循環器トライアルデータベース

CHAMPION PCI
Cangrelor versus Standard Therapy to Achieve Optimal Management of Platelet Inhibition PCI

目的 PCI施行例において,非チエノピリジン系の新規抗血小板薬であるADP受容体P2Y12阻害薬cangrelor*の前投与(静注)の有効性をチエノピリジン系抗血小板薬clopidogrelと比較する。
一次エンドポイントはPCI施行から48時間以内の全死亡,心筋梗塞(MI),虚血による血行再建術(IDR)再施行の複合。
* 半減期は3~6分,可逆性のため投与中止後30~60分で血小板機能が正常化。
コメント CHAMPION PLATFORMにも記載したが,現在の抗血小板薬の薬効はすでに飽和している。
1980年代であれば,aspirinの服用により心筋梗塞症例の入院期間内の心血管死亡率の25%の減少を示すことができた。しかし,clopidogrelのpivotal trialであるCURE試験において,すでに心血管死亡率の減少効果を示すことはできなかった。より強力にP2Y12を阻害すれば,心血管死亡/心筋梗塞/脳卒中の複合エンドポイントは減少するが重篤な出血性合併症も増えてしまう。止血という生理機能を担う血小板の機能阻害ではすでにイベント抑制は期待できない,というのが血小板の専門家のスタンスであろう。欧米人の偉いところは,論理的には有効性を示せる可能性が低いとわかっている試験でも実施して検証するところである。彼らのランダム化試験 (RCT) に対する信仰は必ずしも尊敬できないが,徹底した実証主義は驚嘆に値する。比較的少数であるが,カングレロー (cangrelor) があることによって大きなメリットを得る症例はRCTでは見いだし難い。職人的,良心的で,医療をビジネスとしない日本人医師であれば,cangrelorという道具を与えれば,これを工夫して少数のメリットを得る症例の予後を改善させるツールとしてうまく使ってくれると思うが,どのようにして日本の規制当局を納得させるか,日本なりの方法を考える必要がある。(後藤
デザイン 無作為割付け,二重盲検,多施設(14か国268施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は1年。
2009年5月13日登録中止。
対象患者 8,877例。閉塞性冠動脈疾患を有する安定・不安定狭心症あるいは非ST上昇型MI患者でPCI予定例*
* 2007年5月のプロトコール変更により急性冠症候群(ACS)の明確な特徴(primary PCIが予定されているST上昇型MI,心マーカー陽性の非ST上昇型ACS,dynamic ECG変化が認められる胸痛を有する≧65歳あるいは糖尿病)を求められ,安定狭心症は登録をやめた。
■患者背景:年齢中央値(62歳),男性(cangrelor群73.9%,clopidogrel群72.2%),白人(82.6%, 81.7%),安定狭心症(15.1%, 15.0%),不安定狭心症(24.7%, 24.5%),ST上昇型MI(11.0%, 11.5%),喫煙例(28.5%, 29.1%)
既往:糖尿病(両群とも30.5%),高血圧(72.1%, 71.0%),高コレステロール血症(66.6%, 65.5%),冠動脈疾患家族歴(45.9%, 46.5%),MI(24.6%, 24.8%),PTCA/PCI(28.6%, 28.5%),CABG(12.6%, 12.4%)。
周術期の抗トロンビン薬:bivalirudin(29.6%, 30.1%),未分画heparin(55.0%, 55.3%),低分子量heparin(8.3%, 7.7%),GP IIb/IIIa受容体拮抗薬(26.3%, 26.7%)。
標的血管数:1枝(88.0%, 87.4%),2枝(11.1%, 11.7%),ステントのタイプ:薬剤溶出性ステント(DES)(59.2%, 59.0%),非DES(37.6%, 37.7%)。
治療法 cangrelor群(4,433例):30μg/kgをボーラス静注後,4μg/kg/分を注入。静注はPCI施行の30分前に開始し,≧2時間あるいはPCIが終了(いずれか時間が長い方)するまで継続静注。担当医師の判断で静注は4時間継続も可。
clopidogrel群(4,444例):150mg×4錠。手技後の投与期間は担当医に委ねたが,手技が済むまでは所定の投与量を超える追加投与は不可。
PCI施行前12時間以内の血栓溶解薬,GP IIb/IIIa受容体拮抗薬の投与,また5日以内のclopidogrel>75g/日投与は不可とした。
全例にaspirin 75~325mgを投与し,抗凝固薬の併用投与,GP IIb/IIIa受容体拮抗薬の投与は担当医に委ねた。
結果 70%の解析を行った時点で中間解析審査委員会はcangrelorの優越性は低いと報告したが,安全性の懸念がなかったため,もう一つの試験CHAMPION PLATFORMの中間解析を実施するまで試験を継続。しかし,PLATFORM試験でもcangrelorの優越性が低かったため2009年に8,877例(予定の98.6%)を登録した時点で登録を中止した。

[試験薬,PCI]
PCI非実施例は161例(1.8%:cangrelor群65例[1.5%],clopidogrel群96例[2.2%])。
PCI時間は0.4時間(中央値),入院からPCIまでの時間は6.3時間(中央値)。
cangrelor静注時間は2.1時間(中央値)。
[一次エンドポイント:48時間後の全死亡,MI,IDR]
cangrelor群のclopidogrel群に対する優越性は認められず,30日後も同様であった。
cangrelor群7.5% vs clopidogrel群7.1%:オッズ比(OR)1.05;95%信頼区間0.88~1.24(p=0.59)。
・一次エンドポイント構成イベント別結果
全死亡:8例(0.2%) vs 5例(0.1%):1.59;0.52~4.87(p=0.42)
MI:278例(7.1%) vs 256例(6.6%):1.09;0.91~1.29(p=0.36)
IDR:13例(0.3%) vs 23例(0.6%):0.56;0.28~1.11(p=0.10)
[予備(exploratory end points)解析,サブ解析]
・死亡,Q波梗塞,IDRはcangrelor群で低下したが有意ではなかった:0.6% vs 0.9%:0.67;0.39~1.14(p=0.14)。
安定狭心症例:cangrelor群のclopidogrel群に対するORは0.86(0.56~1.34),不安定狭心症+非ST上昇型MI例:1.09(0.90~1.31),ST上昇型MI例:1.06(0.54~2.09)。
[安全性]
大出血:ACUITY出血基準ではcangrelor群でリスクが増大しclopidogrel群と比べ有意差に近かった:3.6% vs 2.9%:1.26;0.99~1.60(p=0.06)。しかし,TIMI出血基準の大出血(p=0.39),GUSTO基準の重度あるいは生命を脅かす出血(p=0.82)では同群のリスク上昇はみられなかった。
★結論★PCI例における48時間後の全死亡,虚血性イベント抑制において,cangrelorの施行30分前投与および施行後2時間までの継続投与のclopidogrel 600mgに対する優越性は認められなかった。
ClinicalTrials gov. No: NCT00305162
文献
  • [main]
  • Harrington RA et al: Platelet Inhibition with Cangrelor in Patients Undergoing PCI. N Engl J Med. 2009; 361: 2318-29. PubMed
    Kastrati A and Ndrepepa G: Cangrelor -- A Champion Lost in Translation? N Engl J Med. 2009; 361: 2382-4. PubMed

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収載年月2009.11