循環器トライアルデータベース

EVEREST II
Endovascular Valve Edge-to-Edge Repair Study II

目的 中等度(3+)~重度(4+)の慢性僧帽弁閉鎖不全症患者において,MitraClip®*による経皮的弁修復術と従来の開胸手術の1年後の転帰を比較する。
* カテーテルベースの僧帽弁形成デバイス。4mm幅のコバルトクロム製クリップを大腿静脈から経中隔的に左房内に挿入し,僧帽弁前尖と後尖の先端を留め重複僧帽弁口を形成することにより,左房への逆流を減少させるデバイス。

有効性の一次エンドポイントは,12か月後の死亡+僧帽弁機能不全による手術+僧帽弁閉鎖不全症(3+~4+)の回避。
安全性の一次エンドポイントは,30日後の主要有害イベント(死亡+心筋梗塞[MI]+手術不成功による再手術+有害事象による非待機的心血管手術+脳卒中+腎不全+深部創感染症+48時間以上の機械的換気+手術を要する消化器合併症+新規発症の永続性心房細動+敗血症+2単位以上の輸血の複合エンドポイント)。
コメント 高度な僧帽弁閉鎖不全症は左室機能の低下によりうっ血性心不全をもたらす。症候性の症例では5%以上の年間死亡率である。内服治療は症状を軽減するが病気の進展は抑制しない。症候性や左室機能低下のある3+~4+の僧帽弁閉鎖不全症はガイドラインでは開胸手術をすすめている。僧帽弁修復の一つの術式として,僧帽弁の前尖と後尖を縫い合わせて2つの僧帽弁口を作ることによる閉鎖不全の改善が知られている。この手技は弁尖が変性している例に用いられ僧帽弁輪形成を同時に行い,12年以上の臨床効果の持続が報告されている。この術式を経皮的に行うためのデバイスがMitraClipであり,2008年からヨーロッパを中心に約3000例に用いられている(USでは治験中)。右心系から心房中隔を経て左房・左室へと展開し,僧帽弁の前尖と後尖の両端を縫合し逆流弁口面積を縮小する。これまでの報告では僧帽弁逆流を有意に低下させており,今回通常の開胸手術とのランダム化比較試験を行った。結果としては,経皮的修復群は僧帽弁逆流や左室拡張末期容積・径を術前に比し有意に低下させたが開胸手術群のほうがより効果的であり,臨床的有効性は経皮的修復群のほうが有意に低かった。30日後の主要有害イベントは逆に経皮的修復群のほうが有意に低くより安全であることが確認されたが,その相違は輸血の多寡だけであり,ハードエンドポイントには差はない。1-2年後においても経皮的修復群の臨床的有用性はQOL・心不全の程度・左室機能の面で保持されている。多施設・ランダム化比較試験であることが本研究のポイントであるが,盲検化は出来ないこと,開胸手術群に振り分けられた症例での試験不参加が多いことは留意すべきである。開胸手術では通常弁輪形成術を行うので,この有無が両群間の術後の僧帽弁逆流の程度の差に現れている可能性がある。
本研究は経皮的修復群と開胸的修復群とを比較しているが,有効性と安全性では一長一短である。経皮的修復が失敗しても開胸手術は可能であり,両治療群を単純に比べることは出来ない。実際,ヨーロッパでは開胸手術が出来ない症例にこのデバイスが用いられている。機能的僧帽弁逆流は現疾患の治療により改善されうるので今回の検討の対象にはふさわしくない。70歳以上・左室駆出率60%未満の例ではサブグループ解析で両治療群の有効性は同等と考えられること,経皮的修復群の20%は1年後に開胸手術が必要になること,ゴールデンスタンダードは開胸的修復術であることより,経皮的修復群が可能な症例を見極めることが重要である。手技の熟達度も臨床結果に関与しうるので症例数を増やすことが必要であり,本研究の5年後のfollow upの結果のごとくこのデバイスの長期成績の結果に期待したい。(星田
デザイン 無作為割付け,多施設(米国とカナダの37施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は2年。
登録期間は2005年9月~2008年11月。
