循環器トライアルデータベース

CHAMPION PLATFORM
Cangrelor versus Standard Therapy to Achieve Optimal Management of Platelet Inhibition Platform

目的 PCI施行例において,新規抗血小板薬である可逆的ADP受容体P2Y12阻害薬cangrelor*の有効性を検討する。
一次エンドポイントはPCI施行から48時間後の死亡,心筋梗塞(MI),虚血による血行再建術(IDR)再施行の複合。
* 半減期は3~6分,投与中止後60分以内に血小板機能が正常化する。
コメント 欧米人は臨床試験の蓄積によりあるべき医療介入を見いだそうとしている。
彼らの仮説は「P2Y12阻害薬であるクロピドグレル(clopidogrel)をPCI後大量投与してP2Y12を速やかに阻害した方が予後がいいのだから(過去の300mg loadingと非loadingの比較,最近の300mg loadingと600mg loadingの比較など),PCI中の静注を行えばさらに予後がいいはずだ」との仮説を,clopidogrelとは全く別の,しかし同じクラスのP2Y12阻害薬であるカングレロー (cangrelor) により検証した。実際は,冠動脈インターベンション後の血栓イベントを規定する因子は血小板のみではないし,血小板の関与もADP受容体P2Y12を介するものではない。いかなるP2Y12阻害薬を使用しても,短期間に強力なイベント抑制効果を期待することは抗血小板薬,特にP2Y12阻害薬では無理であろう。世の中にはP2Y12受容体欠損の症例がいる。P2Y12受容体欠損は出血性疾患である。現在のclopidogrelローディング,プラスグラル (prasugrel) などは既に人工的なP2Y12欠損症を作り出すほど強力である。作用の発現が早く,また投与中止も効果消失も早いcangrelorは,clopidogrelなど効果消失の遅い薬剤との併用を前提とせず,輸血が必要な冠動脈バイパス手術を直前とした症例などに限局的に使用すべきであろう。筆者はイベント率が著しく低下した現在の急性冠症候群の世界では,RCTにより有効性を検証するとの方法論が破綻していると理解している。このような薬剤が必要となる極めて限られた少数の症例がいることは事実であろうが,それを科学的に見いだす方法論はRCTではない。雰囲気,経験などの専門医の専門医たる能力のもとでのみ有用な薬剤があることを非専門医,一般国民に理解させるためにはどうしたらいいのであろうか?(後藤
(関連トライアル CHAMPION PCI
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(18か国218施設),intention-to-treat (ITT) 解析。
期間 追跡期間は1年。
登録期間は2006年10月~2009年5月。
対象患者 5,301例(modified ITT解析例)。≧18歳;PCI適応(ステント植込みの有無は問わない)の病変が≧1か所あることが血管造影で確認されているもの;非ST上昇型MIあるいは不安定狭心症(プロトコール変更前は安定狭心症も可);不安定狭心症の診断(24時間以内に安静時に≧10分持続する虚血性胸部不快感,dynamic ECG変化)を有する≧65歳あるいは糖尿病患者(いずれか,または両方)。
除外基準:7日以内のclopidogrelなどのチエノピリジン系薬剤投与例;staged PCI例で最初の手技から30日以内に2回目の手技が予定されているもの;PCI後12時間以内の入院予定例;48時間以内のST上昇型MI;出血リスク増大例(前年の脳梗塞既往あるいは発症時期を問わない脳出血既往)など。
■患者背景(modified ITT解析例:cangrelor群2,656例,プラセボ群2,645例)
年齢中央値(63歳),男性(cangrelor群71.9%,プラセボ群70.4%),白人(75.9%,75.8%);アジア人(両群とも17.9%),安定狭心症(5.2%,5.3%);不安定狭心症(35.4%,34.4%);非ST上昇型MI(59.4%,60.3%),喫煙例(31.9%,30.4%)。
既往:糖尿病(30.6%,32.6%),高血圧(両群とも74.5%),高コレステロール血症(53.6%,53.9%),冠動脈疾患家族歴(36.2%,35.9%),MI(24.2%,25.8%),PTCA/PCI(14.1%,15.5%),CABG(7.5%,8.4%)。
周術期の抗トロンビン薬:bivalirudin(両群とも21.0%),未分画heparin(64.0%,64.1%),低分子量heparin(18.1%,18.8%),GP IIb/IIIa受容体拮抗薬(9.1%,9.2%)。
標的血管数:1枝(83.6%,83.3%),2枝(両群とも15.6%),ステントのタイプ:薬剤溶出性ステント(DES)(38.9%,38.6%),非DES(56.9%,57.1%)。
治療法 cangrelor群(2656例):PCI施行時に30μg/kgをボーラス静注後,4μg/kg/分を注入,プラセボ群(2645例)。
注入は2~4時間で行い,静注終了後,あるいはPCI終了後(いずれか時間が長い方),両群ともclopidogrel 600mgを投与。
結果 中間報告でcangrelorのプラセボと比較した優越性が認められなかったため,2009年5月13日に(CHAMPION PCIの論文:N Engl J Med. 2009 Nov 17. PubMed)登録を中止した。
一次解析(modified ITT解析):cangrelor群2,656例,プラセボ群2,645例
確認解析(ITT解析):2,693例,2,669例

