循環器トライアルデータベース

SHIFT
Systolic Heart Failure Treatment with the If Inhibitor Ivabradine Trial

目的 駆出率が低下した心拍数≧70拍/分(bpm),洞調律の症候性心不全患者において,心拍数を低下させる選択的Ifチャンネル阻害薬ivabradineの標準治療への追加投与の心血管転帰,症状,QOLへの有効性を検討する。

一次エンドポイントは,心血管死,心不全悪化による入院の複合エンドポイント。
コメント ■コメント 桑島 巌
■コメント 堀 正二

Lancet. 2010; 376: 875-85.へのコメント
選択的洞結節抑制薬ivabradineは2年前に発表されたBEAUTIFUL試験で,冠動脈疾患と左室機能不全例を対象としてプラセボと比較し,一次エンドポイント(心血管死,急性心筋梗塞による入院,心不全による入院)を予防しないと結論された新規薬剤である。しかしその際,サブ解析で心拍数70拍/分以上の症例において,一次エンドポイントの有意な抑制効果が認められたことから,今回は心拍数が70拍/分以上の心不全症例に限定して,実施した臨床試験である。結果は一次エンドポイントである心血管死,心不全悪化による入院を18%も抑制し,今後重症心不全の治療薬の選択肢の一つになりうることを示した。しかもβ遮断薬,RA系抑制薬,利尿薬が十分に処方され,しかも抗アルドステロン薬も半数以上処方されている重症心不全での結果であることは,CRTや 補助心臓など高価な非薬物治療に移行する前に考慮すべき薬物治療法として大きな期待を寄せる結果であったといえよう。ただしエンドポイントの内訳で心不全による入院においてのみ有意差が認められ,心血管死の改善には有意差はなかったのが気になるが,方法論として二重盲検法を採用していることから,信頼性に問題はないと思われる。
ivabradineは,心筋収縮力,伝導能,血圧などには影響しないとされていることから心拍数を平均80拍/分から15拍/分抑制した徐拍効果が心保護につながったと考えられる。しかし本試験の対象は,β遮断薬を処方されているうえでなお心拍数が70拍/分以上の症例に限られていること,心房細動患者は除外されていること,高齢者の割合は比較的低いこと,などは注意しておく必要がある。本薬剤はわが国では未承認であるが,上記の制約された対象のなかで今後のわが国の製薬企業がどのような対応をするか見守りたいが,心拍数の速い重症心不全症例における徐拍作用の有用性が確認されたことの意義は大きい。(桑島


