循環器トライアルデータベース

TOPICS 3
Toranomon Hospital Health Management Center Study 3

目的 米国糖尿病学会(ADA)ガイドラインでは前糖尿病者に対する早期治療を推奨しており,前糖尿病の診断基準として従来の空腹時血糖異常(IFG:空腹時血糖[FPG]101~124mg/dL[5.6~6.9mmol/L])に加え,新たにHbA1c 5.7~6.4%(Japan Diabetes Society[JDS]値5.3~6.0%)を採用した。しかし,HbA1c値の前糖尿病の同定能はまだ議論のあるところである。また,前糖尿病者の検出率における人種による差も示されており,欧米人以外の集団での有用性は確立されていない。
日本人の非糖尿病者において,IFG基準とHbA1c基準を適用した場合の前糖尿病有病率の違いと,各基準による前糖尿病者における診断後5年間の糖尿病新規発症率を評価した。
コメント 現在の前糖尿病(prediabetesの直訳で日本ではこのような定義はないが,ADAでは将来,糖尿病になるリスクの高い耐糖能状態を指して使っている。境界型に近いが同じではない。)を診断するのにHbA1cと空腹時血糖値のどちらを用いるのが良いかはこれまで論争が続いている。HbA1cは空腹時採血を必要とせず,1ポイントの採血でスクリーニングが容易であることから,空腹時血糖値による診断に比して日常の診断に用いる場合に優れているといえよう。しかし,今回の研究では,ADAから提唱されたprediabetesの定義,HbA1c値5.7-6.4%(これは国際標準値。現在わが国で用いているJDS値5.3-6.0%に相当する)とIFGのいずれかで前糖尿病と診断された2092名のうち実に60.7%にあたる1270名はHbA1cによっては診断されなかったという結果が報告された。さらに糖尿病の新規発症率を見ても,HbA1c,IFGいずれの定義による前糖尿病患者でも差がなかった。しかし,この両者を使用するとかなりその検出率が上がることも示されたことから,現在の日本における糖尿病の診断基準と同様,前糖尿病の診断にはHbA1cおよび血糖値の両方を確認することがより精度が高いことを示すことが再確認されたと考えてよいだろう。(弘世
デザイン コホート研究,単施設(東京・虎の門病院)。
期間 平均追跡期間は4.7年。
対象 6,241人。定期健診の初回実施が1997~2003年で,その後4~5年間毎年続けて受けている24~82歳の非糖尿病者(糖尿病基準:FPG≧126mg/dL,医師による糖尿病診断を受けたとの患者申告,HbA1c≧6.5%)。おもに健康な公務員。
■患者背景:平均年齢49.9歳,男性75%,非喫煙者54%,過去喫煙者24%,BMI≧25.0kg/m²;19%,高血圧21%,脂質異常症31%,既往:冠動脈疾患1%;脳卒中<1%。
HbA1cのみによる診断例は,IFGのみによる診断例に比べて,女性が多く(32%, 9%),高齢で(54.3歳, 49.9歳),高血圧者が少なく(123/75mmHg, 130/80mmHg),BMIが低く(22.9kg/m², 23.5kg/m²),トリグリセライド(118mg/dL, 127mg/dL),尿酸(334.5μmol/L, 349.1μmol/L),HDL-C(51.4mg/dL, 54.9mg/dL),γGTP(50.3U/L, 63.8U/L)が低く,白血球数が多かった(5.5×109/L, 5.3×109/L)。
調査方法 IFG基準またはHbA1c基準の組み合わせにより,被験者を血糖正常者(HbA1c<5.7%, FPG<101mg/dL),IFGのみによる前糖尿病者(HbA1c<5.7%, FPG 101~124mg/dL),HbA1cのみによる前糖尿病者(HbA1c 5.7~6.4%, FPG<101mg/dL),HbA1c+IFGによる前糖尿病者(HbA1c 5.7~6.4%, FPG 101~124mg/dL)の4群に分類。HbA1c値はNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP値:JDS値+0.4%)に変換。
各群における糖尿病発症率を毎年評価。
結果 [前糖尿病の有病率]
血糖正常者は4,149人。いずれかの基準で前糖尿病と判定された人は2,092人で,このうちHbA1cのみによる診断例は412人,IFG のみによる診断例は1,270人,HbA1c+IFGによる診断例は410人であった。HbA1cのみの診断では全体の61%(1,270人)が見落とされた。
[糖尿病新規発症率]
糖尿病発症率に診断基準による差はみられなかった(Kaplan-Meierによる累積発症率:HbA1cのみによる診断例7%[30/412人] vs IFGのみによる診断例9%[108/1,270人],log-rank検定p=0.3317)。
血糖正常者と比較した多変量調整後の糖尿病発症ハザード比は,IFGのみによる診断例が6.16(95%信頼区間4.33~8.77),HbA1cのみによる診断例が6.00(3.76~9.56)と同等で,HbA1c+IFGによる診断例では31.9(22.6~45.0)に増加した。
★考察★前糖尿病の診断基準としてHbA1cと従来のIFGを組み合わせることにより,糖尿病の新規発症リスクが高い症例が特定された。HbA1c基準により前糖尿病を特定された患者はIFGにより特定された患者よりも少なかったが,両基準の糖尿病新規発症予測能は同等であった。両基準を組み合わせることで,糖尿病発症リスクがもっとも高い症例を標的とした早期介入の可能性が示された。
文献
  • [main]
  • Heianza Y et al: HbA1c 5.7%-6.4% and impaires fasting plasma glucose for diagnosis of prediabetes ans risk of progression to diabwtes in Japan (TOPICS 3): a longitudinal cohort study. Lancet. 2011; 378: 147-55. PubMed
    Misra A and Garg S: HbA1c and blood glucose for the diagnosis of diabetes. Lancet. 2011; 378: 104-6. PubMed

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収載年月2011.06