循環器トライアルデータベース

ATLAS ACS 2 -TIMI 51
Anti-Xa Therapy to Lower Cardiovascular Events in Addition to Standard Therapy in Subjects with Acute Coronary Syndrome-Thrombolysis in Myocardial Infarction 51

目的 発症から間もない急性冠症候群(ACS)患者において,標準治療に直接第Xa因子阻害薬リバーロキサバン(rivaroxaban)低用量を追加した場合の有効性を検証する。

有効性の一次エンドポイントは,心血管死+心筋梗塞(MI)+脳卒中(脳梗塞,脳出血,原因不明の脳卒中)の複合エンドポイント。
安全性の一次エンドポイントは,CABG非関連のTIMI 大出血。
コメント 急性冠症候群(ACS)は,冠動脈硬化に基づくプラーク形成・破綻と,それに続く血栓塞栓症がその病態と考えられている。前者には抗血小板薬が,また後者には抗凝固薬が有効であると期待され,これまでも抗血小板薬とヘパリン(heparin)が広く用いられてきた。しかし,長期投与を考えるとheparinに代わってワルファリン(warfarin)が有用であるが,事実アスピリン(aspirin)とwarfarinの併用がaspirin単独より優れていることがメタ解析で報告されている。キシメラガトラン(ximelagatran)を用いたESTEEM試験でもaspirinとの併用がaspirin単独より優れていることが示された。したがって,今回のATLAS ACS 2-TIMI 51試験も期待通りの優越性が得られたが,一方で懸念された出血の増加は,リバーロキサバン(rivaroxaban)の少量投与により最小限に抑えられているといえる。
しかし何にもまして興味深いのは,2.5mg1日2回少量投与群で心筋梗塞,脳卒中はほとんど減少していないのに,心血管死,死亡が減少していることである。これは,心筋梗塞として認識されない微小冠血管の血栓塞栓症が少量のrivaroxaban投与で抑制されたことによるのかもしれない。死亡の多くは突然死であることがこの仮説を支持する。病態形成にかかわる仮説は今後検証されていくと考えられるが,少量投与の有用性はATLAS ACS-TIMI 46やRUBY-1試験で示唆されており,新しい治療局面を開く試験に位置付けられるものと考えられる。しかし,本試験でよく認識しておかねばならないことは,古典的な心筋梗塞や脳梗塞の抑制には少量の抗凝固薬は非力であることであり,今回の成績はそれらと異なる病態抑制で得られていくことであろう。(
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(日本を含む44か国766施設),modified intention-to-treat(mITT)解析。
期間 平均治療期間は13.1か月。
実施期間は2008年11月~2011年9月。
対象患者 15,526例。18歳以上のACSが疑われる症状で,ST上昇型(STEMI)・非ST上昇型MI(NSTEMI),不安定狭心症と診断されているもの;55歳未満の場合は糖尿病を合併しているか,MI既往を有するものとした。
除外基準:血小板数<9万/mm³;ヘモグロビン値<10g/dL30mL/分;クレアチニンクリアランス<30mL/分;12か月以内の臨床的に重大な消化管出血発生例;頭蓋内出血歴など。
■患者背景:平均年齢(rivaroxaban 2.5mg×2回/日群61.8歳,5mg×2回/日群61.9歳,プラセボ群61.5歳);≧65歳(36.8%, 37.1%, 35.5%),男性(74.9%, 74.2%, 75.0%),白人(73.4%, 73.7%, 73.3%),クレアチニンクリアランス(中央値:85.1mL/分,84.8 mL/分,85.6 mL/分)。
既往:MI(26.3%, 27.1%, 27.3%),高血圧(67.1%, 67.6%, 67.5%),糖尿病(32.3%, 31.8%, 31.8%),高コレステロール血症(48.3%, 49.1%, 48.2%)。
ACSの診断:STEMI(50.3%, 49.9%, 50.9%),NUSTEMI(25.5%, 25.8%, 25.6%),不安定狭心症(24.2%, 24.3%, 23.6%),PCI,CABG施行(60.6%, 60.3%, 60.4%)。
治療状況:aspirin(98.7%, 98.5%, 98.7%),チエノピリジン系薬剤(92.6%, 93.0%, 92.9%),β遮断薬(66.2%, 65.6%, 66.5%),ACE阻害薬/ARB(39.1%, 38.2%, 39.6%),スタチン(83.2%, 83.9%, 83.5%)。
参加地域:東欧(39.5%, 39.1%, 38.8%),アジア(21.0%, 20.2%, 20.5%),西欧(13.7%, 15.0%, 14.7%),南米(10.6%, 11.3%, 10.4%)。
治療法 入院から7日以内の患者で初期治療(血行再建など)が終了し状態が安定しているものを,投与を予定しているチエノピリジン系薬剤で層別後にランダム化。
rivaroxaban 2.5mg×2回/日群(5,174例),5mg×2回/日群(5,176例),プラセボ群(5,176例)。
全例,参加国あるいは地域のガイドラインに基づき低用量aspirin,チエノピリジン系薬剤(clopidogrelあるいはticlopidine)などの標準治療を行うこととした。
結果 試験薬を1回以上服用した患者のうち服用中止例は,2.5mg×2回/日群26.9%,5mg×2回/日群29.4%,プラセボ群26.4%。rivaroxaban群の中止理由の大半は有害事象と患者の選択であった。
