循環器トライアルデータベース

RASS
Renin-Angiotensin System Study

目的 1型糖尿病患者において,ACE阻害薬enalapril,ARB losartanの早期投与の有効性を検討する。
主要エンドポイントは腎生検標本で糸球体内のメサンギウム容積の変化。
網膜症エンドポイント(試験開始直後に追加)は網膜症病期分類:Early Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)≧2段階の進展。
コメント ACE阻害薬エナラプリル(enalapril)およびARBロサルタン(losartan)の1型糖尿病に対する腎症進展予防効果と網膜症発現予防効果をプラセボを対照として比較した試験であるが,最大の特徴は腎生検で糸球体メサンジウムの容積変化を一次エンドポイントとして5年間という長期間観察比較していることである。また130/85mmHg以上の高血圧症例や20μg/分以上のアルブミン尿を有している症例,糸球体濾過量が減少している症例は対象から除外されていることなども特徴である。
結果は残念ながら少なくともメサンギウム容積の変化にはenalapril群,losartan群ともプラセボ群との間に有意差はまったくみられなかった。微量蛋白尿の発現率は,losartan群で有意に高いという意外な結果であった(losartan群17%,enalapril群4%,プラセボ群6%)。糖尿病性腎症の進展予防にはRA系抑制薬が優れているというこれまでの成績や概念を大きく覆す本試験の成績は,症例は少ないながらも5年間という長期成績であることや腎生検という貴重な形態変化を観察した結果であることを考慮すると極めて貴重な報告である。
一方,網膜症に対しては両RA系抑制薬ともプラセボに比べて進展抑制を示したことは,糖尿病合併症としての腎症と網膜症におけるRA系の関与は大きく異なることを示唆して興味深い。
本試験の大部分はNIHのグラントという公的経済的サポートをうけた試験であり,その結果は公正に評価されるべきである。往々にしてこのようなネガテイブな成績は我が国では日の目を見ないが,専門家はきちんと一般臨床医に説明する必要はあるであろう。(桑島
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設,intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は5年。
対象患者 285例。18歳以上の罹病期間2~20年の1型糖尿病,正常血圧,正常アルブミン尿。
32例(11%)は15~17歳(Natural History of Diabetic Nephropathy Studyの参加者)。
除外基準:高血圧(>135/85mmHgあるいは降圧治療を受けているもの),アルブミン排泄量>20μg/分,糸球体濾過量(GFR)<90mL/分/1.73m²(完全菜食主義の食事をとっているものは<80mL/分)など。
■患者背景(enalapril群94例,losartan群96例,プラセボ群95例),平均年齢(歳)(30.6, 29.3, 29.1),糖尿病罹病期間(年)(11.7, 10.7, 11.2),BMI(kg/m²)(25.6, 26.1, 25.4),HbA1c(%)(8.6, 8.7, 8.3),アルブミン尿排泄率(μg/分;中央値)(5.1, 5.5, 4.8),GFR(mL/分/1.73m²)(129, 131, 126)。
治療法 2週間のrun-in後にランダム化。
腎生検例(256例):enalapril群(86例):20mg/日投与,losartan群(85例):100mg/日投与,プラセボ群(85例)。
網膜症転帰解析例(223例):enalapril群(77例),losartan群(72例),プラセボ群(74例)。
平均投与期間は2.9年。
結果 完全なデータが得られたのは,腎生検256例(90%),網膜症223例(88%)。
全体の治療アドヒアランスはおよそ85%。
追跡期間中の血糖値(p=0.54),インスリン用量(p=0.29)に3群間差はなかった。
血圧:enalapril群(ベースライン時120/71→終了時113/66mmHg),losartan群(120/70→ 115/66mmHg),プラセボ群(119/70→ 117/68mmHg):治療薬群の収縮期血圧p<0.001,拡張期血圧p≦0.02 vs プラセボ群。
高血圧発症例はenalapril群3例,losartan群4例,プラセボ群9例(p=0.04)。
[メサンギウム容積の変化(一次エンドポイント)]
3群間に有意差は認められなかった:enalapril群(ベースライン時0.201。5年間の変化0.005単位:調整後の変化 vs プラセボ群;-0.006単位,p=0.38),losartan群(0.189単位。0.026単位:+0.008単位,p=0.26)。
[微量アルブミン尿の発現]
5年間の微量アルブミン尿の累積発現率はlosartan群で高かった。
enalapril群4%(p=0.96),losartan群17%(p=0.01),プラセボ群6%。
[網膜症]
ETDRS≧2段階進展した網膜症(網膜症エンドポイント)は,治療群で抑制された。
プラセボ群に比べenalapril群で65%低下(オッズ比0.35:95%信頼区間0.14~0.85),losartan群で70%低下した(0.30;0.12~0.73)。これらの抑制効果は血圧の変化とは独立していた。
[有害イベント]
生検に関連する重篤な有害イベントが3例発生したが,完全に消失した。
慢性の咳がenalapril群で12例,losartan群6例,プラセボ群4例にみられた。
★結論★1型糖尿病患者において,早期のレニン-アンジオテンシン系の阻害による腎症の進展抑制はみられなかったが,網膜症の進展は抑制した。
ClinicalTrials.govNo: NCT00143949
文献
  • [main]
  • Mauer M et al: Renal and retinal effects of enalapril and losartan in type 1 diabetes. N Engl J Med. 2009; 361: 40-51. PubMed
    Perkins BA et al: Diabetes complications and the renin-angiotensin system. N Engl J Med. 2009; 361: 83-5. PubMed

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収載年月2009.09