循環器トライアルデータベース

NAVIGATOR
Nateglinide and Valsartan in Impaired Glucose Tolerance Outcomes Research

目的 心血管疾患または心血管危険因子を有する耐糖能異常 (IGT) 患者において,生活習慣の修正に加え次の2種類の治療を行った場合に,糖尿病および心血管イベントリスクが低下するかを検討する。
1) 短時間作用型インスリン分泌促進薬であるメチグリニド系血糖降下薬nateglinide試験。
2) ARB valsartan試験。
一次エンドポイントは(1) 糖尿病発症,(2) 中核的心血管転帰 (core cardiovascular outcome)(心血管死,非致死的心筋梗塞[MI],非致死的脳卒中,心不全による入院の複合),(3) 包括的心血管転帰 (extended cardiovascular outcome)(中核的心血管転帰構成イベント,血行再建術,不安定狭心症による入院の複合)。
コメント ■コメント 桑島 巌
■コメント 堀 正二

N Engl J Med. 2010; 362: 1463-76, 1477-90. へのコメント
ARBの敗北である。これまでARBは新規糖尿病発症予防効果においてCa拮抗薬より優れているとされてきた。しかもRA系抑制薬は,糖尿病を有する症例では第一選択薬として我が国の高血圧治療ガイドライン2009で推奨されている。しかしその根拠は,ほとんどすべてが大規模臨床試験の二次エンドポイントあるいは後付け解析から得られた結果であった。耐糖能障害例に対してACE阻害薬ramiprilの新規糖尿病発症予防効果を一次エンドポイントとしてプラセボと比較したDREAM試験では,ACE阻害薬の新規糖尿病発症予防は証明されなかった。またたとえRA系抑制薬が新規糖尿病発症予防に優れていたとしても,そのことがすなわち心血管合併症発症予防ではないことは,再三私が主張してきたことである。本試験はまさにそのことを見事に証明し,またARBをひたすら信奉してきた研究者にとって失望的なトライアルである。今回の結果は,かつて「代謝によい薬がよい薬」として宣伝されたα遮断薬が,ALLHAT試験で代謝に悪いとされる利尿薬よりもはるかに心血管合併症発症が多いことが証明されて以来,いまや第一選択薬から除外されたことを彷彿とさせる。
本試験でvalsartanが比較したのは,プラセボである。プラセボと比べて心血管合併症予防効果が認められないというのは,もはや治療薬としての意義を見出せないということでもある。当然ながらvalsartan治療群はプラセボ群に比べて収縮期血圧2.8mmHg/拡張期血圧1.4mmHg低い降圧が得られた。しかもその差は試験開始直後から認められている。それにもかかわらず心血管イベントに差がなかったことは,むしろプラセボの方に降圧を超えた臓器保護効果があることになる。またvalsartan治療群の新規糖尿病発症予防効果がプラセボ群に比較して14%減少したとはいっても,絶対的リスク減少はわずか3.7%である。すなわち5年間で100人中4人弱のヒトの糖尿病進展が予防できたに過ぎないのである。しかもそのことが心血管合併症予防効果につながらないということであればわざわざ5年間も高価なARBを処方する意味はほとんどない。
心血管イベント発症に有意差がつかなかった理由はいくつか考えられる。両治療薬群の参加者全員が生活習慣改善プログラムに参加することを義務づけられていたこと,高リスク症例では抗血小板薬,脂質異常症治療薬,β遮断薬の処方率は非常に高かったこと,プラセボ群の患者でも23%がACE阻害薬あるいはARBを服用していたこと,そしてvalsartanに対するアドヒアランスが不良なこと(最終的に66%)などが考えられる。しかしこれらは日常診療を反映させる状況でもあり,言い訳にはなりにくい。むしろ高リスク例では,生活習慣をきちんとおこない,抗血小板薬,スタチンなどを処方し,降圧利尿薬,Ca拮抗薬, ACE阻害薬など廉価な降圧薬で血圧を管理していれば,心血管保護薬としてのARBの必要性を見直すべきことを示唆しているともいえる。valsartanにかかわるトライアルは,左室拡張機能を検討したVALIDD研究,左室収縮機能をACE阻害薬と比較したVALIANT研究,心房細動再発予防を検討したGISSI-AF研究,そして今回のNAVIGATORと海外では有意な心血管イベント抑制効果を示せずにいる。(桑島