[試験薬,PCI]
注入時間(中央値:2.1時間)。
入院からPCIまでの所要時間(中央値:7.9時間)。
[一次エンドポイント(modified ITT解析例。データ紛失例調整後):48時間後の死亡,MI,IDRの複合]
cangrelor群185/2,654例(7.0%) vs プラセボ群210/2,641例(8.0%):cangrelor群のプラセボ群に対するオッズ比0.87;95%信頼区間0.71~1.07(p=0.17)。
・一次エンドポイント構成イベントの結果(二次エンドポイント)
全死亡:6例(0.2%) vs 18例(0.7%):0.33;0.13~0.83(p=0.02)
MI:177例(6.7%) vs 191例(7.2%):0.92;0.74~1.13(p=0.42)
IDR:19例(0.7%) vs 24例(0.9%):0.79;0.43~1.44(p=0.44)
[cangrelor群が有意に抑制した二次エンドポイント]
全死亡:6例(0.2%) vs 18例(0.7%):0.33;0.13~0.83(p=0.02),30日後の両群間差は有意ではなくなった。
48時間後のステント血栓症:5例(0.2%) vs 16例(0.6% ):0.31;0.11~0.85(p=0.02)。この有意差は30日後も持続した。
[サブ解析]
ベースライン時にトロポニン非上昇例(1,659例):一次エンドポイントはcangrelor群4.6% vs プラセボ群7.2%:0.62;0.41~0.95(p=0.03)。
[安全性]
輸血:1.0% vs 0.6%(p=0.13)
大出血:ACUITY出血基準;cangrelor群でリスクが有意に増大:5.5% vs 3.5%(p<0.001),GUSTO出血基準の重度あるいは生命を脅かす出血;0.3% vs 0.2%(p=0.45),TIMI出血基準の大出血;0.2% vs 0.3%(p=0.17)。
★結論★PCI施行中のcangrelor静注はプラセボに対する一次エンドポイント抑制の優越性を示すことはできなかった。cangrelorの有効性がみられた二次エンドポイントがあり,輸血が増加しなかったことから,cangrelorのさらなる試験が必要だと思われる。
ClinicalTrials gov. No: NCT00385138
文献
  • [main]
  • Bhatt DL et al for the CHAMPION PLATFORM Investigators: Intravenous Platelet Blockade with Cangrelor during PCI. N Engl J Med. 2009; 361: 2330-41. PubMed
    Kastrati A and Ndrepepa G: Cangrelor -- A Champion Lost in Translation? N Engl J Med. 2009; 361: 2382-4. PubMed

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収載年月2009.11