Lancet. 2010; 376: 875-85.へのコメント
イバブラジンは,洞結節のペースメーカIfチャンネルを阻害することにより,心機能に影響を与えず心拍数を選択的にする薬剤であり,欧州では労作性狭心症の治療薬として市販されている。既報のBEAUTIFUL試験の層別解析で≧70bpmの患者で心不全入院の抑制傾向がみられたことから,今回のSHIFT試験の効果が期待された。今回,心不全患者を対象とした試験で複合エンドポイントは有意に改善し,心拍数抑制の有用性が示された。これはβ遮断薬への上乗せ効果であり,心拍数が投与1年後,平均8bpm減少していることから,心拍数抑制効果は中等量のβ遮断薬投与とほぼ同等と考えられる。一方,最近のβ遮断薬のメタ解析で,心拍数減少が5bpmに対して生命予後の改善が18%得られることを考えると,今回の結果は,死亡率の改善効果(心血管死9%減少;有意差なし)は,β遮断薬より弱いことを示唆している。しかし,心不全による死亡は26%と有意に減少しており,本剤に突然死の抑制効果がないことが,この差の大きな要因となっているものと考えられる。いずれにしても心不全では頻脈の抑制が極めて重要であることが確認され,β遮断薬で充分な徐脈効果が得られない場合の治療薬として位置付けられるものと思われる。ただ本剤は心房細動には無効であるので,心不全に合併しやすい心房細動患者には適応にならない。また本剤は,閃光視覚の副作用があるが,慣れれば,生活に支障はないようである。わが国でも開発が期待される。(
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(37か国677施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は22.9か月(中央値)。
試験期間は2006年10月~2010年3月。
対象患者 6,505例。18歳以上;洞調律;駆出率35%以下で,かつ安静時心拍数≧70bpm,ただしβ遮断薬を含む至適治療下で4週間以上安定している症候性慢性心不全で,かつ12か月以内の心不全悪化による入院歴のある症例。
除外基準:2か月以内の心筋梗塞(MI)発症例;心室あるいは房室洞律作動時間が1日の40%以上の心房細動/粗動;症候性低血圧など。
■患者背景:平均年齢(ivabradine群60.7歳,プラセボ群60.1歳:≧75歳;11%),男性(76%, 77%),白人(両群とも89%),血圧(122.0/75.7, 121.4/75.6mmHg),EF(両群とも29%),NYHA心機能分類:II度(両群とも49%);III度(両群とも50%),eGFR(74.6, 74.8mL/分/1.73m²)。
既往:心不全罹病期間(両群とも3.5年),虚血性心不全(68%, 67%),MI(両群とも56%),高血圧(67%, 66%),糖尿病(30%, 31%)。
治療状況:β遮断薬(89%, 90%),ACE阻害薬(79%, 78%),ARB(両群とも14%),利尿薬(84%, 83%),アルドステロン受容体拮抗薬(61%, 59%),強心薬(両群とも22%)。
治療法 14日間のrun-in後,ランダム化。
ivabradine群(3,241例):5mg×2回/日から投与を開始し,14日間の漸増投与で7.5mg×2回/日に増量した。安静時心拍数が50~60bpmの場合は5mg×2回/日を維持投与,<50bpmあるいは徐脈に関連する兆候または症状のある場合は2.5mg×2回/日に減量した,プラセボ群(3,264例)。
最初の外来は28日後,以降4か月ごととしたが,心拍数が≧60bpmの場合は7.5mg×2回/日に増量でき,<50bpmあるいは兆候,症状のある場合は,投与例より次に少ない用量に減量でき,2.5mg×2回/日投与例は投与中止とした。
登録時,追跡期間中,非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,I群の抗不整脈薬,チトクロムP450の3A4アイソフォームの活性を著しく阻害する薬剤の投与は不可。
結果 [投与量,心拍数の変化]
ivabradine群平均投与量は,28日後:6.4mg×2回/日→ 1年後:6.5mg×2回/日。
ベースライン時の心拍数は,ivabradine群;79.7bpm,プラセボ群80.1bpm。
28日後,ivabradine群はベースライン時と比べ-15.4bpm。プラセボ群の変化を調整すると,ivabradine群の正味の心拍数減少は10.9bpm。
1年後は-9.1bpm,終了時の減少は8.1bpm。
[一次エンドポイント:,心血管死,心不全悪化による入院の複合エンドポイント]
ivabradine群793例(24%) vs プラセボ群937例(29%):ハザード比0.82;95%信頼区間0.75~0.90(p<0.0001)。ivabradine群の有効性は主に心不全悪化による入院の抑制によるものであった。
サブグループでみると,性,β遮断薬投与の有無,心不全の原因,程度,糖尿病,高血圧の有無にかかわらず有効性が認められたが,交互作用検定でivabradine群の有意な抑制効果がみられたのは心拍数≧77(中央値)bpm群のみであった。
[死亡関連エンドポイント]
全死亡:503例(16%) vs 552例(17%):0.90;0.80~1.02(p=0.092)。
心血管死:449例(14%) vs 491例(15%):0.91;0.80~1.03(p=0.128)。
心不全死:113例(3%) vs 151例(5%):0.74;0.58~0.94(p=0.014)。
[その他のエンドポイント]
全入院:1,231例(38%) vs 1,356例(42%):0.89;0.82~0.96(p=0.003)。
心不全悪化による入院:514例(16%) vs 672例(21%):0.74;0.66~0.83(p<0.0001)。
心血管疾患による入院:977例(30%) vs 1,122例(34%):0.85;0.78~0.92(p=0.0002)。