心血管疾患または心血管リスク因子を有する耐糖能異常(IGT))患者を対象として,食後高血糖を改善するnateglinide(短時間作用型インスリン分泌促進薬)と,糖尿病発症の抑制効果が期待できるvalsartan(ARB)を2×2 配置モデルで検証した二重盲検試験であるが,両薬剤とも心血管イベントの抑制には有効性を示さなかった。
nateglinide試験について:
nateglinideは,短時間作用型インスリン分泌促進薬であるので,食前に服用すれば,食後の高血糖が抑制され,糖尿病への移行も心血管イベントの抑制も期待されたが,効果は両者とも否定された。nateglinide投与群は,空腹時血糖はプラセボ群に比し若干の低下を示したが,ブドウ糖負荷2時間後の血糖値は,プラセボ群より有意に高値であった。これは,ブドウ糖負荷試験の当日朝の,nateglinide服薬を中止したためのリバウンドとしているが,もしそうだとすればプロトコール作成の不備であり,汚点を残したといえる。一方,ライフスタイルの改善は,これまでの2つの臨床試験で,糖尿病の発症を顕著に(58%)抑制しており,本試験でもライフスタイルの改善効果にマスクされた可能性は否定できないが,体重の減少は,プラセボ群より有意に小さく,nateglinide投与により,体重減少が得られにくかったことも考えられる。いずれにせよ,これまでの試験で,acarbose(αGI阻害薬)は3.3年で25%の糖尿病発症抑制がみられ,metoformin(ビグアナイド)では3年間で31%のリスク減少が,またrosiglitazone(チアゾリジン誘導体)で62%の減少(3年間)が報告されていることから,明らかに薬剤により糖尿病発症抑制効果は異なり,nateglinideにはその効果がなかったと考えざるを得ない。当然ながら,心血管イベントの抑制もみられなかったのは残念な結果である。
valsartan 試験について:
valsartan投与群で糖尿病の発症が14%抑制されたが,これまでのACE阻害薬やARBの成績(25~35%の抑制)より小さい。もちろん,患者背景も異なるが,本試験では,試験の最後でプラセボ群の24%の患者がACE阻害薬またはARBを服用していたとか,valsartan群の多くの人が治療を中断したとか,いくつかの不利な要因が存在するようである。しかし,一方で,これまでライフスタイルの改善が糖尿病の発症を強力に(58%)抑制することが示されており,valsartanの上乗せ効果は小さかったと考えられる。いずれにせよ,糖尿病発症の抑制効果は,心血管イベントの抑制には全くつながらなかった。糖尿病の発症抑制は100人中約4人の割合であり,この程度の抑制が心血管イベントの抑制につながるとは考えにくい。しかし,注目すべきは,valsartan群で,収縮期血圧が2.8mmHg, 拡張期血圧が1.4mmHg プラセボ群より低下しており,高血圧患者が70%以上を占めている対象群であることを考えると,血圧の低下が心血管イベントの抑制に作用してもよいはずである。また,ブドウ糖負荷試験で,負荷2時間血糖値もvalsartan群で有意に抑えられているが,心血管イベントの抑制に効いていない。サブ解析のデータから非致死性脳卒中の抑制には有効性を示唆しているが,心不全の入院についても有用性を示していない。VALIANT試験の成績も考えると,ARBの心血管イベント抑制効果には限界がある可能性を示している。(
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,2×2 factorial,多施設(40か国806施設)。
期間 追跡期間(中央値):糖尿病5年,中核的心血管転帰6.4年,包括的心血管転帰6.3年。
登録期間は2002年1月~2004年1月。
対象患者 9,306例。耐糖能異常,空腹時血糖値≧95mg/dLかつ<126mg/dL,1つ以上の心血管危険因子(55歳以上)または心血管疾患(50歳以上)を有する者。
除外基準:臨床検査値異常,過去5年以内に抗糖尿病薬を投与など,2)のみ降圧目的でのACE阻害薬またはARBの使用。
■患者背景
1) 年齢(nateglinide群63.7歳,プラセボ群63.8歳),女性(51.0%, 50.3%),白人(83.0%, 83.2%),BMI(両群とも30.5kg/m²),血圧(139.8/82.6mmHg, 139.5/82.5mmHg),危険因子(保有率:98.6%, 98.8%,高血圧:77.7%, 77.4%,non-HDL-Cの上昇:44.1%, 45.4%),心血管疾患既往(全体:24.5%, 24.2%,MI:12.2%, 11.2%,狭心症/負荷テスト陽性:8.7%, 8.8%), 糖尿病家族歴(38.6%, 37.6%),治療状況(β遮断薬:40.3%, 38.5%,Ca拮抗薬:32.7%, 32.0%,利尿薬:31.5%, 32.2%,脂質調節薬:38.7%, 38.2%,aspirinまたはその他の抗血小板薬:36.9%, 36.8%)。
2) 年齢(valsartan群63.7歳,プラセボ群63.8歳),女性(50.0%, 51.3%),白人(両群とも83.1%),BMI(30.4kg/m², 30.6kg/m²),危険因子(保有率:98.6%, 98.8%,高血圧:77.3%, 77.8%,non-HDL-Cの上昇:44.6%, 44.9%,若年での心疾患発症家族歴:16.9%, 16.3%),心血管疾患既往(全体:24.8%, 23.9%,MI:11.9%, 11.6%,狭心症/負荷テスト陽性:9.0%, 8.6%),糖尿病家族歴(37.5%, 38.7%),治療状況(β遮断薬:40.2%, 38.6%,Ca拮抗薬:32.0%, 32.7%,降圧薬:73.4%, 73.1%,利尿薬:31.3%, 32.3%,脂質低下薬:38.5%, 38.4%,aspirin,その他の抗血小板薬:37.3%, 36.3%)。
治療法 全例に生活習慣修正プログラム(体重5%減,脂質摂取制限,身体活動時間を週150分に増加)を実施し,下記の治療を行った。
1) nateglinide群(4,645例):nateglinide 30mg×3回/日(毎食前投与)から開始し,2週間後に60mgに増量,プラセボ群(4,661例)。
2) valsartan群(4,631例):valsartan 80mg 1日1回投与から開始し,2週間後に160mgに増量,プラセボ群(4,675例)。
結果 1) nateglinide試験
一次エンドポイントのいずれについても,nateglinideによる有意な予防効果は示されなかった:糖尿病発症(nateglinide群36.0% vs プラセボ群33.9%:ハザード比1.07;95%信頼区間1.00~1.15, p=0.05),中核的心血管転帰(7.9% vs 8.3%:0.94;0.82~1.09, p=0.43),包括的心血管転帰(14.2% vs 15.2%:0.93;0.83~1.03, p=0.16)。心血管転帰の構成イベント,心血管疾患による入院,全死亡についても有意な群間差は認められなかった。転帰に対するnateglinideとvalsartanの交互作用も認められなかった。
nateglinide群で低血糖リスクが有意に増加した(19.6% vs 11.3%, p<0.001)。
★結論★心血管疾患または心血管危険因子を有する耐糖能異常患者において,生活習慣改善に加えてnateglinideを5年間投与による糖尿病発症または複合心血管イベント予防効果は認められなかった。

