循環器トライアルデータベース

UKPDS 81
UK Prospective Diabetes Study 81

目的 UKPDS 38試験(BMJ. 1998; 317: 703-13. PubMed)では,高血圧を合併した新規診断2型糖尿病患者において,ACE阻害薬またはβ遮断薬による早期の厳格な降圧により通常の血圧管理に比べて糖尿病関連エンドポイント,糖尿病関連死,脳卒中,細小血管障害のリスクが有意に抑制された。この効果が介入終了後も長期にわたり持続するかどうかを検証するため,同試験終了後さらに10年間の追跡を行った。
エンドポイントは次の7項目:糖尿病関連エンドポイント(突然死,高血糖・低血糖による死亡,致死的・非致死的心筋梗塞[MI],狭心症,心不全,致死的・非致死的脳卒中,腎不全,切断,硝子体出血,網膜光凝固治療,片眼失明,白内障摘出),糖尿病関連死(MI死,脳卒中死,末梢血管疾患死,腎疾患死,高血糖・低血糖による死亡,突然死),全死亡,MI(突然死,致死的・非致死的MI),致死的・非致死的脳卒中,末梢血管疾患(指1本以上の切断または末梢血管疾患死),細小血管障害(硝子体出血,網膜光凝固治療,腎不全)。
コメント ■コメント 弘世 貴久
■コメント 桑島 巌

糖尿病関連合併症の予防に血圧コントロールが重要ではあるが,その効果には「legacy effect(遺産効果)」はなかった。ある一定の期間血糖値を厳格にコントロールすることによって生涯にわたる合併症抑制効果が認められたUKPDS 80の結果に対して血圧は生涯かけて治療を続けないとせっかくの効果は水泡に帰する。なぜ血糖と血圧の間にそのような違いがあるのかについての的確なdiscussionは本論文に見当たらない。しかし,この結果を読み替えれば常に血圧コントロールを厳格に行うことが糖尿病関連合併症の予防につながるということにもなろう。(弘世


UKPDSを介入中止後さらに長期間追跡した結果である。積極降圧群と通常降圧群との間の血圧差は2年後には消失し,その結果,糖尿病関連のイベントリスク低下における両群間の有意差は消失した。このことは糖尿病合併高血圧症例では,糖尿病管理とともに積極的降圧の持続が,単にmacroのみならず,microvessel diseaseの予防に重要であることを示している。(桑島
デザイン 無作為割付け,多施設,intention-to-treat解析。
期間 追跡期間(中央値)は厳格降圧群 vs 通常降圧群が14.5年(試験終了後8.0年),ACE阻害薬群 vs β遮断薬群が14.6年(7.6年)。
登録期間は1987~’91年,1997年9月30日試験終了。
対象患者 884例。UKPDS 38に参加した高血圧合併新規診断2型糖尿病患者1,148例のうち,最終評価データのある生存者。
除外基準:脳卒中の既往や進行性高血圧(accelerated hypertensio)などのためすでに厳格な血圧管理を行っている患者,過去1年以内のMIおよび現在の狭心症のためβ遮断薬を投与している患者,重度の血管疾患患者など。
■患者背景:厳格降圧群 vs 通常降圧群:平均年齢65歳,男性(52%, 55%),白人(86%, 88%),BMI(30.3kg/m², 29.9kg/m²),血圧(143/79mmHg, 152/82mHg;p<0.001),空腹時血糖値(166mg/dL, 161mg/dL),HbA1c*(8.3%, 7.5%;p=0.001),LDL-C(128mg/dL, 126mg/dL),HDL-C(41mg/dL, 42mg/dL),トリグリセライド*(138mg/dL, 131mg/dL),血漿クレアチニン*(1.04mg/dL, 1.09mg/dL)。
ACE阻害薬群 vs β遮断薬群:平均年齢(65歳,64歳),男性(48%, 55%),白人(88%, 85%),体重*(80.0kg, 84.0kg;p=0.01),BMI(29.9 kg/m², 30.8 kg/m²),血圧(143/79mmHg, 144/79mmHg),空腹時血糖(両群とも166mg/dL),HbA1c*(8.0%, 8.4%),総コレステロール(203mg/dL, 196mg/dL;p=0.04),LDL-C(131mg/dL, 125mg/dL),HDL-C(42mg/dL, 39mg/dL;p=0.009),トリグリセライド*(138mg/dL, 139mg/dL),血漿クレアチニン*(1.10mg/dL, 1.05mg/dL)。
* 中央値。
治療法 厳格降圧群(592例):目標血圧を<150/85mmHgとして,ACE阻害薬captopril 最大50mg×2回/日(304例),またはβ遮断薬atenolol 100mg×1回/日(288例)を投与。
通常降圧群(292例):目標血圧を<180/105mmHgとして,ACE阻害薬,β遮断薬を用いずに治療。
必要に応じて下記の順に降圧薬の追加を推奨:利尿薬furosemide 20mg/日(最大40mg×2回/日),Ca拮抗薬nifedipine徐放剤10mg/日(最大40mg),methyldopa 250mg/日(最大500mg),α遮断薬prazosin 1mg×3回/日(最大5mg)。
以上はUKPDS 38での治療法。
試験終了後は主治医による治療を再開。試験治療の継続は行わず,UKPDS 38,39の結果を発表した1998年以降は,その結果を受け血糖値,血圧ともに可能な限り下げるよう推奨。試験終了後5年間は年1回の通院によりデータを収集,6~10年は質問票によりデータを収集。
結果 死亡率は51%(主な死因は心血管イベント53%,癌21%),追跡不能者は2%。
[試験終了後の治療状況]
試験終了時の2剤以上併用者は厳格降圧群61%,通常降圧群36%であったが,5年後までにこの差は消失した(それぞれ75%, 73%)。脂質低下薬服用者は試験終了時2%未満,5年後24%で,5年後44%がaspirinを服用。
[降圧]
試験中に認められた両群間の血圧差は,試験終了後2年以内に消失した。
[エンドポイント]
・厳格降圧群 vs通常降圧群
試験中に認められたエンドポイントの有意な群間差は試験後に消失した:糖尿関連エンドポイント(厳格管理群の相対リスク低下7%, p=0.31),糖尿病関連死(16%, p=0.12),脳卒中(23%, p=0.12),細小血管障害(16%, p=0.17)。MI,全死亡は,試験中,試験後ともに有意な群間差は認められなかった。末梢血管疾患リスクは試験後に厳格降圧群で有意に低下した(相対リスク0.50;95%信頼区間0.28~0.92, p=0.02)。
・ACE阻害薬群 vs β遮断薬群
試験後はACE阻害薬群で全死亡のリスクが有意に増大したが(1.23;1.00~1.51, p=0.047),その他の項目に有意な群間差は認められなかった。
★考察★試験期間中に認められた早期の厳格な降圧による合併症リスク低下効果は,試験終了後の血圧差の消失に伴い認められなくなった。高血圧合併2型糖尿病患者では早期の積極的な降圧により合併症のリスクも低下するが,この有効性持続のためには良好な血圧コントロールを維持する必要がある。
International Standard Randomised Controlled Trial Number Register(ISRCTN)No: 75451837
文献
  • [main]
  • Holman RR et al: Long-term follow-up after tight control of blood pressure in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008; 359: 1565-76. PubMed

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収載年月2011.06