循環器トライアルデータベース

HART
Heart Failure Adherence and Retention Trial

目的 エビデンスに基づいた効果的な治療の進歩により心不全は管理できるようになったが,薬物治療や生活習慣修正に対するアドヒアランス不良は依然として存在し,とくに社会的経済的に低階層の患者に多くみうけられる。これらの対策の一つとして,患者の自己管理スキルを訓練することにより治療への協力を促す自己管理プログラムの有用性が検討されてきたが,方法論的な問題から明確な結論は得られていない。
そこで,軽症~中等症の心不全患者において,患者教育に1年間の自己管理カウンセリングの追加の有用性を検討する。
一次エンドポイントは死亡または心不全による入院。
コメント 食事や体重管理・運動などの生活習慣および精神的管理を含めた自己管理コンサルテーションが,単なる知識教育(アメリカ心臓協会(AHA)の教材を使用)と比し,慢性心不全患者の予後(死亡および心不全入院)改善に有用であるという仮説は否定されたが,これは自己管理コンサルテーションが,無意味であるということを示唆するものではない。これまで,その効果は心不全入院を25%程度減少させるという成績があったため本研究がデザインされた経緯があり,サブ解析でも,低所得者層(年収3万ドル以下)では,入院が有意に減少していることからも効果が期待できる対象集団が存在することは確かであろう。ただ,患者背景をみると,平均塩分摂取量が3.3g/日と本邦に比し,極端に低い一方,BMIは31と肥満者が多いなど,わが国の実情と大きく乖離がみられるため,この成績を日本に適用して考えることは危険であり,わが国の医療環境の下で,独自の試験をする必要があることは異論のないところであろう。(
デザイン ランダム化,一部盲検化*,多施設(米国の10施設)。
* 試験責任医師を除くスタッフと患者に試験の仮説を盲検化。データ管理チームを除く医師およびスタッフ全員に患者の割付けを盲検化。各群の治療チームは他方の群の患者と接触しなかった。
期間 追跡期間は2.56年(中央値)。
登録期間は2001年10月~2004年10月。
対象患者 902例。収縮機能低下(EF≦40%),もしくは収縮機能を保持した(EF>40%で心不全による入院歴≧1回)軽症~中等症の心不全で,過去3か月間に利尿薬を含む心不全治療薬を投与された患者。
除外基準:NYHA心機能分類IV度(行動療法が有効な可能性が低い)またはI度(一次エンドポイント発生の可能性が低い),手術により心不全症状が消失しうる患者など。
■患者背景:平均年齢(教育+自己管理群63.8歳,教育群63.4歳),女性(46.3%, 48.3%),少数民族(39.2%, 41.0%),高校卒業以下(43.7%, 43.7%),年間世帯収入<$3万(51.9%, 51.3%),未婚(56.3%, 56.4%),収縮機能保持例(23.8%, 22.4%),NYHA III度(31.9%, 31.3%),6分間歩行距離中央値(264.0m, 248.1m),血圧(120.5/70.2mmHg, 120.8/70.3mmHg),高血圧既往(76.8%, 73.6%),糖尿病既往(39.6%, 40.9%),合併疾患数(3.2, 3.3),塩分摂取量中央値(3,309mg/日,3,342mg/日),BMI(31.1kg/m², 30.9kg/m²),老年期うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scaleスコア>10)(30.2%, 28.7%)。
治療背景:ACE阻害薬,ARB(84.9%, 86.5%),β遮断薬(71.0%, 70.1%),服薬アドヒアランス不良(ACE阻害薬/β遮断薬の服用率<80%:38.4%, 34.6%)。
治療法 教育+自己管理群(451例):心不全に関するグループ教育+問題解決スキルおよび自己管理スキルを習得するためのカウンセリングを実施。約10名/グループでの2時間のミーティングを1年間に18回実施。AHAが提供する18 Heart Failure Tip Sheetsを用いて,服薬アドヒアランス,体重増加,塩分制限,運動,ストレス管理などを指導。さらに,それらを実行するための自己管理スキル(自己監視,環境の再構築,家族や友人からの支援体制,認知再構成法,リラクセーション効果)の訓練を実施。
教育群(451例):自己管理群と同スケジュールで18 Heart Failure Tip Sheetsを郵送。患者の理解度を2~3日後に電話にて確認し,未読の場合は後日電話で再確認。シートに関する質問にはすべて回答してもらい,Tip Sheets以外の点は家庭医に委ねた。
結果 [一次エンドポイント:死亡,心不全による入院]
教育+自己管理群と教育群に有意な群間差なし:163例(40.1%) vs 171例(41.2%),オッズ比0.95, 95%信頼区間0.72~1.26, Wilcoxon p=0.46。
[二次エンドポイント:死亡,心不全による入院,全入院,QOL]
有意な群間差なし:死亡(0.87, 0.63~1.21),心不全による入院(1.00, 0.72~1.38),全入院(0.85, 0.62~1.17)。
[サブグループ]
年間収入<3万ドルのサブグループでは,教育群におけるイベント発生までの時間が自己管理群よりも44%早かったが(加速係数1.44, p=0.056),年収≧3万ドルのサブグループでは有意な群間差はみられなかった。
[治療による変化]
自己効力感スコア:両群ともに0.2ポイント改善(時間効果p=0.008)。
Geriatric Depression Scaleスコア>10の割合:教育+自己管理群で20%,教育群で22%に改善(時間効果p=0.008)。
塩分摂取量:両群ともに改善したが(≦2,400mg/日の患者の割合:それぞれ28%, 18%,時間効果p=0.01),改善は自己管理群のほうが大きかった(治療×時間の交互作用p=0.02)。ただし,自己管理群でも72%の患者は依然として>2,400mg/日を摂取していた。
服薬アドヒアランス:両群ともに7%改善(時間効果p=0.01)。
[有害事象]
両群ともに有害事象および重篤な有害事象は認められなかった。
★結論★軽症~中等症の心不全患者において,患者教育に自己管理カウンセリングを加えても,死亡または心不全による入院は減少しなかった。
文献
  • [main]
  • Powell LH et al for the HART investigators: Self-management counseling in patients with heart failure: the heart failure adherence and retention randomized behavioral trial. JAMA. 2010; 304: 1331-8. PubMed

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収載年月2011.03