循環器トライアルデータベース

FAST-MI
French Registry on Acute ST-Elevation Myocardial Infarction

目的 ST上昇型心筋梗塞(MI)患者におけるprimary PCI(PPCI)と血栓溶解療法後のルーチン血管造影+PCIの転帰を登録研究*で比較する。
* 研究の目的はMIのため集中治療室に入院している患者の治療および転帰の包括的データの集積。
コメント Circulation. 2008; 118: 268-76.へのコメント
フランスにおけるエビデンス。欧米では長年にわたって,急性心筋梗塞において血栓溶解療法とPCIを併用することの是非が議論されてきた。抗血小板薬とステントが広く用いられる以前には,血栓溶解療法とPCIの併用は有害と考えられていた。その後も発症3時間以内でのこの併用の有用性ははっきりとはしていない。
日本においては,ST上昇型心筋梗塞に血栓溶解剤を静脈投与する治療法が一般的となっていない。日本においてもこうしたレジストリーを構築してエビデンスを創出する必要がある。(中村中野永井
デザイン 登録研究,多施設(フランスの223施設)。
期間 追跡期間は1年。
2005年に開始,登録期間は1か月。
参加者 1,714例。2005年10月1日以降に入院した18歳以上のMI患者。心筋壊死マーカーであるクレアチンキナーゼ(CK),CK-MB,トロポニンが正常値の上限の2倍以上に上昇;急性心筋梗塞の症状,ECG上でQ波を認める2誘導以上の変化(0.04秒以上),>0.1mVの持続するST上昇/下降。集中治療室への入院は発症から48時間以内のものとした。
本報で解析したのは登録時のECGでST上昇型MI,新規左脚ブロックと推定される所見例のみ。
除外基準:医原性心筋梗塞。
■患者背景:再灌流法施行例 60%:PPCI 33%・平均年齢61.9歳;血栓溶解療法29%・60.6歳,うち2/3(全体の18%)は病院到着前に救急車内で投与,使用血栓溶解薬はtenecteplase 78%,残りはフィブリン特異的薬剤。フランスの緊急医療サービス(SAMU:救急車ドライバー,看護師,医師からなる医療チームが現場で応急処置をする。搬送手段はヘリコプターもある)を利用したものはPPCI群59%,血栓溶解療法群73%(p<0.001)。Global Registry of Acute Coronary Events (GRACE) リスクスコアは両群同様,治療開始時間は血栓溶解療法群の方が有意に早かった(中央値300分,130分)
再灌流法群間に有意差のあったもの:一般病院への入院(PPCI群36%,血栓溶解療法群47.5%),現場でPCIを施行した入院例(94%, 79%),入院時の心拍数(78拍/分,74拍/分),うっ血性心不全既往(3%, 1%;p=0.003),Killip分類class I(83%, 88%;p=0.023),発症から初診までが3時間以内(69%, 83%),入院前のACE阻害薬投与(14%, 8%),利尿薬(17%, 11%;p=0.005)。表記のないp値はすべてp=0.001。
調査方法
結果 [入院中の治療]
・血栓溶解療法群(466例):血管造影実施例は96%,投与から24時間以内に実施したのは75%。390例(84%)がその後にPCIを施行。
PCIは投与から220分後(中央値)に施行,血管造影,PCI施行例は227例で血栓溶解療法から290分後(中央値)にPCIを,rescue PCI,虚血のためのPCIは144例(PCIまでの時間は168分[中央値]),うち80例(56%)は血栓溶解から180分以内にrescue PCIを施行。
・併用治療:48時間以内のGP IIb/IIIa受容体拮抗薬投与はPPCI群が有意に多かった(68%, 16%;p<0.001),低分子量heparin(64%, 56%),clopidogrel(96%, 91%)は血栓溶解療法群の方がやや少なかった。clopidogrelを慢性的に投与しなかった例のうち300mg以上投与したのは,PPCI群76%,血栓溶解療法群72%。スタチン系薬剤,β遮断薬,ACE阻害薬は両群間差はなかった。
退院時のclopidogrel,ACE阻害薬,スタチン系薬剤の処方は血栓溶解療法群の方が少なかった。
[入院中の転帰]
死亡率:最も高かったのが再灌流法非施行群(9.5%)で,PPCI群5.0%,血栓溶解療法群4.3%(入院前3.3%,入院中6.1%)であった。死因は両群同様であった:心不全(PPCI群57%,血栓溶解療法群55%),突然死,不整脈(25%, 30%),その他の心血管死(7%, 5%)。
合併症:脳卒中(0.7%, 1.1%),MI再発(0.9%, 1.9%),重大な出血(2.3%, 1.7%)など両群間に差のみられたものはなかった。
EF:PPCI群に比べ血栓溶解療法群で有意に高かった(50.4%, 52.9%;p=0.003)。
[30日後,1年後の転帰]
・30日後の死亡率:PCI群3.9%,非施行群9.2%(p=0.044)。rescue PCI/虚血によるPCI施行群5.8%,血管造影→ PCI群2.8%(p=0.147)。他の施設に移動後のPCI施行群3.3%,最初の施設での施行群4.0%。
・1年後の生存率:再灌流法非施行群78.5%,PPCI群91.8%,血栓溶解療法群93.6%(入院前94.7%,入院中91.5%):全体p<0.001, p=0.31;PPCI vs 血栓溶解療法。ベースライン時の背景差をマッチングしたpropensity scoreで調整した生存率は93%, 94%。
★結論★発症から早期に血栓溶解薬を投与した後にPCIを施行する再灌流法による早期,1年後の生存率はprimary PCIと差がない。

