循環器トライアルデータベース

ARBITER 6-HALTS
Arterial Biology for the Investigation of the Treatment Effects of Reducing Cholesterol 6-HDL and LDL Treatment Strategies

目的 スタチン系薬剤を長期投与している冠動脈疾患(CAD)患者,CADと同等のリスク患者において,スタチンへの上乗せ効果をHDL-Cを上昇させるニコチン酸徐放剤(niacin)とLDL-Cを低下させるコレステロールトランスポーター阻害薬ezetimibeとで比較する。

一次エンドポイントは14か月後の総頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)の変化。
コメント 動脈硬化予防にLDL-Cを低下させることが重要であることが,ほぼ確立された。しかし,その程度は30%前後であり,これ以上の効果を期待するうえで,LDL-Cをより低下させることがいいのか,HDL-Cを上昇させるのがいいのかという切り口は,極めて興味ある問題である。本論文ではHDL-C上昇のナイアシンが,LDL-Cをより低下させるエゼチミブ(EZ)に勝って頸動脈内膜中膜肥厚(IMT)を改善したとする結論を導いている。しかし,これには若干の問題点がある。第一に,中間解析で,有意差が出たということで,データアドバイザリー委員会の判断で早期の中断がなされたことである。IMTはいわばサロゲートマーカーである。真のエンドポイントである総死亡や心血管イベントであれば,中断の意図が理解できるが,サロゲートマーカーに差が出たということで,なぜ中断を決定したのかという疑問が残る。第二に,本研究がPROBE法であるにもかかわらず対象患者は約200名とあまりにも少ないという点である。バイアスが出る可能性を十分考慮する必要があるであろう。実際,ナイアシンを用いた試験でIMTを改善できなかったとする別の試験も存在するからである。EZについても14か月でLDL-C低下の効果がIMTに反映できるかということには多少疑問が残る。もともとスタチンで治療されておりIMTがほぼ正常な患者を対象としている点も問題である。第三に,HDL-Cの上昇が,IMTを改善したのかという点である。ナイアシンがIMTを改善する可能性があることは言えるが,ナイアシンのLDL-C,トリグリセライド,Lp(a)低下効果をどう評価するか,この点も考慮すべきであろう。さまざまな問題点があり,今後物議を醸し出す可能性のある論文である。(寺本
デザイン PROBE (prospective, randomized, open, blinded-endpoint),多施設(2施設)。
期間 追跡期間は14か月。
登録期間は2006年11月16日~2009年6月4日。
対象患者 208例。30歳以上;冠動脈アテローム性動脈硬化あるいは血管疾患;CADに匹敵する危険因子(糖尿病,10年Framingham risk score≧20%,冠動脈石灰化スコア;女性>200,男性>400)を有するもの;一定量のスタチン系薬剤単独投与例で3か月以内のLDL-C<100mg/dL,HDL-C;女性<55mg/dL,男性<50mg/dLのもの。
■患者背景:平均年齢(ezetimibe群65歳,ニコチン酸徐放剤群64歳),男性(82%, 78%),糖尿病(40%, 32%),高血圧(86%, 85%),CAD家族歴(38%, 49%;p=0.09),CAD既往:虚血の記録のある狭心症(37%, 35%);血管造影で確認されたCAD(63%, 65%);心筋梗塞(33%, 28%),PCI(44%, 30%;p=0.05),CABG(23%, 26%),BMI(31.0kg/m², 30.8kg/m²),血圧(136/75mmHg, 132/74mmHg),総コレステロール(146.6mg/dL, 145.6mg/dL),トリグリセライド(中央値:122mg/dL, 126mg/dL),血糖値(104.0mg/dL, 100.1mg/dL),hs-CRP(中央値:1.9mg/dL, 1.3mg/dL)。
治療状況:β遮断薬(75%, 71%),aspirin(試験期間中も含む;94%, 97%),clopidogrel(28%, 32%),ACE阻害薬(59%, 63%)。
治療法 ezetimibe群(111例):10mg/日投与。
ニコチン酸徐放剤群(97例):就寝時500mgより投与を開始し,隔週ごとに500mgずつ,最大忍容量(2,000mg/日)まで増量した。
結果 予定より早く終了。
[ベースライン時のスタチン治療背景]
simvastatin(ezetimibe群39%,ニコチン酸徐放剤群54%;p=0.09),atorvastatin(57%, 40%),pravastatin(2%, 4%),rosuvastatin(3%, 2%)。
平均投与量:両群とも42mg/日。
スタチン治療期間:6.1年,5.2年。

