循環器トライアルデータベース

UKPDS 80
UK Prospective Diabetes Study 80

目的 UKPDS 33*試験では,新規に診断された2型糖尿病患者において,スルホニル尿素(SU)薬またはインスリンによる厳格な血糖コントロールにより,食事療法による標準的な血糖コントロールに比べた有意な細小血管障害抑制が示され,UKPDS 34**試験では,過体重例でのビグアナイド系薬剤metformin治療の心筋梗塞(MI)および全死亡の有意な抑制が示された。
このような初期の血糖コントロール改善による血管障害予防効果が長期にわたり持続するかどうかを検証するため,両試験終了後さらに10年間,生存者を追跡した。
エンドポイントは次の7項目:糖尿病関連エンドポイント(突然死,高血糖・低血糖による死亡,致死的・非致死的MI,狭心症,心不全,致死的・非致死的脳卒中,腎不全,切断,硝子体出血,網膜光凝固治療,片眼失明,白内障摘出),糖尿病関連死(突然死,MI死,脳卒中死,末梢血管疾患死,腎疾患死,高血糖・低血糖による死亡),全死亡,MI(突然死または致死的・非致死的MI),致死的・非致死的脳卒中,末梢血管疾患(指1本以上の切断または末梢血管疾患死),細小血管障害(硝子体出血,網膜光凝固治療,腎不全)。

* UKPDS 33:10.0年間(中央値)の追跡で,厳格血糖コントロール群(HbA1c 7.0%[中央値])は標準コントロール群(7.9%)に比べ,細小血管障害を有意に抑制したが,大血管障害は抑制しなかった(Lancet. 1998; 352: 837-53. PubMed)。
** UKPDS 34:過体重者において,10.7年(中央値)の追跡で,metformin群(HbA1c 7.4%[中央値])は標準コントロール群(8.0%)よりも大血管障害を有意に抑制した(Lancet. 1998; 352: 854-65. PubMed)。
コメント ■コメント 弘世 貴久
■コメント 寺本 民生

UKPDS 33,34の続編ともいえる試験である。UKPDS 33では血糖コントロールを厳格に行っても大血管症や総死亡率を改善することはできないという結果に終わった。しかし,この結果はしばしば誤解して解釈され,例えばSU薬やインスリンを用いて肥満傾向の2型糖尿病患者を治療するべきではないといったmisleadingを招いていた。しかし介入終了後5年,10年たっても心筋梗塞,死亡率を抑制する「legacy effect」が示され,大血管症も厳格な血糖コントロールにより予防できることが証明された。実はUKPDS 33において厳格血糖コントロール群と標準コントロール群で心筋梗塞の抑制傾向はすでにあった。統計学上はP=0.052で惜しくも有意差が証明されなかっただけなのである。(弘世


