循環器トライアルデータベース

ICSS
International Carotid Stenting Study

目的 症候性頸動脈狭窄において,頸動脈ステントと頸動脈内膜切除術の安全性および長期の有効性を比較する。
一次解析は3年間の致死的・障害の残る脳卒中発生率の両群間差(未解析)。
二次解析は頸動脈治療後120日(intention-to-treat解析)・30日(per-protocol解析)の死亡率および合併症発生率の両群間差(一次エンドポイント:全脳卒中,死亡,手技による心筋梗塞[MI])。
コメント Lancet. 2010; 375: 985-97.へのコメント
本試験は,症候性の頸動脈狭窄を有する患者で頸動脈ステント留置(carotid stenting)と頸動脈内膜摘除術(carotid endarterectomy)の両方の治療に適した患者をいずれかの治療に無作為に割り付けて臨床イベントの発生頻度を比較した試験である。carotid stenting群でnon-disabling strokeの発生率が有意に高く,結果的に安全性の中間解析の評価項目である割り付け後120日のstroke/death/procedural myocardial infarctionの発生率はcarotid endarterectomy群に比しcarotid stenting群で有意に高いという結果であった。SPACEやEVA-3Sなどの先行研究からのメッセージと一致する結果であり,これらの結果を俯瞰的に見ると症候性の頸動脈狭窄を有する患者におけるcarotid stentingの役割は極めて限定的なものとなる。
本試験の問題点としては試験登録期間が2001年から2008年の7年間と極めて長いことが挙げられる。この間のcarotid stentingおよびcarotid endarterectomyの技術や手技の進歩と試験結果の関連をどのように考えるかは難しい問題である。また参加施設数は50施設であるが,1713例の登録に7年間を要したということは,1施設あたりの登録症例数は年間4-5例と極めて少数例となる。この間に各施設において診断された症候性頸動脈狭窄患者が無作為化試験の外側でどのような治療を受けたかは,試験結果を解釈する上で極めて重要である。論文中にはスクリーニングされて登録されなかった患者の記録はないと記載されている。スクリーニングされた患者の全体像を把握することは困難な仕事ではあるが,試験結果の外的妥当性を考える上で重要であり,それを達成することが試験の信頼性を大きく高めると考える。
carotid stentingは日本において広く行われている治療である。欧米と比較すると,頸動脈狭窄患者に対する治療の中でcarotid stentingの占める比率は,日本において著しく高いとも言われている。自分が正しいと信じていた治療法が科学的にチャレンジを受けた時に,carotid stentingに関わる医師がこの種の情報を患者にどのように伝え,また自身の治療法選択にどのような修飾を加えるのか注目すべきところである。(木村
デザイン PROBE(prospective, randomised, open, blinded endpoints),多施設(欧州,オーストラリア,ニュージーランド,カナダの50施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は3年。
登録期間は2001年5月~’08年10月。
対象患者 1,713例。40歳以上,NASCET(North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial) の基準による>50%のアテローム性頸動脈狭窄を有し,発症後12か月以内で,ステント/手術のいずれにも適応しているとみなされたもの。
除外基準:有効な機能回復のない重大な脳卒中;対象動脈におけるステントまたは頸動脈内膜切除術の既往,いずれかの治療法の禁忌,CABGまたは他の大手術の予定。
■患者背景:平均年齢70歳,男性(ステント群70%,内膜切除術群71%),高血圧治療例(両群とも69%),MIの既往(両群とも18%),CABGの既往(13%, 14%),2型糖尿病(16%, 17%),末梢動脈疾患(両群とも16%),喫煙歴(48%, 49%),高コレステロール血症治療例(61%, 66%),症候性頸動脈狭窄度:50~69%(11%, 9%);70~99%(89%, 91%),対側狭窄:<50%(66%, 65%);50~69%(15%, 17%);70~99%(12%, 13%),最新同側イベント:同側半球の虚血性脳卒中(46%, 44%);一過性脳虚血発作(32%, 35%);ランダム化前6か月以内のイベント(97%, 95%),ランダム化前の多発性同側症状(39%, 37%),最新の同側イベント前の同側脳卒中(15%, 12%),modified Rankin score 0~2(89%, 87%)。
治療法 ステント群(855例),内膜切除術群(858例)にランダム化。
ステント群ではaspirinおよびclopidogrelの使用を推奨,手技中のheparinおよびatropineその他の類似薬の使用は必須。
内膜切除術群の術式(標準法,Eversion法)は術者が自由に選択した。
ランダム化前,治療後30日,ランダム化後6か月,以後年1回の来院時にmodified Rankin scaleにより機能障害を評価した。
結果 ・中間報告(120日後のintention-to-treat解析結果[ステント群853例,内膜切除術群857例])
脳卒中+死亡+手技によるMIの複合イベント:ステント群72例(8.5%)vs 内膜切除術群44例(5.2%)でステント群のハザード比(HR)1.69;95%信頼区間 1.16~2.45,リスク差3.3%(0.9~5.7);p=0.006,大部分が初回の手技後30日以内に同側に発生した(ステント群61/72例,内膜切除術群31/44例)。
全脳卒中:65例(7.7%)vs 35例(4.1%):1.92;1.27~2.89(p=0.002),大部分が同側脳卒中(58例,30例),虚血性(脳梗塞)(63例,28例)。また,内膜切除術群の有効性はおもに障害を伴わない脳卒中(大半が症状が>7日継続)抑制によるものであった。
