循環器トライアルデータベース

All-Japan Utstein Registry of the FDMA
All-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster Management Agency

目的 日本全国において,公共の場への自動体外除細動器(AED)*の設置により心原性院外心停止後の生存率が改善したかを検証する。
一次エンドポイントは,1か月後の神経学的障害があっても軽度の生存率。
* 2004年7月から一般市民の使用が許可された。
コメント N Engl J Med. 2010; 362: 994-1004. へのコメント
公共の場へのAED設置率の上昇と目撃者によるCPR実施率の上昇により,院外VF発生者の救命率が上昇してきたことは喜ばしい。
処置が早期になされるほど救命率が高くなるにもかかわらず,目撃者のいるVF例でも設置されたAEDの使用率は4%未満にとどまっている。目撃者によってAEDが使用された例では,救急隊員によるAED使用例に比べて,生存率が明らかによい。この点(目撃者によるCPR,AED使用)が改善されれば,院外心停止例の救命率はさらに向上することが期待される。

Lancet. 2010; 375:1347-54. へのコメント
口うつし呼吸に抵抗を持つ一般人も多く,このことが目撃者によるCPR実施率上昇を妨げる要因とされていたが,胸部圧迫のみのCPRが,胸部圧迫に加え口うつし呼吸を行うCPR法に劣らないことが報告され,CPRのガイドラインが変更されてきた。
17歳以下の小児の,特に心原性の院外心停止例に限って胸部圧迫のみのCPRが従来のCPRと同等であることが初めてこの論文で示された。しかし,院外心停止例の70%を占める非心原性のものには従来のCPR法が優っていることが示された。目の前に倒れている小児が,心原性の心停止であるのか非心原性の心停止であるのかを一般の目撃者が判断することは容易ではないので,CPRを行う場合は「胸部圧迫+口うつし呼吸」を行うことが推奨される。(井上
デザイン 一般市民ベースの登録研究。
期間 観察期間は2005年1月~’07年12月の3年間。
参加者 院外心停止30万7,925例,うち心原性と推測されるものは16万8,827例。
18歳以上;2005年1月1日~’07年12月31日に救急隊員が蘇生を試みた心原性心停止例。
■患者背景:目撃者がいない心停止99,762例,目撃者のいる心停止55,271例,救急隊員に目撃された心停止13,024例,目撃者の有無不明の心停止770例,心室細動(VF)ではない心停止42,640例。
・目撃者がおり最初の心電図でVFだった心停止例(12,631例)の背景
2005年(3,841例)→ 2006年(4,388例)→ 2007年4,402例:平均年齢64.4歳→ 64.6歳→ 64.1歳,男性79.8%→ 79.5%→ 79.5%,家族が目撃者60.5%→ 58.7%→ 56.2%*,目撃者による心肺蘇生(CPR)43.3%→ 48.0%→ 53.6%*,胸部圧迫のみの蘇生法は19.4%→ 23.6%→ 31.1%,所要時間:倒れてからCPRまで;6.5分→ 6.0分→ 5.7分*,最初の電気ショックまで;12.0分→ 11.4分→ 11.6分,病院到着前の自発循環回復例21.4%→ 23.9%→ 28.4%*
* p<0.001
調査方法 2005年1月から消防庁が開始した全国規模の標準ウツタイン様式に基づく院外心停止患者のコホート研究の連続登録データを使用した。
神経学的に良好な転帰の関連因子を評価するために,多変量ロジスティック回帰分析を実施。
神経学的評価はCerebral Performance Category: CPC脳機能分類:1(良好な脳機能),2(中等度脳機能障害),3(重度脳機能障害),4(昏睡,植物状態),5(死亡)を使用した。
結果 [公共の場に設置されたAEDの台数の変化]
2005年:9,906台→ 2006年:4万3,212台→ 2007年:8万8,265台
台数/居住面積(km²):0.11台→ 0.48台→ 0.97台
台数/10万人:7.8台→ 33.8台→ 69.0台
[院外心停止例の変化]
10万人当たり,2005年:52.8件→ 2006年:54.2件→ 2007年:55.3件
心原性と思われるもの/10万人:27.8件→ 27.9件→ 28.4件
心原性+目撃者がいた場合/10万人:9.2件→ 9.5件→ 9.8件
心原性+VF+目撃者/10万人:2.5件→ 2.7件→ 2.8件

