循環器トライアルデータベース

Dutch Stent Thrombosis Registry

目的 ステント血栓症の長期転帰を検証するオランダの登録研究からの2報。
(1) ステント血栓症の予測因子(J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 1399-409.)
(2) ステント血栓症後の長期転帰(Circulation. 2009; 119: 828-34.):一次エンドポイントは心臓死,ステント血栓症*再発の複合。
* Academic Research Consortium(ARC)定義の“definite”とした。
コメント Dutch Stent Thrombosis Registryはオランダの3施設から報告された437例のステント血栓症発症例のレジストリーである。ステント血栓症評価の問題点は「発生頻度が極端に低いため,危険因子や予後の評価が困難である」という点である。本研究は437例という報告時点で最大規模のステント血栓症レジストリーであり,ステント血栓症の危険因子や血栓症再発に関して貴重な知見を提供している。
一方で本研究の問題点も指摘しておきたい。ステント血栓症危険因子を評価する目的は,1) ハイリスク患者を同定し,適切な予防措置を講ずること,および 2) ステント血栓症の発生機序に迫ることである。ステント血栓症の発生機序に迫るという点からすると,薬剤溶出性ステント(DES)とベアメタルステント(BMS)のステント血栓症発症機序は異なると考えられるため2種類のステントを一緒にして解析することは不適切である。また現在DESに関して問題になっているのは遅発性ステント血栓症であり,本研究における遅発性ステント血栓症の症例数は必ずしも十分とは言えない。さらに1年以降に発生する超遅発性ステント血栓症と1年以内の遅発性ステント血栓症ではその発生機序が異なることが想定されるため,これらをひっくるめて解析したのではDESに特有とされる超遅発性ステント血栓症の発生機序に迫ることはできない。
さらにclopidogrelの中止とステント血栓症の関係が強調されているが,BMS症例とDES症例でclopidogrel投与期間は著しく異なっていると想定され,これを一緒に評価することは不適切である。また我々はステント留置後1ヶ月以降にはclopidogrelのみの中止ではなく,aspirin/ clopidogrelの同時中止こそがステント血栓症のリスクを増大させると報告したが,本研究ではaspirinの服薬状況が評価されていない。
ステント血栓症の危険因子を評価して,その発生機序に迫るためには,本研究よりもはるかに大きな規模の研究が必要であり,その困難さを痛感する。(木村
デザイン 登録研究,多施設(オランダのインターベンション症例数の多い施設3施設)。
期間 (1) 追跡期間は30.9か月(中央値)。
(2) 追跡期間は27.1か月(中央値)。
登録期間は2004年1月~2007年2月。
参加者 ステント植込み例・本数は2万1,009例・3万1,065本:ベアメタルステント(BMS)1万9,840本;薬剤溶出性ステント(DES)1万1,225本。
2004年1月~2007年2月に参加施設で確認されたステント血栓症。
ステント植込み例・本数は2万1,009例・3万1,065本:ベアメタルステント(BMS)1万9,840本;薬剤溶出性ステント(DES)1万1,225本。
2004年1月~2007年2月に参加施設で確認されたステント血栓症。
■患者背景
(1) ステント血栓症発生群(437例),対照群(866例)
[臨床背景]:平均年齢(発生群61.0歳,対照群62.3歳),女性(24.7%, 27.3%),BMI(27.2, 27.0kg/m²),既往:高血圧(46.9%, 41.7%);糖尿病(23.3%, 12.8%*);高コレステロール血症(53.3%, 43.7%;p=0.0010);心筋梗塞(MI)(30.2%, 19.9%*);PCI(23.8%, 16.7%;p=0.0028);悪性腫瘍(10.5%, 4.7%;p=0.0001);末梢血管疾患(PAD:11.0%, 6.5%;p=0.0065),EF(>45%:72.8%, 85.6%;<30%:10.5%, 4.3%*),PCI適応症(発生群):安定狭心症25.9%, 不安定狭心症/非ST上昇型MI 16.5%, ST上昇型MI 57.7%。
[病変背景]:ACC/AHA B2, C(76.4%, 59.6%*),重症石灰化(19.5%, 7.4%*),分岐部病変(51.7%, 24.3%*),多枝病変(41.4%, 23.3%*),左前下行枝(LAD)(62.5%, 43.3%*),右冠動脈(RCA)(29.3%, 40.2%*)。
[手技背景]:BMS(61.8%, 70.9%;p=0.0015),DES(34.8%, 27.5%),PCI前のTIMI grade 3(40.7%, 48.2%),PCI後のTIMI grade 3(79.2%, 94.6%*),アンダーサイズのステント使用(18.1%, 2.3%*),総ステント長(27.8mm, 23.7mm*),植込みステント本数/患者(1.54, 1.34*),抗血栓療法:GP IIb/IIIa受容体拮抗薬(31.7%, 35.1%),clopidogrel(97.9%, 99.4%),aspirin(86.9%, 95.5%*)。
* p<0.0001