対象患者 279例。3+~4+の慢性僧帽弁閉鎖不全症:症候性の患者はEF>25%かつ左室収縮末期径≦55mm,無症候性の患者は下記のいずれかに該当;EF 25~60%,左室収縮末期径40~55mm,新規心房細動,肺高血圧症で,逆流ジェットが前尖および後尖の中央弁帆(middle scallops)の接合不良から発生しているもの。
■患者背景:平均年齢(経皮的修復群67.3歳,手術群65.7歳),男性(62%, 66%),合併疾患:うっ血性心不全(91%, 78%[p=0.005]);冠動脈疾患(47%, 46%);MI既往(22%, 21%);心房細動(34%, 39%);CABG既往(21%, 19%);PCI既往(24%, 16%),NYHA心機能分類:I度(9%, 20%);II度(40%, 33%);III度(45%, 43%),僧帽弁閉鎖不全症の重症度:3+(両群とも71%);4+(25%, 22%),逆流量(42.0mL/拍,45.2mL/拍),逆流弁口面積(0.56cm², 0.59 cm²),僧帽弁閉鎖不全症の原因:機能的(両群とも27%);前尖もしくは両尖のflail/逸脱(32%, 26%);後尖のflail/逸脱(39%, 44%)。
治療法 経皮的修復群(184例):腹腔鏡および経食道心エコーガイド下でMitraClip®による経皮的修復術を実施。修復後,逆流が≦2+まで改善しているかを心エコーにより確認。改善がみられない場合は待機的手術を実施。手技中はheparinを投与し,手技後はaspirin 325mg/日を6か月間,clopidogrel 75mg/日を30日間投与。
手術群(95例):通常の開胸による修復術または弁置換術を実施。
結果 12か月追跡完遂者は243例(94%)。
経皮的修復群では178例が手技を実施。手技後に逆流の改善がみられなかったのは41例(23%)で,うち15例が開胸による修復術,13例が弁置換術を受けた。
手術群では80例が修復術(69例[86%])または置換術(11例[14%])を実施し,全例の逆流グレードが≦2+に改善した。
[有効性の一次エンドポイント]
経皮的修復群のほうが手術群よりも有意に低かった(100例[55%] vs 65例[73%], p=0.007)。死亡(両群ともに6%)と3+~4+の僧帽弁閉鎖不全症の回避(21% vs 20%)には有意な群間差は認められなかったが,僧帽弁機能不全による手術の回避は経皮的修復群のほうが多かった(20% vs 2%, p<0.001)。
[安全性の一次エンドポイント]
経皮的修復群のほうが有意に低かった(15% vs 48%, p<0.001)。ただし,個々のイベントで有意差が認められたのは2単位以上の輸血のみで(13% vs 45%, p<0.001),これを除外すると経皮的修復群のほうが少なかったものの有意差は消失した(5% vs 10%, p=0.23)。
[二次エンドポイント(僧帽弁閉鎖不全の程度,左室サイズ,NYHA心機能分類,QOL)]
12か月後の僧帽弁閉鎖不全の程度は手術群のほうが有意に軽度であった(p<0.001)。
12か月後の左室拡張末期容積の減少は手術群のほうが有意に大きく(-25.3mL vs -40.2mL, p=0.004),EFの低下も手術群のほうが大きかった(-2.8% vs -6.8%, p=0.005)。
12か月後のNYHA III~IV度の症例は,経皮的修復群で有意に減少(2% vs 13%, p=0.002)。
Medical Outcomes Study 36-Item Short-Form Health Survey(SF-36)で評価したQOLは,30日後は手術群のほうが低かったが,12か月後には差はなかった。
★結論★中等度~重度の僧帽弁閉鎖不全症患者において,MitraClip®を用いた経皮的修復術は従来の開胸手術に比べて逆流改善効果は低かったが,手術よりも安全で臨床転帰は同等であった。
ClinicalTrials gov. No: NCT00209274
文献
  • [main]
  • Feldman T et al for the EVEREST II investigators: Percutaneous repair or surgery for mitral regurgitation. N Engl J Med. 2011; 364: 1395-406. PubMed
