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冠動脈疾患(CAD),高血圧合併例において,ARB candesartanの長期投与はARB以外の降圧薬と同等に血圧コントロールすれば,主要心血管イベントの抑制効果がより大きいという仮説を検証する。 一次エンドポイントは主要有害心血管イベント(MACE:心血管死,非致死的心筋梗塞[MI],不安定狭心症,心不全,脳卒中,その他の入院を要する心血管イベント)。 |
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高血圧を合併した冠動脈疾患症例におけるARB candesartanの長期的心血管合併症予防効果を,非ARBと比較した日本の大規模臨床試験である。結果は予想通り,両群の心血管イベント発症率には有意差は認めなかった。退院時,すなわちランダム化直後の両群におけるCa拮抗薬の併用率が非ARB群56% 対 ARB群44.6%とそれほど大きな差がないのに対して,ACE阻害薬併用率は,各々70.5% 対 0.8%である。すなわち非ARB群のほとんどがACE阻害薬であることを考慮すると,本試験はほぼARB 対 ACE阻害薬の比較といってよく,両治療群の一次エンドポイント発生予防効果に全く差がないというこの結果は予想通りともいえる。 良くも悪くも我が国の大規模臨床試験の特性を示しているともいえる。まず著者らがlimitationsで述べているように,一次エンドポイントに心不全発症や入院を必要とする他の心血管イベントといった主治医の判断がある程度介入するものや末梢動脈疾患や動脈瘤の拡大といった項目までも含めてもなお両群に有意差を見出すだけの統計的パワーを得ることができなかった。両群ともスタチン薬が44%,硝酸薬が50%,aspirinが91%前後に含まれていることは,臨床現場でイベント発症を抑制する最大限の努力をしていることが伺える。 新規糖尿病発症数においてARB群で統計上有意に少ないとの結果であるが,新規糖尿病をかなり広く定義しているにもかかわらず,症例数がARB群7例/645例,非ARB群18例/624例とどちらも非常に少ないことから,ARBが非ARB(主にACE阻害薬)より新規糖尿病抑制効果が強いとする結論には慎重であるべきである。ARB関連のトライアルでは,いつも新規糖尿病発症抑制を強調するきらいがあるが,新規糖尿病発症は心血管イベントと同列に扱う種類のエンドポイントではない。重要なことはあくまでも心血管合併症の発症を抑制したか否かである。 また降圧目標値に到達するための追加降圧薬であるが,ランダム化前と,退院時の治療薬は表に記載されているが,全期間を通しての両群の追加降圧薬数の比較データがほしいところである。(桑島) |
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PROBE(prospective, randomized, open-label, blinded-endpoint),多施設(日本の14施設),intention-to-treat解析。 |
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追跡期間は4.2年(中央値)。 ランダム化期間は2001年6月~’04年4月,追跡終了は2007年6月。 |
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2049例。20~80歳の血管造影でCADと診断された入院例;血管造影で明らかな閉塞がなくても,血行再建術既往あるいはアセチルコリン負荷による冠攣縮誘発試験の結果,冠攣縮性狭心症既往。 除外基準:二次性高血圧,前の週に急性心筋梗塞を発症したもの,3か月以内の脳血管疾患,重症大動脈弁狭窄,閉塞性肥大型心筋症,クレアチニン>2.0mg/dL,カリウム>5mmol/L,急性肝疾患あるいは肝機能障害(肝トランスアミナーゼあるいはビリルビン>正常上限の1.5倍)など。 ■患者背景:平均年齢(candesartan群64.5歳,対照群65.0歳),女性(18.2%, 21.4%),BMI(24.6kg/m², 24.7kg/m²),EF(53.9%, 55.1%),総コレステロール(193.5mg/dL, 192.4mg/dL),トリグリセライド(中央値:128.5mg/dL, 126.5mg/dL),HDL-C(44.6mg/dL, 44.5mg/dL),クレアチニンクリアランス(62.6mL/分,62.0mL/分),CRP(中央値:両群とも0.2mg/dL)。 |
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candesartan群(1024例):candesartanをベースとした治療。試験開始時にcandesartan以外のARBを投与していたものは投与を中止し,candesartan 4~12mg/日を投与開始した。ACE阻害薬以外の併用投与は可とした。 対照群(1025例):ARB以外の降圧薬をベースとした標準治療。開始時にARBを投与していたものは中止し,ACE阻害薬を含むその他の薬効の降圧薬の投与を開始。 目標降圧(<130/85mmHg)達成のための増量,併用は担当医師に委ねた。 |