一次エンドポイント+非致死的MIによる入院:825例(25%) vs 979例(30%):0.82;0.74~0.89(p<0.0001)。
全重大な有害イベント:イベント数3,388件:イベント発症患者数1,450例(45%) vs 3,847件:1,553例(48%);p=0.025。
症候性徐脈:150例(5%) vs 32例(1%), p<0.0001。
眼内閃光(閃光視覚):89例(3%) vs 17例(1%), p<0.0001。
★結論★心不全患者において,ivabradineによる心拍数減少は転帰を改善し,心不全治療における心拍数重要性が示された。
文献
  • [main]
  • Swedberg K et al on behalf of the SHIFT investigators: Ivabradine and outcomes in chronic heart failure (SHIFT): a randomised placebo-controlled study. Lancet. 2010; 376: 875-85. PubMed
  • [substudy]
  • 心拍数≧70/分の左室収縮機能障害を有する幅広い患者におけるivabradine-臨床症状,状態を問わず転帰が改善。
    SHIFT試験(心不全患者)とBEAUTIFUL試験(CAD患者)の患者データを統合し(11,897例:平均年齢62.3歳,心拍数79.6/分,EF 30.3%,β遮断薬87%,ACE阻害薬・ARB 90%,利尿薬74%),ivabradineによる心拍数低下の幅広い左室収縮機能障害患者の転帰への効果を評価した結果(追跡期間21か月[中央値]):1か月後の心拍数は,ivabradine群64.5 vs プラセボ群75.1/分。
    ivabradine群はプラセボ群より心血管死+心不全による入院の複合エンドポイントが低下(相対リスク低下は13%, p<0.001)。 これはおもに心不全による入院リスク19%低下(p<0.001)によった。複合エンドポイントに心筋梗塞(MI)を加えたエンドポイント(15%低下),心血管死+非致死的MI(10%低下),MIによる入院(23%低下)も有意に低下した。
    この結果は臨床状態(EF,NYHA心機能分類)によらず同様で,またivabradineの忍容性は良好であった:Eur Heart J. 2013; 34: 2263-70. PubMed
  • ivabradineの標準治療への追加投与は心不全悪化による再入院を抑制。
    ivabradineが心不全悪化による再入院回数に及ぼす効果を検証した結果(post hoc解析):試験期間中に心不全悪化のため1回以上再入院した患者は1,186例(1回:714例,2回:254例,≧3回:218例)。これらの患者は入院しなかった患者(5,319例)よりも高齢で,糖尿病・腎機能低下・脳卒中既往例が多く,重症例(NYHA心機能分類III/IV度)が多かった。
    ivabradine群はプラセボ群より心不全悪化による総入院件数が少なく(902件 vs. 1,211件:発生率比0.75;95%信頼区間[CI]0.65~0.87, p=0.0002),また2回目の入院(ハザード比0.66;95%CI 0.55~0.79, p<0.001),3回目の入院(0.71;0.54~0.93, p=0.012)のリスクも有意に低かった:Eur Heart J. 2012; 33: 2813-20. PubMed
  • β遮断薬+ivabradineによる心拍数抑制の心血管転帰改善効果にβ遮断薬の用量の影響はみられず。
    ガイドライン推奨外のβ遮断薬服用例107例を除く6,398例において,β遮断薬の用量はβ遮断薬+ivabradineの心血管転帰改善効果に影響を及ぼすかを評価した結果:β遮断薬の用量により5群に層別(非投与[685例],ESCが提唱する目標用量の<25%[908例],25%~<50%[1,624例],50%~<100%[1,693例],100%[1,488例])。ivabradineによる心拍数の変化(プラセボで補正)に対し,ベースライン心拍数は有意に影響を及ぼしたが(p<0.0001),β遮断薬の用量とベースライン心拍数の交互作用は認められなかった。ivabradineの一次エンドポイント抑制効果は, β遮断薬非投与群(p=0.012),<25%群(p=0.007),25%~<50%群(p=0.029)で有意であり,β遮断薬の増量に伴い減少傾向を示した(傾向のp=0.056)にもかかわらず,β遮断薬用量の有意な影響はみられなかった(異質性のp=0.35): J Am Coll Cardiol. 2012; 59: 1938-45. PubMed
  • 心不全患者において心拍数は危険因子である。
    プラセボ群での心拍数別(5分位)の解析:70~<72bpm;987例,72~<75bpm;1,364例,75~<80bpm;1,545例,80~<87bpm;1,287例,≧87bpm;1,318例。
    70~<72bpm例(92イベント:対照)に比べ,≧87bpm例(286イベント:ハザード比2.34;1.84~2.98, p<0.0001)の一次エンドポイントのリスクは>2倍に増大。心拍数が1bpm増加するごとに一次エンドポイントのリスクは3%上昇し,5bpm増加に伴い16%上昇した。
    ivabradine群では28日後の心拍数とそれ以降の一次エンドポイントとに直接の関係がみられた。28日後に<60bpmの例(1192例:イベント率17.4%;15.3~19.6)は≧60bpm例に比べ一次エンドポイントのリスクが低下した。ivabradine群でのプラセボ群に比べた有効性は心拍数低下によるものである(予測因子,28日後の心拍数で調整後のハザード比0.95;0.85~1.06, p=0.352):Lancet. 2010; 376: 886-94. PubMed

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収載年月2010.09
更新年月2013.08