循環器トライアルデータベース

EARLY ACS
Early Glycoprotein IIb/IIIa Inhibition in Non-ST-Segment Elevation Acute Coronary Syndrome

目的 PCIを施行する高リスク非ST上昇型急性冠症候群(ACS)患者において,GP IIb/IIIa受容体拮抗薬eptifibatideの至適投与開始タイミングを検討する。

一次エンドポイントは96時間後の全死亡,MI,緊急血行再建を要する虚血の再発,PCI時の血栓性合併症。
安全性の主要エンドポイントは120時間以内の出血,輸血。
コメント N Engl J Med. 2009; 360: 2176-90. へのコメント
非ST上昇型ACS症例において,欧米のガイドラインではCAGは入院後すぐには行われないが,GP IIb/IIIa受容体拮抗薬(以下GP薬)をどの時期から開始するのが最適かは明らかではない。ACC/AHA2007ガイドラインでは,ハイリスク症例はCAG前にアスピリンとクロピドグレルあるいはGP薬の投与がclass Iである。ESCではアスピリン+クロピドグレルの2剤併用がclass Iであり,GP薬の追加はトロポニンの上昇・ST低下・糖尿病症例に対してclass IIaとなっている。この相違は,非ST上昇型ACS症例に対してGP薬の役割が明らかでないことに由来する。すなわち,ガイドラインは以前のstudyに基づいており,最新の内科的治療やデバイスの進歩が反映されておらず,GP薬も高用量使用されていた。
本論文は非ST上昇型ACSのハイリスク例において,GP薬eptifibatideの早期投与がPCI直前の投与よりも虚血性合併症により有用であることを示すために企画された。結果としては,投与の時期による臨床的有用性には差はなく,早期投与の方が出血性合併症はより多い結果であった。プラセボを対照とした従来の同様の試験よりも,今回は年齢が高く,よりハイリスク例が多く,内服治療や冠血行再建術がより進化している。これまでもGP薬の早期投与の有用性に関して一定の見解は得られていない。ACSにおいてプラセボ対照のGP薬を用いた6つの大規模無作為化試験のメタ解析では,30日後の死亡/心筋梗塞が9%低下し,トロポニン上昇のない例では効果がみられないと示されており(Lancet. 2002; 359: 189-98. PubMed),本論文の結果と相違はない。
PCI時にはガイドラインがGP薬を推奨しているので倫理的にもプラセボをPCI時に用いることが出来ないこと,クロピドグレル・低分子へパリン・スタチンなどがすでに高頻度に処方されていること,手技に伴う合併症が予想よりも多かったこと,が今回早期投与の有用性を示せなかったことに関連する。CABGや内服治療のみに終わった症例が少なからずみられることも影響しており,今回のPCI例のみの検討では,GP薬の早期投与により虚血性合併症はより少ない結果であった。プロトコール上,途中でランダム化試験からオープンラベルに変更したこと,待機投与群のみプラセボを持続投与する症例が存在すること,など試験結果の評価には一定の注意が必要である。サブグループ解析では,トロポニン非上昇例・非糖尿病例・75歳以上例では早期投与の効果はみられず,出血の合併症のみ増加している。非ST上昇型ACSの病態は均一ではないので,本邦で使用できる前にリアルワールドでのGP薬の早期投与が望ましいと考えられる症例のサブグループの解明が期待される。(星田
デザイン 無作為割付け,多施設(29か国440施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は30日。
ランダム化期間は2004年5月~2008年8月,試験終了は2008年12月17日。
対象患者 9406例。18歳以上の高リスク*非ST上昇型ACS,10分以上持続する安静時虚血発症から24時間以内で,病院到着から8時間以内にランダム化されたインターベンション予定例で,手技はランダム化の翌日に施行。
2005年6月3日プロトコール変更:ランダム化期間を病院到着から12時間以内に延長,ランダム化から12時間後以降に血管造影(CAG)を実施;冠動脈疾患,脳血管疾患,末梢血管疾患を有する場合は50~59歳のトロポニン,クレアチンキナーゼMB上昇例も高リスクとした。