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[忍容性] 有害イベントによる投与中止率はcandesartan群が有意に低かった(58例[5.7%] vs 125例[12.2%],p<0.001)。 [併用治療] ランダム化前:ACE阻害薬(candesartan群36.1%,対照群38.0%),利尿薬(9.7%,7.7%),Ca拮抗薬(54.4%,57.2%),β遮断薬(40.8%,42.9%)。 退院時:ACE阻害薬(candesartan群0.8%,対照群70.5%;p<0.001),利尿薬(10.1%,8.0%),Ca拮抗薬(44.6%,56.0%;p<0.001),β遮断薬(45.3%,49.4%),スタチン系薬剤(44.8%,43.6%),硝酸薬(49.1%,51.3%),aspirin(92.6%,91.2%)。 [血圧] 両群間に有意差はなかった。 candesartan群(ベースライン時:135.0/75.6mmHg→ 4.3/2.7mmHg降圧),対照群(135.5/75.8mmHg→ 3.3/1.1mmHg低下):収縮期血圧:p=0.379,拡張期血圧:p=0.194。 [一次エンドポイント:MACE] 両群間に有意差は認められなかった。 candesartan群25.8% vs 対照群28.1%(ハザード比0.89;95%信頼区間0.76~1.06,p=0.19)。 複合エンドポイントの構成イベントも両群間に有意差はなかった。 心血管死:2.7% vs 2.4% :1.14;0.66~1.95。 非致死的MI:2.8% vs 2.5%:1.12;0.66~1.88。 心不全:3.9% vs 4.3%:0.91;0.59~1.40。 脳卒中:4.4% vs 4.8%:0.92;0.61~1.37。 [二次エンドポイント:血管形成術,ステント,CABG,新規糖尿病] ・血管形成術,ステント,CABGにおいて,両群間に有意差は認められなかった。 256例(25.0%) vs 271例(26.4%):0.93;0.78~1.10(p=0.41) ・新規糖尿病発症はcandesartan群が有意に抑制した。 7例/糖尿病非既往例645例(1.1%) vs 18例/624例(2.9%):0.37;0.16~0.89(p=0.03)。 [有害イベント] 全有害イベントは両群間に有意差はなかった。 798例(77.9%) vs 808例(78.8%);p=0.621 最も多かったのは,めまい(172例[16.8%] vs 154例[15.0%],p=0.273)。 candesartan群の方が有意に少なかったのは,咳(31例[3.0%] vs 165例[16.1%]),貧血(7例[0.7%] vs 27例[2.6%])であった(いずれもp=0.001)。 ★結論★高血圧を合併した冠動脈疾患患者において,candesartan群はARB以外の降圧治療に比べて有害心血管イベントを有意に抑制しなかったが,忍容性がより良好で,新規糖尿病発症を有意に抑制した。 University Hospital Medical Information Network (UMIN) clinical trials registry No: UMIN000000790 |
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- [main]
- Kasanuki H et al for the HIJ-CREATE investigators: Angiotensin II receptor blocker-based vs. non-angiotensin II receptor blocker-based therapy in patients with angiographically documented coronary artery disease and hypertension: the Heart Institute of Japan Candesartan Randomized Trial for Evaluation in Coronary Artery Disease (HIJ-CREATE). Eur Heart J. 2009: 30: 1203-12. PubMed
Staessen JA et al: Candesartan for cardiovascular prevention in Japanese hypertensive patients with coronary heart disease. Eur Heart J. 2009; 30: 1164-6. PubMed
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