[AED関連]
目撃されたVFを伴う心原性心停止は1万2,631例で,うち,一般市民のAEDによる電気ショック実施は462例(3.7%)。実施率はAEDの公共の場への設置数増加に伴い,2005年:45例(1.2%)→ 2006年:143例(3.3%)→ 2007年:274例(6.2%)と上昇した(p<0.001 for trend)。
■AED実施例の背景:平均年齢(2005年:66.6歳→ 2006年:63.6歳→ 2007年:60.6歳*),男性(75.6%→ 75.5%→ 79.9%),家族が目撃者:17.8%→ 18.9%→ 9.5%(p=0.01),倒れてから最初の電気ショックあるいはCPRまでの時間:3.6分→ 3.5分→ 2.9分(p=0.03),病院到着前の自発循環回復例:26.7%→ 32.9%→ 46.0%(p=0.002)。
[転帰]
・一次エンドポイント:1か月後の神経学的障害があっても軽度(CPC 1,2)の生存率
14.4%(2005年;10.6%→ 2006年;12.9%→ 2007年;19.2%[p<0.001]),公共の場所でのAEDによる電気ショック実施例では31.6%(24.4%→ 28.7%→ 34.3%[p=0.11])であった。
・居住地域1km²あたりのAED設置台数が1台未満から4台以上に増加するとともに,電気ショックまでの時間は3.7分から2.2分と短縮し(p<0.001),神経学的障害があっても軽度の生存率は年間1,000万人当たり2.4人から8.9人へ増加した(p=0.01)。
[一次エンドポイント関連因子]
早期の除細動は,実施者を問わず(市民,救急隊員),VFを伴う心停止後の良好な神経学的転帰と関連した(電気ショックが1分遅れるごとの調整後オッズ比[OR]は0.91*;95%信頼区間0.89~0.92)。目撃者によるCPRの開始も非実施例に比べ良好な神経学的障害と関連し,CPRは胸部圧迫のみ(1.65*;1.40~1.96),一般市民による通常の胸部圧迫+口うつし呼吸(1.67*;1.40~2.00)のいずれも良好な神経学的障害と関連した。
AEDの使用には有意な関連はみられなかった(1.21;0.81~1.82, p=0.35)。
* p<0.001
★結論★日本全国での公共の場所へのAED普及により,一般市民による早期の電気ショックが実施され,院外心停止後の1か月後の神経学的障害があっても軽度な生存率が上昇している。