* 次のうち2項目以上を有しているもの:ECG上の虚血変化(2つ以上の連続誘導で0.1mV以上のST低下あるいは一過性[<30分]の0.1mV以上のST上昇);トロポニン,クレアチンキナーゼMB>正常上限値;60歳以上。
除外基準:出血リスク上昇例;heparin,eptifibatideのアレルギー;30日以内の血液透析など。
■患者背景:年齢(中央値[75歳以上]:早期群67.4歳[24.4%],待機群67.8歳[26.1%]),女性(32.0%, 31.2%),糖尿病(30.1%, 30.7%),脂質異常症(57.9%, 57.8%),高血圧(70.5%, 71.9%),既往:CABG(13.1%, 14.2%);心筋梗塞(27.0%, 28.2%);PCI(24.3%, 25.0%),推定クレアチニンクリアランス(中央値:74.7mL/分,73.7mL/分),トロポニン上昇(83.8%, 84.0%),TIMIリスクスコア:低(17.2%, 15.9%);中等度(48.2%, 47.8%);高(34.6%, 36.2%)。
高リスク:60歳以上,バイオマーカー上昇,ST変化(20.3%, 21.7%);60歳以上,バイオマーカー上昇(41.8%, 42.1%);バイオマーカー上昇,ST変化(14.4%, 14.5%);50~59歳,バイオマーカー上昇,心血管疾患既往(5.9%, 5.6%)。
入院中の薬物治療:未分画heparin(33.8%, 35.1%),低分子量heparin(53.4%, 52.4%),aspirin(97.4%, 97.3%),clopidogrel:全期間中(90.4%, 90.5%);早期(74.8%, 75.2%),β遮断薬(87.6%, 87.5%),スタチン系薬剤(86.3%, 86.7%),ACE阻害薬/ARB(68.6%/9.7%, 68.4%/10.0%)。
治療法 早期投与群(4722例):CAGの12時間以上前に,eptifibatide 180μg/kgを10分間隔で2回ボーラス投与。最初のボーラス投与時から標準注入量(2.0μg/kg/分,クレアチニンクリアランス<50mL/分の場合は1.0μg/kg/分)を持続静注開始。CAG後,プラセボをボーラス投与し,ブラインド試験を中止してeptifibatideをオープンラベルでPCI施行の18~24時間後まで持続静注。
待機投与群(4684例):早期投与時にはプラセボを投与し,CAG後,PCI施行前にeptifibatideをボーラス投与。以後はブラインド試験を中止してeptifibatideをオープンラベルでPCI施行の18~24時間後まで持続静注。
eptifibatideの注入時間は96時間以内とした。CABG例は手技前2時間まで継続注入した(最大120時間)。患者背景やCAG結果からeptifibatideの有効性が期待できない症例は,最初にランダム化された試験薬をPCI施行後18~24時間後まで持続投与。
周術期に血栓性合併症が発症した場合は,ランダム化された試験薬でない方の薬剤をボーラス投与した(bailout投与)。
[併用治療]登録時にaspirin 162~325mgを経口投与あるいは150~500mgの静注を行い,その後75mg/日以上を継続投与。aspirin不適例にはチエノピリジン系薬剤を投与。heparinあるいはenoxaparinを体重,クレアチニン調整量投与。
結果 PCI施行例:早期投与群2761例(58.5%),待機的投与群2798例(59.7%),CABG施行例:621例(13.2%),606例(12.9%),薬物治療のみ:1356例(28.7%),1304例(27.8%)。
[所要時間(中央値)]
発症から病院到着まで:早期投与群3.3時間,待機的投与群3.2時間。
病院到着からランダム化まで:5.4時間,5.7時間。
ランダム化から試験薬注入まで:両群とも0.5時間。
ランダム化からCAGまで:両群とも21.4時間。
・PCI施行例(CABG例)
ランダム化からPCI(CABG)まで:22.0時間(112.4時間),22.1時間(112.9時間)。
PCI(CABG)施行前までの静注時間:両群とも21.3時間(44.6時間,47.0時間)。
PCI施行後の静注時間:18.8時間,19.0時間。
・薬物治療例の注入時間(30.3時間,31.4時間)。
[一次エンドポイント:全死亡,MI,緊急血行再建を要する虚血の再発,血栓性合併症]
