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左室機能障害を有し,徐脈に対するペーシング治療の適応のないICD植込み例において,心房ペーシング(AAI)の有効性をbackup心室ペーシング(VVI)と比較する非劣性試験。 DAVID試験では二腔(心房心室)ペーシングのVVIに対する有意性を示せなかったが,AAIのみ行った場合に二腔ペーシングの際と同様に有害事象がみられるのか,あるいはbackupVVIと同等に有効で安全なのかを確認する。
一次エンドポイントは死亡あるいは心不全による入院までの時間。 |
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本研究には若干の疑問がある。そもそもペーシングの適応のない例に対して,AAIペーシングあるいはbackupペーシングを行う意図が明らかではない。この結果が出たからといって,臨床現場で二腔ペーシング機能付きICDを植込む際に,AAI 70/分にペーシングモードを多くの主治医が選択するとは思えない。(井上) |
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無作為割付け,単盲検(患者はペーシングモードに対してブラインド),多施設(北米の29施設)。 |
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平均追跡期間は2.7年。 登録期間は2003年6月~’05年2月,2007年6月6日終了。 |
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600例。(1) DAVID試験でVVIペーシングレート40/分群にランダム化され,臨床エンドポイントを発生しなかったもの(57例:ICD植込み一次予防22例),(2) EF≦40%+6週間以内の一過性/治療可能な原因によらない持続性心室性不整脈:心室細動(VF),心室頻拍(VT)による心停止;失神を来すVT;著明な症状・収縮期血圧<80mmHgを伴うVT,(3) EF≦40%(持続性心室性不整脈有無を問わない)+6週間以内の電気生理検査(EPS)で誘発されたVT,VF,(4) 冠動脈疾患によるEF≦30%+急性心筋梗塞後>1か月経過+侵襲的冠インターベンション後>3か月経過したもの。 除外基準:(1) 永久ペースーメーカー,(2) 症候性徐脈またはPR間隔>0.24sあるいはII~III度の房室(AV)ブロック,(3) 6か月以上持続あるいは持続期間不明の心房細動,(4) コントロール不能な上室性頻脈の頻回の発作,(5) NYHA IV度あるいはNYHA III度の心不全に対する至適治療が3か月以内など。 ■患者背景:平均年齢(VVI-40群63歳,AAI-70群64歳),男性(85.3%,84.7%),EF(26.6%,26.3%),ICD植込み:一次予防(68.7%,69.7%),既往:心房細動・粗動(15.3%,13.0%);心筋梗塞(88.3%,86.0%);うっ血性心不全(65.3%,67.0%);高血圧(65.7%,66.3%);糖尿病(33.3%,31.0%),虚血性心筋症(両群とも93.0%),NYHA心機能分類I度(45.7%,41.3%);II度(44.7%,49.0%)。 ECG背景:PR間隔(181ms,179ms),QRS間隔(110ms,111ms),I度AVブロック(PR間隔>200ms:21.3%,20.2%),左脚ブロック(11.5%,12.0%),右脚ブロック(4.7%,5.5%),非特異的心室内伝導障害(25.7%,25.3%)。 |
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二腔除細動器(Epic・Atlas DR Family)を植込み後,VVI-40群(300例):40/分のbackupペーシング,またはAAI-70群(300例):70/分の心房ペーシングにランダム化。ペーシングはDAVID試験に準じた頻脈検出能をプログラムした。 次の2群に層別化:新規登録(施設,心不全既往,ICDの適応によりさらに層別化),DAVID試験登録患者(心不全既往によりさらに層別化)。 登録時の至適な心不全薬物治療(ACE阻害薬・ARB,β遮断薬,digitalis,利尿薬,spironolactone)を継続投与し,Heart Failure Society of America Practice Guidelines推奨の目標1日用量の50%以上を投与するよう3か月ごとの追跡時に漸増投与した。ランダム化時に上室性不整脈の治療に用いていた抗不整脈薬,抗血栓薬を継続投与した。追跡中に症候性徐脈が発生した場合は,原因となる薬剤の調整・中止,ペーシングレートを調整した後,臨床適応上の必要に応じペーシングモードの変更(ペーシング部位の変更,多腔ペーシングへの変更)を可とした。ベースライン時および6か月後のShort Formー36 Item Health Survey,Minnesota Living with Heart Failure Questionnaire(MLHF),ベースライン時および各フォローアップ来院時のGlobal Rating Change,Simple Outcome Screen,試験終了時のmodified Short Form-36 Health SurveyによりQOLを評価した。 |
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一次エンドポイント発生前にペーシングモードを変更したものは49例(二腔ペーシングへの変更は42例):6か月後11例(VVI-40群5例,AAI-70群6例),それ以降38例(20例,18例)。3か月後のAAI-70群の心房ペーシング非施行例は7.5%,VVI-40群のペーシング非施行は13%。 退院時および追跡期間中の心不全治療薬,スタチン系薬剤,抗不整脈薬の使用は両群間に差はなかった。 一次エンドポイント(死亡,心不全による入院までの時間)は両群間に有意差はなく,全体の発生率は1,2,3年後に11.1%,16.9%,24.6%であった。サブグループ(ICD適応,性,年齢,EF,心不全既往など)による解析も同様であった。 心房細動(p=0.61),失神(p=0.64),適切(p=0.36)・不適切なショック(p=0.15),QOLも両群間に有意差はみられなかった。 ★結論★左室機能障害を有し,徐脈に対するペーシング治療の適応がないICD植込み例において,イベント非発生率およびQOLに対する心房ペーシングは,backupのみの心室ペーシングに劣らない。ただし,本結果は最小化心室ペーシングに比べ心房ペーシングの明確な有効性・非有効性を示すものではない。 |
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- Wilkoff BL et al for the DAVID II investigators: The DAVID (dual chamber and VVI implantable defibrillator) II trial. J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 872-80. PubMed
Olshansky B et al: DAVID II did not slay Goliath. J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 881-3. PubMed
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