[主な結果]
  • Kitamura T et al for the implementation working group for the all-Japan Utstein registry of the Fire and Disaster Management Agency: Nationwide public-access defibrillation in Japan. N Engl J Med. 2010; 362: 994-1004. PubMed
  • 一般市民によるAED使用の増加(2005年:1.1%→’13年:16.5%)と,院外VF心停止から1か月後の神経学的に良好な生存者数の増加(6人→201人)は関連。AED使用例の1か月後の神経学的に良好な生存率は,非使用例の2倍以上。
    一般市民に対するAEDの普及が神経学的に良好な生存率上昇と関連しているかを,2005~’13年に目撃された心原性と思われる心室細動(VF)による心停止例で,目撃者あるいは救急隊員により蘇生が試みられ,医療機関に搬送された43,762例で検証した。
    AED使用は4,499件(10.3%・平均年齢63歳)。AEDによるショック実施患者は2005年の1.1%から’13年は16.5%に増加した(傾向p<0.001)。
    1か月後の神経学的障害が良好な(Cerebral Performance Category:CPCで評価)生存率は,AED実施の場合が非実施の場合にくらべ有意に高かった(38.5% vs 18.2%:調整オッズ比2.03;95%信頼区間1.87~2.20,プロペンシティスコアマッチング解析[AED実施例,非実施,それぞれ4,221例])後は1.99;1.80~2.19)。子ども,青少年(0~17歳:63.1% vs 37.1%:2.11;1.24~3.61),成人(18~74歳:46.6% vs 21.7%:2.29;2.09~2.50),≧75歳は15.6% vs 9.4%:1.29;1.06~1.56。
    1か月後の神経学的に良好な生存がAED実施によるものと推定された数は,2005年の6人から’13年は201人に増加し(傾向p<0.001),この増加は主に18~74歳でみられた(Kitamura T et al: Public-access defibrillation and out-of-hospital cardiac arrest in Japan. N Engl J Med. 2016; 375: 1649-59.)。 PubMed
  • 居合わせた人による胸部圧迫,除細動と生存率 - 2012年までの7年間で実施が増加し,神経学的後遺症のない生存率も上昇。
    居合わせた人による胸部圧迫,除細動と1か月後(または退院時)の神経学的後遺症のない生存との関連を検証した結果(16万7,912例;登録期間2005年1月~’12年12月):2005~’12年の7年間で目撃者のいる心原性と思われる院外心停止は17,882例(14.0/10,000人)から23,797例(18.7/10,000人)へ,神経学的後遺症のない生存は587例(年齢調整比3.3%)から1,710例(8.2%)へ増加。居合わせた人による胸部圧迫(38.6→50.9%),除細動(0.1→2.3%),居合わせた人+EMSによる除細動(0.1→1.4%)の実施率も上昇した反面,EMSのみによる除細動は減少した(26.6→23.5%)。
    神経学的後遺症のない生存率は,居合わせた人による胸部圧迫実施例が非実施例より有意に高かった(6,594例/78,592件[8.4%]vs 3,595例/88,720件[4.1%];オッズ比1.52)。除細動についても,EMSのみによる実施例(生存率15.0%)にくらべ,居合わせた人のみ(40.7%;オッズ比2.24),居合わせた人+EMS(30.5%;1.50)による実施例は有意に高かったが,除細動なしの症例は低かった(2.0%;0.43):JAMA 2015; 314: 247-54. PubMed
  • 居合わせた人に目撃された非心原性の院外心停止において口うつし呼吸による有効性が認められるが,全生存率への影響は小さい。
    居合わせた人に目撃された非心原性の院外心停止例(4万3,246例)のうち,胸部圧迫のみのCPRは8,878例(20.5%),標準的CPR(胸部圧迫+口うつし呼吸)は7,474例(17.3%):1か月後の神経学的障害のない生存率は,標準的CPR例(1.8%)がCPR非実施例(1.4%:調整オッズ比1.58;95%信頼区間1.28~1.96),胸部圧迫のみのCPR(1.5%:1.32;1.03~1.69)より高かった。しかし,胸部圧迫のみのCPRはCRP非実施と比べた良好な神経学的転帰をもたらさなかった(1.19;0.96~1.47)。
    胸部圧迫のみのCPRと比べた標準的CPRの神経学的転帰の良好な生存1例のための院外心停止例のNNTは290例:Circulation. 2010; 122: 293-9. PubMed
  • 17歳以下の小児においても目撃者による心肺蘇生(CPR)は有効
    17歳以下(5,170例):心原性1,495例[29%]・目撃者なし1,054例;非心原性3,675例[71%]・目撃者なし2,702例:目撃者によるCPR実施例は2,439例(平均年齢4.9歳,1歳未満の乳児40.8%,男児61.2%)で,従来のCPR(胸部圧迫+口うつし呼吸)実施は1,551例(30%),胸部圧迫のみは888例(17%)。
    目撃者によるCPR実施例は非実施例(2,719例)に比べ,1か月後の神経学的障害があっても軽度の生存率が高かった:110例(4.5%) vs 53例(1.9%):調整後オッズ比2.59;95%信頼区間1.81~3.71。
    ・1~17歳の非心原性心停止例:目撃者によるCPRは有効であった(51/1,004例[5.1%] vs 20/1,293例[1.5%]:4.17;2.37~7.32)が,現行CPRの方が胸部圧迫のみよりも神経学的転帰が良好(45/624例[7.2%] vs 6/380例[1.6%]:5.54; 2.52~16.99)。
    ・1~17歳の心原性心停止例:目撃者によるCPRの有効性が認められた(42/440例[9.5%] vs 14/339例[4.1%]:2.21;1.08~4.54)が,現行CPRと胸部圧迫のみCPRは同等であった(28/282例[9.9%] vs 14/158例[8.9%]:1.20;0.55~2.66)。
    ・乳児(1歳未満)は一様に転帰不良。
    1か月後の良好な神経学的転帰と関連した独立因子は,目撃者によるCPR(vs CRPなし),1~17歳(vs 1歳未満),最初の心電図が心室細動(VF)(vs 非VF),目撃者あり(vs なし),救急隊員によるCPR開始までの時間★考察★非心原性の小児院外心停止例において,CPR(胸部圧迫+口うつし呼吸)は,1か月後の神経学的障害があっても軽度の生存率を改善する。心原性心停止は胸部圧迫のみのCPRでも有効:Lancet. 2010; 375: 1347-54. PubMed

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収載年月2010.05
更新年月2017.01