(2) ステント血栓症発生(431例):イベント発生群(111例),非発生群(320例)
[臨床背景]:平均年齢(イベント群62.2歳, 非イベント群60.7歳),女性(18.9%, 27.2%),BMI(28.1, 26.9kg/m²),喫煙率(62.2%, 65.9%),既往:糖尿病(32.4%, 20.0%;p=0.004),高コレステロール血症(56.8%, 51.8%),高血圧(50.5%, 45.6%),腎機能障害(MDRD糸球体濾過量<60mL/分)(21.6%, 15.3%),冠動脈疾患家族歴(51.4%, 48.8%),MI(42.3%, 25.3%;p=0.002),PCI(31.5%, 20.9%;p=0.03)。
[血管造影背景]:LAD(67.6%, 60.6%),RCA(31.5%, 28.8%),右回旋枝(9.0%, 17.2%;p=0.06),ACC/AHA B2, C(93.7%, 70.6%;p=0.004),重症石灰化(27.9%, 16.9%),PCI適応症(急性冠症候群)(73.0%, 75.0%)。
[手技背景]:BMS(57.7%, 62.8%),DES(36.0%, 34.4%),植込みステント本数/患者(1.70, 1.48;p=0.007),総ステント長(31.38mm, 26.63mm;p=0.001),PCI後のTIMI flow 3(82.9%, 83.4%)。
[ステント血栓症関連背景]急性ステント血栓症(23.4%, 35.6%),亜急性(47.7%, 38.8%;p=0.02 vs 急性),遅発性,超遅発性(それぞれ14.4%, 12.8%),血栓症初発時:aspirin投与(82.0%, 88.8%;p=0.06);clopidogrel投与(72.1%, 67.8%),初発後のEF:<30%(19.8%, 21.9%;p=0.002 vs >45%);>45%(46.8%, 59.7%)
調査方法 (1) ステント血栓症発生群と対照群(PCI施行例のうちステント血栓症非発生例)が1:2になるように対照群を登録した。対照群の登録基準は,1) PCI施行の同様の適応(安定性狭心症あるいはST上昇の有無を問わない急性冠症候群[ACS]),2) PCI施行日が同日(ST上昇型の少数例で±1日),3) 同施設で施行。
DESおよび混合ステント(BMSおよびDES)群(418例),BMS(885例)とを比較。
併用薬物治療:aspirin 80~100mgを前投与,維持治療非実施例はclopidogrelを300~600mgで投与開始,周術期に未分画heparin 70IU/kgを注入。手技後のclopidogrel推奨投与期間は,血管形成術待機期間中のBMS後4週間から,DES後3~12か月間と幅があった。ACS症例には12か月間投与を推奨し,血栓吸引カテーテルやGP IIb/IIIa受容体拮抗薬の使用は医師の判断とした。
(2) 血管造影で確認されたステント血栓症437例からステント血栓症の既往例6例を除外した431例の,27.1か月(中央値)追跡後の転帰を検討した。
結果 (1) 血管造影で確認されたステント血栓症は437例(2.1%)。
急性ステント血栓症(手技中あるいは手技から24時間以内);140例(32.0%),亜急性(手技後24時間~30日);180例(41.2%),遅発性(手技から30日以降1年まで);58例(13.3%)で6か月以内の発生が36例,超遅発性(1年以降);59例(13.5%)。BMS;270例(累積発生率2.2%),DES;152例(2.0%),BMSおよびDES;15例(1.8%)。
[ステント血栓症の危険因子:clopidogrelの投与中止の時間依存性共変量は多変量解析に含まず]
・30日以内に発生したステント血栓症(およそ75%)の独立した予測因子:アンダーサイズのステント使用,uncovered 解離,PCI後のTIMI<3,責任病変近位部の中等度狭窄病変,悪性腫瘍,aspirin非投与,EF<30%,分岐部病変,責任病変遠位部の中等度狭窄病変,DES植込み,使用総ステント数。
GP IIb/IIIa受容体拮抗薬の使用はステント血栓症発生の防御因子。
・30日以降に発生したステント血栓症と独立して関連する因子:アンダーサイズのステント使用,悪性腫瘍,責任病変近位部の中等度狭窄病変,末梢血管疾患,糖尿病,分岐部病変,長い総ステント長,若年。
[抗血小板療法の影響]
clopidogrel:ステント血栓症発生時にclopidogrelを投与していなかったのは134例(30.7%)で,急性ステント血栓症140例中9例(6.4%)はclopidogrelを投与すべきなのに投与せず,亜急性(179例)の30例(16.7%)が5日間*,遅発性(58例)の39例(67.2%)が13日*,超遅発性(59例)の56例(94.9%)が200日*投与を中止した。
* 中央値
急性~亜急性:clopidogrel非投与はステント血栓症発生と有意に関連し,遅発性(30日~6か月)も同様であった。多変量解析後,PCI後6か月以降のclopidogrel投与中止はステント血栓症の予測因子である。
aspirin:対照群と比べステント血栓症発生群は手技時のaspirin非投与率が有意に高かった。aspirin非投与もステント血栓症の強い予測因子である。
★結論★clopidogrelの投与中止,アンダーサイズのステント使用,悪性腫瘍,責任病変近位部の中等度狭窄病変はステント血栓症の強い予測因子である。

