1.41;1.00~1.98, p=0.05)であった。
[リスク別解析]
logistic EuroSCORE 0~20,21~40,>40の3群で比較すると,1年後の生存率は0~20群と21~40群には差を認めなかったが,>40(高リスク群)は有意に低かった。
[合併症]
30日後の脳卒中は4.1%,心筋梗塞は1.3%。
経大腿アプローチ群は非経大腿アプローチ群にくらべて,中等度/重度の大動脈弁逆流(15.6% vs 9.1%, p=0.01),主要血管合併症(8.4% vs 1.9%, p<0.001)が多かった。
CoreValve群はSAPIEN群にくらべて,中等度/重度の大動脈弁逆流(17.3% vs 9.6%, p=0.001),手技再施行(1.6% vs 0%, p=0.02[Fisher正確確率検定]),新規の永久ペースメーカー植込み(24.4% vs 7.4%, p<0.001)が多かった。
[その他]
監督者の有無や,各施設における最初の20例 vs それ以降の症例による生存率の差は認められなかった。
★結論★重症大動脈弁狭窄の高リスク例において,TAVI施行30日後の生存率は良好であったが,その後1年後までに生存率は大きく低下した。

[主な結果]
  • Moat NE et al: Long-term outcomes after transcatheter aortic valve implantation in high-risk patients with severe aortic stenosis: the U.K. TAVI (United Kingdom transcatheter aortic valve implantation) registry. J Am Coll Cardiol. 2011; 58: 2130-8 PubMed
    Vahanian A et al: Transcatheter aortic valve implantation: a snapshot from the United Kingdom. J Am Coll Cardiol. 2011; 58: 2139-40. PubMed
  • TAVI施行の推移-6年間で患者背景の大きな変化はないが,長期転帰は改善。
    2007~’12年までのTAVI登録データから患者背景,手技,合併症,転帰の経時的変化と死亡予測因子を検証した結果(3,980件;追跡期間6年):年間施行件数は6年間で360→1,271件まで年々増加。年齢,性別,危険因子などの患者背景は変わらず,左室機能障害例での実施が増えたが,EuroSCORE(21.9%)は同等。使用弁はSapienが年々増加(36.7→55.6%),アクセス部位は大腿が71.2%ながら非大腿が徐々に増加。脳卒中・末梢血管疾患既往での実施は減少。入院期間は短縮した(5日目までの退院:16.7→28.5%)。
    30日死亡率は6.3%で,’07~’08年が最も高く(9.7%),以後は約6%に低下。生存率は1年後の81.7%から6年後37.3%まで低下。4年生存率は近年のコホートで増加(’09年55%,’11年65%)。手技合併症の脳卒中(3.6→2.4%),重大な血管損傷(5.2→2.6%)は減少し,手技後の大動脈弁逆流の経時的変化はみられなかった。
    30日後の死亡の予測因子はlogistic EuroSCORE≧40のみ。長期死亡の予測因子は手技前の心房細動,慢性閉塞性肺疾患,クレアチニン>200μmol/L,糖尿病,冠動脈疾患で,最も強く関連した手技関連因子は周術期脳卒中。非大腿アクセス,手技後の大動脈弁逆流も有害転帰と有意に関連した(Ludman PF et al on the behalf of the UK TAVI steering committee and the National Institute for Cardiovascular outcomes research: Transcatheter aortic valve implantation in the United Kingdom: temporal trends, predictors of outcome, and 6-year follow-up: a report from the UK transcatheter aortic valve implantation (TAVI) registry, 2007 to 2012. Circulation. 2015; 131: 1181-90) PubMed

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収載年月2012.03
更新年月2015.05