2) valsartan試験
[血圧値]
血圧低下はvalsartan群でプラセボ群に比べ有意に大きく,両群間差は収縮期血圧2.8mmHg(95%信頼区間2.4~3.2, p<0.001),拡張期血圧1.4mmHg(1.2~1.7, p<0.001)であった。
[糖尿病]
累積発生率はvalsartan群で有意に低かった(valsartan群33.1% vs プラセボ群36.8%:ハザード比0.86;0.80~0.92, p<0.001)。血糖値の低下はvalsartan群でプラセボ群よりも大きかった(群間差:空腹時0.59mg/dL;0.16~1.02, p<0.01,糖負荷2時間後3.15mg/dL;1.58~4.72, p<0.001)。
[心血管転帰]
valsartan群のプラセボ群に比べた有意な心血管イベント抑制は認められなかった(中核的心血管転帰は8.1% vs 8.1%:0.99;0.86~1.14, p=0.85,包括的心血管転帰は14.5% vs 14.8%:0.96;0.86~1.07, p=0.43)。心血管転帰の構成イベント,心血管疾患による入院,全死亡についても有意な群間差は認められなかった。
★結論★心血管疾患または心血管危険因子を有する耐糖能異常患者において,生活習慣改善に加えてvalsartanを5年間投与することにより糖尿病発症率は14%低下したが,心血管イベントの発生は抑制しなかった。
ClinicalTrials. gov No: NCT00097786
文献
  • [main]
  • 1) The NAVIGATOR study group: Effect of nateglinide on the incidence of diabetes and cardiovascular events. N Engl J Med. 2010; 362: 1463-76. PubMed
  • 2) The NAVIGATOR study group: Effect of valsartan on the incidence of diabetes and cardiovascular events. N Engl J Med. 2010; 362: 1477-90. PubMed
    Nathan DM: Navigating the choices for diabetes prevention. N Engl J Med. 2010: 362: 1533-35. PubMed
  • [substudy]
  • 歩行運動と心血管リスク-1日の歩数,ベースラインと12か月後の変化ともにリスクと負の関係。
    歩数計で計測した1日の歩数(ベースライン値,12か月後の変化)と12か月後以降の心血管イベント(心血管死+非致死的心筋梗塞+非致死的脳卒中)の関係を評価した結果(45,211人・年追跡):歩数データがベースライン時,12か月後ともに得られたのは4,345例。全例での1日の歩数はベースライン時5,892歩→12か月後6,320歩(いずれも中央値)。12か月後の歩数の変化を4群にわけると,>1,500歩減少した患者(1,099例)はベースライン歩数がもっとも多かった(9,325歩)。その他3群のベースライン歩数は,1~1,500歩減少例(1,068例)5,778歩,0~1,499歩増加例(1,097例)5,338歩,≧1,500歩増加例(1,081例)5,156歩。
    心血管イベントの発生は531件。欠測値(ベースライン歩数25%,12か月後の歩数45%,その他変数<3%)を多重代入法で補完し,全例(9,306例)で解析した結果,ベースライン歩数の2,000歩増加ごとに,心血管イベントリスクは有意に低下した(調整ハザード比0.90;95%信頼区間0.84~0.96, p=0.0014)。12か月後の歩数の変化についても同様の結果が得られた(2,000歩増加ごとに0.92;0.86~0.99, p=0.0271)。これらの結果は,BMIの変化,12か月間の不安定狭心症の発症,eGFRの変化交絡因子で調整後も変わらなかった。また,データが揃った患者のみで解析しても結果に大きな影響はなかった:Lancet. 2014; 383: 1059-66. PubMed

▲pagetop
EBM 「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収載年月2010.03
更新年月2014.02