全死亡:19例(2.3%)vs 7例(0.8%):2.76;1.16~6.56(p=0.017)。
障害の残る脳卒中,死亡:34例(4.0%)vs 27例(3.2%):1.28;0.77~2.11(p=0.34)。
手技によるMI:ステント群3例(すべて致死性),内膜切除術群4例(すべて非致死性)。
脳神経麻痺がステント群1例 vs 内膜切除術群45例,血腫は31例 vs 50例(p=0.0197)。
・30日後のper-protocol解析(ステント群828例,内膜切除術群821例)
脳卒中+死亡+手技によるMIの複合イベント:61例(7.4%)vs 33例(4.0%):1.83;1.21~2.77(p=0.003)。
全脳卒中:58例(7.0%)vs 27例(3.3%):2.13;1.36~3.33(p=0.001),同側脳卒中(52例 vs 25例),脳梗塞(56例 vs 21例),障害の残る脳卒中(両群とも14例),致死的脳卒中(8例 vs 3例)。
全脳卒中,死亡:61例(7.4%)vs 28例(3.4%):2.16;1.40~3.34(p=0.0004)。
障害の残る脳卒中,死亡:26例(3.1%)vs 18例(2.2%):1.43;0.79~2.59(p=0.23)。
手技によるMI:3例(すべて致死性),5例(すべて非致死性)。
★解釈★重度の症候性頸動脈狭窄を有した手術適応患者における治療法は,ステントではなくやはり頸動脈内膜切除術を選択すべきである。内膜切除術と比較した頸動脈ステントの有効性を確立するには長期追跡の終了を待たねばならない。
文献
  • [main]
  • Ederle J et al for the International Carotid Stenting Study investigators: Carotid artery stenting compared with endarterectomy in patients with symptomatic carotid stenosis (International carotid stenting study): an interim analysis of a randomised controlled trial. Lancet. 2010; 375: 985-97. PubMed
    Rothwell PM: Carotid stenting: more risky than endarterectomy and often no better than medical treatment alone. Lancet. 2010; 375: 957-9. PubMed
  • [substudy]
  • 長期の転帰-4.2年後の致死的・後遺症を伴う脳卒中はCASとCEAは同等。
    試験は2011年中止。追跡期間最長10年,中央値4.2年の結果:致死的(発症から30日以内の死亡)・後遺症を伴う(30日後のmodified Rankin scaleスコア≧3)脳卒中は,頸動脈ステント(CAS)群52/853例(5年累積リスク6.4%)vs 内膜切除術(CEA)群49/857例(6.5%)で両群間に有意差はなかった。
    全脳卒中はCAS群のほうが多かった(ITT解析[1,710例]:119例 vs 72例;5年累積リスク15.2% vs 9.4%[p<0.001],per-protocol解析[1,563例]:8.9% vs 5.8%[p=0.04])が,大半が後遺症を伴わないものであった。1年後,5年後,最終追跡時の身体機能(modified Rankin scaleスコア)に有意な群間差はみられなかった:Lancet 2015; 385: 529-38. PubMed
  • 周術期の拡散強調画像上の虚血性病変-頸動脈ステント後は脳血管イベント再発リスクのマーカーとなる可能性。
    【MRIサブスタディ】手技前1~7日および手技後1~3日に頭部MRIを実施した231例において,手技後MRI以降に発症した脳卒中,一過性脳虚血発作(TIA)を,手技後MRIで認めた新規の病変を拡散強調画像[DWI]陽性例,陰性例別に比較した結果(頸動脈ステント[CAS]群124例,内膜除去[CEA]群107例;追跡期間中央値4.1年):手技後の新規虚血性病変の出現はCAS群62例(50%),CEA群18例(16.8%)。
    CAS群の脳卒中,TIAの再発症はDWI陽性例12/62例(5年累積リスク22.8%)vs 陰性例6/62例(8.8%)で,陽性例が陰性例より多かった(調整後ハザード比3.52;95%信頼区間1.21~10.22, p=0.021)。陽性例の8例,陰性例の2例が6か月以内に発症。
    一方,CEA群では脳卒中の再発に陽性例,陰性例の差はみられなかった:J Am Coll Cardiol. 2015; 65: 521-9. PubMed
  • 手技後の血圧-退院時の降圧はCAS群のほうがCEA群より大きかったが,1か月後に降圧は消失。降圧薬の使用は同群のほうが少なかった。
    手技後の血圧および降圧薬治療の変化を頸動脈ステント(CAS)群と頸動脈内膜切除術(CEA)群で比較した結果(CAS群587例,CEA群637例;追跡期間は1年):追跡期間中の治療は担当医に委ねた。
    血圧は退院時(CAS群:手技後3.2日,CEA群:3.6日),両群で収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP)ともにベースライン時にくらべ有意に低下したが(p<0.0001),降圧度はCAS群のほうがCEA群より有意に大きかった(両群間差:SBP-10.3mmHg, DBP-4.1mmHg;両血圧p<0.0001)。しかし,降圧は1か月後に消失した。降圧薬の使用率はCAS群のほうが有意に少なかった(CAS群:1か月後57%→6か月後67%→1年後67%,CEA群:67%→71%→74%):Stroke 2011; 42: 3491-6. PubMed

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収載年月2010.06
更新年月2015.04