    Mitral regurgitation--what is best for my patient? N Engl J Med. 2011; 364: 1462-3. PubMed
  • [substudy]
  • 5年後の結果-経皮的修復群は手術群より手術・MRが多かったが,差を認めたのは1年後まで,以後は両群同等であった。死亡には有意差はなかった。
    MitraClip®による経皮的僧帽弁修復術(治療例154例)から5年後の死亡・手術・僧帽弁逆流(MR:3+~4+)の回避率は,手術群(56例)より低かった(44.2% vs 64.3%, p=0.01)。これは主に修復群のほうがMR(12.3% vs 1.8%, p=0.02)と手術(27.9% vs 8.9%, p=0.003)が多かったためで,死亡率には有意差はなかった(20.8% vs 26.8%)。手術の8割近くが手技後6か月以内の実施で,それ以降の手術回避率は両群同等であった(77.7% vs 76.2%):J Am Coll Cardiol. 2015; 66: 2844-54. PubMed
  • 手術高リスク患者と経皮的弁修復術-僧帽弁逆流が有意に減少し,症状が改善,左室容積が減少。
    高リスク例の転帰を,EVEREST IIに組込まれた2つの前向き高リスク例登録研究High Risk Registry(78例;2007~’08年登録)とREALISM HR(273例;’09年から登録継続中)で検証した結果(平均年齢76歳;追跡期間1年):高リスク例は,症候性の3~4+の僧帽弁逆流(MR)で,手術による死亡リスク(Society of Thoracic Surgeons[STS]スコア)≧12%または術者が高リスクと判断した症例と定義。STS≧12%は151/351例(43%),<12%のうち危険因子≧2つ保有は83/200例(41.5%)。平均STSスコア11.3%,機能性MR 70%,心臓手術歴60%。退院時MR改善(≦2+)は86%(279/325例),30日後の死亡4.8%,心筋梗塞1.1%,脳卒中2.6%。
    12か月追跡終了は327例。MR≦2+は84%(188/225例),Kaplan-Meier推定生存率は77.2%。左室拡張末期容積(ベースライン時161→143mL),収縮末期容積(87→79mL),NYHA心機能分類(III~IV度82%→I~II度83%),QOLも有意に改善(全p<0.0001)。心不全による入院も手技前0.79%から手技後0.41%に有意に低下した:J Am Coll Cardiol. 2014; 64: 172-81. PubMed
  • 手術高リスク者の多くはMitraClip®*を用いた経皮的修復術により1年後の僧帽弁閉鎖不全が改善し,症状や左室逆リモデリングも改善。
    周術期の推定死亡リスクが≧12%と高い患者78例(平均77歳,心臓手術歴>50%)における結果(EVEREST II High Risk Study[HRS]):スクリーニングは受けたが修復術を受けなかった患者36例を後ろ向きに特定し対照群とした。MitraClipによる修復術は75/78例(96%)で成功。プロトコールの定義による周術期の推定死亡リスクはHRS群18.2%,対照群17.4%。30日後の手技関連死はHRS群7.7% vs 対照群8.3%と有意差なし。12か月後の生存率は76% vs 55%(p=0.047)で,生存例の78%が僧帽弁閉鎖不全グレード≦2+に改善。左室拡張末期容積は172から140mLへ,収縮末期容積は82から73mLへ改善(ともにp<0.001)。NYHA心機能分類もベースライン時は89%がIII/IV度であったが,12か月後は74%がI/II度となった(p<0.0001)。QOLも改善し,うっ血性心不全による入院も減少した:J Am Coll Cardiol. 2012; 59: 130-9. PubMed

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収載年月2011.06
更新年月2016.09