治療期間中のコンプライアンス85%以上はそれぞれ93.9%, 94.0%, 94.6%,同意撤回は,8.7%, 8.5%, 7.8%。
[一次エンドポイント:心血管死+MI+脳卒中の複合エンドポイント]
rivaroxaban群はプラセボ群に比べ有意に抑制した:8.9% vs 10.7%(ハザード比0.84;95%信頼区間0.74~0.96, p=0.008, mITT)。
同群の有効性はintention-to-treat解析でも認められた(p=0.002)。
また有効性は両用量とも認められた(2.5mg×2回/日群:9.1% vs 10.7%, p=0.02; 5mg×2回/日群:8.8% vs 10.7%, p=0.03)。
[その他のイベント]
2.5mg×2回/日群で心血管死(2.7% vs 4.1%, p=0.002),死亡(2.9% vs 4.5%, p=0.002)の有意な抑制効果が認められたが,5mg×2回/日群では認められなかった。
[安全性]
rivaroxaban群でプラセボ群に比べCABG非関連のTIMI大出血(2.1% vs 0.6%, p<0.001),頭蓋内出血(0.6% vs 0.2%, p=0.009)リスクが増大した。
致死的出血(0.3% vs 0.2%, p=0.66),出血に関連しない有害事象の有意な増加はみられなかった。
2.5mg×2回/日群は5mg×2回/日群より致死的出血リスクが低かった(0.1% vs 0.4%, p=0.04)。
★結論★最近発症したACSにおいて,rivaroxabanは心血管死+MI+脳卒中の複合エンドポイントを抑制した。同群では大出血,頭蓋内出血リスクが増大したが,致死的出血リスクの上昇はみられなかった。
ClinicalTrials. Gov No: NCT00809965
文献
  • [main]
  • Mega JL et al for the ATLAS ACS 2–TIMI 51 Investigators: Rivaroxaban in Patients with a Recent Acute Coronary Syndrome. N Engl J Med. 2012; 366: 9-19. PubMed
    Roe MT and Ohman EM: A New Era in Secondary Prevention after Acute Coronary Syndrome. N Engl J Med. 2012; 366: 85-7. PubMed
  • [substudy]
  • rivaroxabanとステント血栓症-2.5mg×2回/日投与群で有意に低かった。
    ステント植込み歴(登録前の植込み例,発症時の植込み例)のある9,631例(63%):rivaroxaban群(6,433例;2.5mg×2回群[以下2.5mg群]+5mg×2回群[以下5mg群]),プラセボ群(3,198例)において,rivaroxabanのステント血栓症(ARC定義のdefinite, probable)に対する影響を評価した結果:平均年齢はrivaroxaban群のほうがプラセボ群より高かった(61.7 vs 61.1歳,p<0.001)。
    2年後のステント血栓症推定累積発生率はrivaroxaban群のほうがプラセボ群より低かった(1.5% vs 1.9%:ハザード比0.65;95%信頼区間0.46~0.93,mITT解析でp=0.017;ITT解析でp=0.008)。
    用量別では2.5mg投与群で有意に低かったが(1.5% vs 1.9%, p=0.023),5mg群では有意差はみられなかった(1.5% vs 1.9%, p=0.089)。
    2年後の心血管死の推定累積発生率も2.5mg群で有意に低かった(1.35% vs 2.27%:0.56;0.35~0.89, p=0.014;p=0.039):J Am Coll Cardiol. 2013; 62: 286-90. PubMed
  • ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者におけるrivaroxaban-心血管イベントが低下したが,TIMI大出血が増加。
    STEMI患者 7,817例(発症からランダム化までの時間は4.7日[中央値];aspirin投与98.8%,チエノピリジン系薬剤96.8%)における一次エンドポイントの2年Kaplan-Meier推定結果:rivaroxaban群はプラセボ群よりも心血管死+MI+脳卒中の複合一次エンドポイントが低下した(ITT解析:8.4% vs 10.6%, 0.81;0.67~0.97, p=0.019,mITT解析:8.3% vs 9.7%, 0.85;0.70~1.03, p=0.09)。この低下は30日以内にみられ始め,2剤併用抗血小板療法例でのイベントを含めた解析でも明らかであった。2.5mg×2回/日投与群では心血管死が低下したが(ITT解析でp=0.006,mITT解析でp=0.006),5mg×2回/日投与群での低下はみられなかった。rivaroxaban群ではCABGに関連しないTIMI大出血(2.2% vs 0.6%, p<0.001),頭蓋内出血(0.6% vs 0.1%, p=0.015)が増加したが,致死的出血の有意な増加はなかった:J Am Coll Cardiol. 2013; 61: 1853-9. PubMed

▲pagetop
EBM 「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収載年月2011.11
更新年月2013.06