早期投与群9.3% vs 待機投与群10.0%:オッズ比0.92;95%信頼区間0.80~1.06(p=0.23)。
30日後の死亡,MIは11.2% vs 12.3%:0.89;0.79~1.01(p=0.08)。
[安全性]
120時間後の出血は早期投与群の方が多かった。
(TIMI基準)大出血:2.6% vs 1.8%(オッズ比1.42;95%信頼区間1.07~1.89, p=0.015),小出血:3.6% vs 1.7%(2.14;1.63~2.81, p<0.001),大・小出血:5.8% vs 3.4%(1.75;1.43~2.14, p<0.001)。
(GUSTO基準)重度の出血:0.8% vs 0.9%(0.99;0.64~1.55, p=0.97),中等度の出血:6.8% vs 4.3%(1.60;1.33~1.92, p<0.001),重度,中等度:7.6% vs 5.1%(1.52;1.28~1.80, p<0.001)。
早期投与群は赤血球輸血の必要も有意に多かった:8.6% vs 6.7%(1.31;1.12~1.53, p=0.001)。
★結論★非ST上昇型ACSにおいて,CAGの12時間以上前のeptifibatide早期投与は心血管疾患抑制効果でCAG後の待機的投与に対して有効とは言えない。早期投与は生命に関わらない出血リスクと輸血の必要性が増大した。
ClinicalTrials. gov: NCT00089895
文献
  • [main]
  • Giugliano RP et al for the EARLY ACS investigators: Early versus delayed, provisional eptifibatide in acute coronary syndromes. N Engl J Med. 2009; 360: 2176-90. PubMed
    Hillis LD and Lange RA: Optimal management of acute coronary syndromes. N Engl J Med. 2009; 360: 2237-40. PubMed
  • [substudy]
  • PCI後のトロポニンT(cTn)上昇と死亡-1年後の死亡と有意に関連。cTn値の経時変化をもとにPCI関連の心筋壊死による上昇を識別できる可能性が示される。
    EARLY ACSとSYNERGYの参加者のうち入院中にPCIを施行した10,199例において,PCI後に心筋トロポニンT(cTn)が上昇した患者を特定し,1年後の死亡との関連性を検証した結果:症例ごとにcTn値×時間(PCI前~退院まで)のプロットを作成。cTn値がPCI前から上昇していた4,198例(41.2%)とPCI後のcTn値欠測例229例(2.2%)を判定不能として解析から除外し,PCI前のcTn値が低下または安定していた5,772例(56.6%)を解析した。このうち,PCI後24時間の新規cTn上昇(PCI関連の心筋壊死による上昇)は4,276例(41.9%)で, 1,496例(14.7%)は新規の上昇を認めなかった。
    多変量解析において,PCI後の最大cTn値は1年後の死亡リスクと有意に関連し(正常上限×10倍[10×ULN]上昇ごとのハザード比:1.07;95%信頼区間1.02~1.11, p=0.0038),この関係は100×ULNを超えても有意であった(1.02;1.00~1.03, p=0.007)。cTn値の絶対増加量(PCI後の最大値と上昇直前値の差)も1年後の死亡と有意に関連した(10×ULN上昇ごと:1.06;1.01~1.11, p=0.0275)。
    一方,PCI後の最大クレアチンキナーゼ(CK)-MB値も1年後の死亡と有意に関連した(1×ULN上昇ごと:1.13;1.05~1.21, p=0.0013)。
    これらの結果をもとに,最大値のレベル別に1年後死亡率を予測すると,cTn,CK-MBの>3×ULN上昇で死亡率はそれぞれ3.5%, 5.1%,>5×ULNで3.5%, 6.3%,>10×ULNで3.6%, 7.2%,>20×ULNで3.9%, 9.1%と推定された:J Am Coll Cardiol. 2013; 62: 242-51. PubMed

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収載年月2009.05
更新年月2014.01