循環器トライアルデータベース

BACH
Biomarkers in Acute Heart Failure Trial

目的 mid-regionalプロ心房性ナトリウム利尿ペプチド(MR-proANP)の急性心不全(AHF)診断における有用性,mid-regionalプロアドレノメデュリン(MR-proADM)のAHF患者における予後予測能を評価。

診断能の一次エンドポイントはAHFの診断におけるMR-proANPの脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)に対する非劣性。
予後予測能の一次エンドポイントはAHF患者の90日後の生存予測におけるMR-proADMのBNPに対する優越性。
コメント 心不全のバイオマーカとして血漿BNPが確立しているが,測定上のメリットから,NT-proBNPもよく用いられるようになっている。さらに,近年安定した測定が可能なMR-proANPやMR-proADMも注目されている。とくに,MR-proADMは心不全の診断マーカのみならず,予後予測のマーカとしての可能性が注目されており,今回の成績は,急性心不全の90日予後の予測因子としてMR-proADM がBNPやNT-proBNPよりも優れていることを示した。しかし,その有用性については,過去の報告でも必ずしも一定ではなく,基礎病態(急性心筋梗塞か非代償性心不全か)や重症度の相違などが影響するものと考えられる。しかし,予後予測は臨床上極めて重要であり,これまで左室駆出率や血中ノルエピネフリン値などが報告されているが,MR-proADM値も有望なマーカーとなる可能性がある。今後,エビデンスの蓄積によりその有用性が検証され,BNP, NT-proBNPとの差別化が行われるのかもしれない。(
デザイン 前向き,多施設(15施設:米国・欧州・ニュージーランド)。
期間 追跡期間は90日。
登録期間は2007年3月~2008年2月。
対象患者 1,641例。呼吸困難を主訴として救急外来を受診したもの。
除外基準:18歳未満,急性ST上昇型心筋梗塞,血液透析中,腎不全など。
■患者背景:平均年齢(非AHF例59.8歳,AHF例71.2歳),男性(47.0%, 62.5%),白人(62.1%, 76.3%);全p<0.001。
治療法 互いの評価,マーカー値,EDでの診断を盲検化した2名の心臓専門医が独立して,カルテに基づき各患者の呼吸困難の原因を心不全とその他に分類し,これをゴールデンスタンダードとした。血漿中のMR-proANP, MR-proADM, BNP, NT-proBNPをイムノアッセイにより測定。
AHFの診断能は,MR-proANP(カットオフ値120pmol/L以上)のBNP(100pg/mL以上)に対する非劣性(非劣性マージン10%),BNPにMR-proANPを加えたときの診断能に対する付加的有用性(診断能の改善)を評価した。
予後予測能は,90日の全死亡率のほか,死亡,再入院,ED再受診についてMR-proADMのBNPおよびNT-proBNPに対する優越性,BNPおよびNT-proBNPにMR-proADMを加えたときの予測能を評価した。
結果 [AHF診断能]
AHFと診断された患者は568/1641例(34.6%)。
AHFの診断においてMR-proANP(120pmol/L以上)のBNP(100pg/mL以上)に対する非劣性(マージン10%)が確認された(正確度の差 0.9%, p<0.001;感度の差-1.4%, p<0.001;特異度の差2.1%, p<0.001)。
ロジスティック回帰モデルにおいてBNPにMR-proANPを加えた場合の診断能の改善は,BNP値が中等度(100~500pg/mL),肥満(BMI≧ 30kg/m²)のサブグループで有意であったが(各p=0.001, p=0.009),腎不全(クレアチニン値1.6mg/dL以上),高齢(70歳以上),浮腫のサブグループでは有意差は認められなかった(各p=0.135, p=0.076, p=0.379)。NT-proBNPにMR-proANPを加えた場合の診断能の改善は全サブグループで有意であった。
[予後予測能]
90日間の死亡は130例(生存率92.1%;95%信頼区間90.7~93.3%),AHF患者での死亡は65/568例(生存率88.6%;85.6~90.9%)であった。
ROC解析で,AHF患者の90日の生存率の予測の正確度はMR-proADM(カットオフ値1.985nmol/L以上)が74%(70~77%),BNP(1021pg/mL以上)が62%(58~66%),NT-proBNP(6310pg/mL以上)が64%(60~68%):BNP, NT-proBNP vs MR-proADM(p<0.001)。感度はMR-proADMおよびBNP が53%(41~65%),NT-proBNPが69%(57~79%):NT-proBNP vs MR-proADM, BNP(p=0.094)。特異度はMR-proADM が76%(72~80%),BNPおよびNT-proBNPが63%(59~67%):MR-proADM vs BNP, NT-proBNP(p<0.001)。
調整後多変量Cox回帰解析で,AHF患者の生存の独立した予測能がMR-proADMには認められたが(p<0.001),BNPおよびNT-proBNPには認められなかった。
再入院またはED再受診については,いずれも臨床的に付加的有用性は認められなかった。
★結論★MR-proANPは呼吸困難の患者におけるAHFの診断に対する有用性はBNPと同等で,BNPによる判断が困難な場合には追加的な有用性が期待される。MR-proADMは90日後の死亡リスクの高い患者を同定し,BNPに加えると予後予測能が改善する。
Clinical.gov. No: NCT00537628
文献
  • [main]
  • Maisel A et al: Mid-region pro-hormone markers for diagnosis and prognosis in acute dyspnea: results from the BACH (biomarkers in acute heart failure) trial. J Am Coll Cardiol. 2010; 55: 2062-76. PubMed
  • [substudy]
  • 急性呼吸困難患者において,MR-proADMは90日後の死亡高リスク例を同定し,BNPの予後予測能を相加的に改善。
    MR-proADMはBNP,トロポニンと比べ,90日後の全死亡予測能にすぐれ(c統計量=0.755, p<0.0001),その他の予後予測因子(年齢,BMI,ラ音,慢性腎機能障害の既往,Na濃度,収縮期血圧など)よりも予測能が高く,これらの予測因子にMR-proADMを加えることにより予測能はさらに改善した(ハザード比:3.28~3.79,全p<0.00001)。MR-proADMを加えることによるnet reclassification改善率は8.9%。さらに入院時のみのMR-proADM測定よりも連続測定したほうが有用性が高い:J Am Coll Cardiol. 2011; 58: 1057-67. PubMed

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収載年月2011.05
更新年月2012.04