[脂質値の変化]
LDL-Cはezetimibe群の方が有意に低下し,HDL-Cはニコチン酸徐放剤群が有意に上昇した。
LDL-C:ezetimibe群:ベースライン時83.7mg/dL→終了時66mg/dL;17.6mg/dL(19.2%)低下(p<0.001),ニコチン酸徐放剤群:80.5mg/dL→ 10.0mg/dL低下;p=0.01)。
HDL-C:43.3mg/dL→ 2.8mg/dL低下,42.5mg/dL→ 50mg/dL;7.5mg/dL(18.4%)上昇(p<0.001)。
トリグリセライドは両群とも低下した。
[一次エンドポイント:14か月後の総頸動脈IMTの変化]
14か月間の総頸動脈IMTに対する影響はニコチン酸徐放剤群の方が有効で(p=0.003),平均IMT(p=0.001),最大IMT(p≦0.001)ともに有意に低下した。
ezetimibe群ではLDL-Cの有意な低下にかかわらずIMTは増加した(R=-0.31, p<0.001)。
・平均IMT
ezetimibe群:ベースライン時0.8957mm→ 8か月後;+0.0014mm(p=0.48 vs ベースライン時)→ 14か月後;-0.0007mm(p=0.84 vs ベースライン時)。
ニコチン酸徐放剤群:0.9001mm→-0.0102mm(p=0.001)→-0.0142mm(p=0.001)。両群間のp値はベースライン時:p=0.83,8か月後:p=0.001,14か月後:p=0.01。
・最大IMT
ezetimibe群:1.0065mm→-0.0028mm(p=0.38 vs ベースライン時)→-0.0009mm(p=0.81 vs ベースライン時)。
ニコチン酸徐放剤群:1.0092mm→-0.0128mm(p=0.004 vs ベースライン時)→-0.0181mm(p<0.001 vs ベースライン時)。両群間のp値はベースライン時:p=0.90,8か月後:p=0.057,14か月後:p=0.006。
[主要な心血管イベント]
ezetimibe群9例(5%),ニコチン酸徐放剤群2例(1%)(p=0.04)。
★結論★スタチン系薬剤に併用した場合の頸動脈IMT退縮効果はニコチン酸徐放剤の方がezetimibeより大きい。
Clinicalrials.gov No: NCT00397657
文献
  • [main]
  • Taylor AJ et al: Extended-Release Niacin or Ezetimibe and Carotid Intima-Media Thickness. N Engl J Med. 2009; 361: 2113-22. PubMed
    Blumenthal RS and Michos ED: The HALTS Trial -- Halting Atherosclerosis or Halted Too Early? N Engl J Med. 2009; 361: 2178-80. PubMed
    Kastelein JJ and Bots ML: Statin Therapy with Ezetimibe or Niacin in High-Risk Patients. N Engl J Med. 2009; 361: 2180-3. PubMed
  • [substudy]
  • スタチンを投与しているCAD,高リスク患者において,ezetimibe曝露量が多くLDL-C低下が大きいほど,頸動脈IMTが進展。
    ezetimibeを投与した159例においてezetimibe曝露量,LDL-C低下と頸動脈IMT(CIMT)の変化の関係を評価したpost hoc解析の結果:LDL-Cの低下(ベースライン時84→66mg/dL)は試験期間中のCIMTの変化量(0.898→総変化量-0.002mm)には影響を及ぼさなかったが,LDL-C低下が大きいほどCIMTが進展するという負の関係が認められた(r=-0.266, p<0.001)。また,累積ezetimibe曝露量とCIMT進展にも有意には至らなかったが関係が認められた(r=0.16, p=0.051)。ベースライン時のLDL-CおよびLDL-C達成値とCIMTとの関連は認められなかった。
    多変量モデルにおいて,LDL-Cの低下量(p=0.005)と累積ezetimibe曝露量(p=0.02)はいずれもCIMTの進展と有意に関連した:Eur Heart J. 2012; 33: 2939-45. PubMed
  • スタチン系薬剤に併用した場合の頸動脈IMT退縮効果はニコチン酸徐放剤の方がezetimibeより大きい-試験が予定より早く終了したため,完了していなかった登録例の追跡期間を延長
    315例(試験早期終了時の208例+終了からさらに平均7か月追跡107例)の結果:ニコチン酸徐放剤群(154例)では,平均頸動脈IMT(CIMT)が-0.0102mm(p<0.001),最大CIMTが-0.0124mm(p=0.001)と有意に退縮した。一方,ezetimibe群(161例)ではそれぞれ-0.0016mm(p=0.88), -0.0005mm(p=0.88)と退縮しなかった。平均CIMT(p=0.016),最大CIMT(p=0.01)のいずれもニコチン酸徐放剤群の方が有意に改善した。投与期間が長いほど,ニコチン酸徐放剤群ではCIMTの退縮と,ezetimibe群では進展と関連した:J Am Coll Cardiol. 2010; 55: 2721-6. PubMed

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収載年月2009.11
更新年月2012.12