2型糖尿病(DM)の厳格な血糖コントロールについては,かなり議論のあるところである。UKPDS 33ではインスリンやSU剤でコントロールした場合,DM特有の細小血管症については予防できたものの,大血管障害の改善はもたらさないことが示され,診療上若干の混乱をもたらした。さらに最近発表されたACCORDやADVANCEというような試験でも,大血管障害については,厳格な血糖コントロールでも十分な効果が認められず,動脈硬化性疾患予防における血糖コントロールの意義については疑問視する意見もあった。
UKPDS 80の結果は2つのメッセージをもたらしたように思われる。一つは,やはりきちんとした血糖コントロールが動脈硬化性疾患予防にも重要であることである。UKPDSは早期のDMを対象としており,ACCORDやADVANCEとは対象が異なる点は留意する必要があろう。つまり,早期のDMであれば血糖コントロールが極めて重要であるという可能性がある。もう一つがいわゆるlegacy effect(遺産効果)である。legacy effectについては十分明らかではないが,Steno-2研究でも同様の結果が得られており,集中的な厳格な治療が,総死亡にまでよい結果をもたらすという情報は極めて重要である。(寺本
デザイン 無作為割付け,多施設(23施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間(中央値)はSU薬-インスリン群16.8年(試験終了後8.5年),metformin群17.7年(8.8年)。
登録期間は1977~1991年。
対象患者 3,277例。25~65歳,一般開業医による2型糖尿病の診断後に測定した空腹時血糖が2回連続して>108mg/dLで, 3か月間のrun-in期間(食事療法)後に空腹時血糖>108mg/dLかつ<270mg/dLであったもの。
除外基準:ケトン尿,血清クレアチニン>2.0mg/dL,1年以内のMI,現在の狭心症または心不全,大血管イベント>1回,レーザー治療を要する網膜症,悪性高血圧,改善されていない内分泌疾患,インスリン治療が不可能な職業,重度の合併症など。
■患者背景:SU薬-インスリン群 vs 標準コントロール群:平均年齢63歳,男性(58.9%, 60.5%),白人(81.1%, 80.7%),アジア人(10.9%, 11.9%),BMI(29.3kg/m², 28.7kg/m²;p=0.005),血圧(139/77mmHg, 138/77mmHg),空腹時血糖(161mg/dL, 178mg/dL;p<0.001),HbA1c*(7.9%, 8.5%;p<0.001),LDL-C(両群とも126mg/dL),HDL-C(42mg/dL, 43mg/dL),トリグリセライド*(127mg/dL, 128mg/dL),血漿クレアチニン*(両群ともに1.02mg/dL)。
metformin群 vs 標準コントロール群:平均年齢(64歳,63歳),男性(45.5%, 46.0%),白人(84.2%, 84.8%),アジア人(4.3%, 6.8%),BMI(31.7 kg/m², 32.2 kg/m²),血圧(141/78mmHg, 139/77mmHg),空腹時血糖(177mg/dL, 182mg/dL),HbA1c*(8.4%, 8.9%),LDL-C(130mg/dL, 129mg/dL),HDL-C(42mg/dL, 40mg/dL),トリグリセライド*(157mg/dL, 143mg/dL),血漿クレアチニン*(1.03mg/dL, 0.96mg/dL;p=0.03)。
* 中央値。
治療法 SU薬-インスリン群(2,118例):SU薬またはインスリンによる厳格な血糖コントロール。
標準コントロール群(880例):食事制限による血糖コントロール。
metformin群(279例):過体重例(理想体重の>120%)において,metforminによる厳格な血糖コントロール。
標準コントロール群のうち過体重の309例をmetformin群の比較対照とした。
試験終了後は試験治療の継続は行わず,地域または病院での糖尿病治療を再開。試験終了後5年間は年1回の通院により評価データを収集,6~10年は質問票によりデータを収集。
結果 [試験終了後の治療状況]
5年後の治療状況は,食事療法のみ5%,経口治療46%,インスリン(経口治療併用も含む)49%。
[血糖コントロール]
初期の厳格コントロール群と標準的コントロール群の平均HbA1c値の差は1年後までに消失し,その後HbA1cは全群で同等に改善した。
[エンドポイント]
・SU薬-インスリン群 vs 標準コントロール群
10年後も,SU薬-インスリンによる厳格な血糖コントロールは標準コントロールに比べて糖尿病関連エンドポイント(リスク比0.91;95%信頼区間0.83~0.99, p=0.04),細小血管障害(0.76;0.64~0.89, p=0.001)を有意に抑制した。試験後は,試験期間中には認められなかった糖尿病関連死(0.83;0.73~0.96, p=0.01),MI(0.85;0.74~0.97, p=0.01)および全死亡(0.87;0.79~0.96, p=0.007)リスクの抑制も示された。脳卒中と末梢血管疾患については,試験中同様,試験後も有意な群間差は認められなかった。
・metformin群 vs 標準コントロール群
試験期間中と同様に,10年後もmetformin群では標準コントロール群に比べて糖尿病関連エンドポイント(0.79;0.66~0.95, p=0.01),糖尿病関連死(0.70;0.53~0.92, p=0.01),MI(0.67;0.51~0.89, p=0.005),全死亡(0.73;0.59~0.89, p=0.002)が有意に抑制された。
★考察★初期の血糖値低下の差は早期に消失したにもかかわらず,試験終了後の10年間もSU薬-インスリンによる厳格な血糖コントロールの細小血管障害抑制効果は持続し,新たにMIおよび全死亡リスクの抑制効果も示された。過体重者におけるmetformin治療の有効性は10年後も持続して認められた。
International Standard Randomised Controlled Trial Number Register(ISRCTN)No: 75451837
文献
  • [main]
  • Holman RR et al: 10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008; 359: 1577-89. PubMed

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収載年月2011.06