(2) [一次エンドポイント(心臓死,ステント血栓症再発の複合)]
入院中:心臓死26例,ステント血栓症再発44例(急性;12例,亜急性32例)。血栓症再発までの時間は,初発治療のためのPCIから4日後[中央値]。
長期予後(3年後):111例発生。推定累積イベント率は30日後;18.0%,1年後;23.6%,2年後;25.2%,3年後;27.9%。
[二次エンドポイント:全死亡,心臓死,definite ステント血栓症の再発,definiteあるいはprobable 血栓症の再発,心筋梗塞,虚血による標的血管血行再建術(TVR)]
入院中:死亡27例,うち心臓死は26例,ステント血栓症再発44例。TVR施行は53例,PCI再施行は45例(うち44例はステント血栓症再発例),CABG 13例(うち5例は血栓症再発例)。
長期予後:死亡56例,うち心臓死は45例(80.4%)。
推定累積死亡(心臓死)率:30日後;7.7%(7.3%),1年後;10.7%(9.5%),2年後;12.0%(10.0%),3年後:15.4%(12.3%)。
definite ステント血栓症再発が1回以上発生:75例,うち62例は再発1回,11例が2回,2例が3回。急性;14例,亜急性;40例,遅発;15例,超遅発;6例。
definiteあるいはprobable 血栓症の再発:81例。30日後;14.4%,1年後;18.2%,2年後;19.6%,3年後;20.1%。
3年後のTVR 124例:BMS群87例,DES群37例,definite 血栓症再発治療の緊急PCIを除外してもTVRはBMS群22%,DES群15%と施行率が高かった。
[イベント予測因子]
ステントのタイプ(BMS,DES)にかかわらず,糖尿病,EF<45%,標的血管の重症石灰化,初発治療のための緊急PCI時の追加ステント植込みが一次エンドポイントの予測因子であったが,ステントタイプ,血栓症発生時期(急性,亜急性,遅発,超遅発)とは独立した関連はみられなかった。
★結論★definite ステント血栓症初発後は死亡率および再発率が高く転帰不良である。糖尿病,EF<45%,長いステント長,複雑病変,PCI後のTIMI grade<3,ステント治療のための緊急PCI時の追加ステントは転帰不良と関連した。

[主な結果]
  • (1) van Werkum JW et al: Predictors of coronary stent thrombosis: the Dutch stent thrombosis registry. J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 1399-409. PubMed
  • (2) van Werkum JW et al: Long-term clinical outcome after a first angiographically confirmed coronary stent thrombosis: an analysis of 431 cases. Circulation. 2009; 119: 828-34. PubMed

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収載年月2009.11