[主な結果]
  • Danchin N et al for the FAST-MI investigators: Comparison of thrombolysis followed by broad use of percutaneous coronary intervention with primary percutaneous coronary intervention for ST-segment-elevation acute myocardial infarction: data from the french registry on acute ST-elevation myocardial infarction (FAST-MI). Circulation. 2008; 118: 268-76. PubMed
    White HD: Systems of care: need for hub-and-spoke systems for both primary and systematic percutaneous coronary intervention after fibrinolysis. Circulation. 2008; 118: 219-22. PubMed
  • STEMI急性期の再灌流療法と5年生存率-血栓溶解療法施行は30%,pPCIは39%,5年生存率は同等。
    発症後≦12時間のST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において,実施された再灌流療法と各治療法での5年生存率を評価した結果(1,492例):再灌流療法の内訳は血栓溶解薬447例(30%・平均年齢60.4歳;うち66%が病院到着前の実施,84%がその後PCI施行),primary PCI(pPCI)583例(39%・61.9歳),再灌流療法非実施462例(31%・71.4歳)。
    5年粗生存率は血栓溶解薬群88%(病院到着前90%,到着後85%),pPCI群83%,非実施群59%。5年死亡リスクは非実施群にくらべ血栓溶解薬群(調整ハザード比0.48),pPCI群(0.57),血栓溶解薬群の病院到着前実施例(0.57)で有意に低かったが,病院到着後実施例(1.19)は高い傾向であった。血栓溶解薬群はpPCI群にくらべ,全コホートでは低い傾向で,発症後≦180分+再灌流療法施行>90分のサブグループでは有意に低かったが(0.63),propensity scoreマッチング解析では有意差はなかった(Danchin N et al on behalf of the FAST-MI 2005 investigators. Five-year survival in patients with ST-segment-elevation myocardial infarction according to modalities of reperfusion therapy: the French Registry on Acute ST-Elevation and Non-ST-Elevation Myocardial Infarction (FAST-MI) 2005 Cohort. Circulation. 2014; 129: 1629-36.)。 PubMed
  • 心筋梗塞急性期の心室細動発生による予後と死亡原因-入院中の死亡リスクは上昇したが,5年後の全死亡,心臓突然死とは関連しなかった。
    3,670例の入院患者において,心筋梗塞(MI)診断後(急性期;退院まで)の心室細動(VF)発生の有無別に入院中の死亡および退院5年後の死亡,死因を評価した結果(平均追跡期間52か月):5年後の追跡完了例は94.5%。
    入院中の死亡率は急性期VF発生例(116例)で有意に高かった(25.0% vs 5.0%:調整オッズ比7.38;95%信頼区間4.27~12.75, p<0.001)。
    生存退院例(3,463例)のうち追跡期間中に1,024例が死亡。5年後生存率は74.4%。
    Cox回帰分析によると,急性期のVF発生は5年後の死亡率上昇とは関係しなかった(ハザード比0.78;95%信頼区間0.38~1.58, p=0.21)。5年後の死因の分布とVFの有無に有意な関連はみられず,両群ともにICD植込みが少なかった(全体で1.2%)にもかかわらず,特に心臓突然死の差もみられなかった(VF発生例13.1% vs 非発生例12.9%)(Bougouin W et al on behalf of FAST-MI Registry investigators: Incidence of sudden cardiac death after ventricular fibrillation complicating acute myocardial infarction: a 5-year cause-of-death analysis of the FAST-MI 2005 registry. Eur Heart J. 2014; 35: 116-22.)。 PubMed
  • clopidogrelを投与している急性心筋梗塞(AMI)患者では,CYP2C19loss-of-function alleles(機能喪失対立遺伝子)保有例は非保有例よりも心血管イベント発症リスクが大きい。
    AMI後にclopidogrelを投与した2208例を1年追跡した結果:死亡225例,非致死的MI,脳卒中94例。CYP3A5(代謝活性調節遺伝子),生物活性調節遺伝子P2RY12ITGB3の一塩基多型のいずれも有害転帰のリスクとは関連しなかった。clopidogrelの吸収に関わるABCB1の変異型対立遺伝子を2個有する(ヌクレオチド3435がTT)患者では,野生型遺伝子(ヌクレオチド3435がCC)を有する患者に比べ,心血管イベント発症率が高い:15.5% vs 10.7%;調整後ハザード比1.72(95%信頼区間1.20~2.47)。CYP2C19機能喪失対立遺伝子(*2, *3, *4, *5)の2つを保有する例は非保有例よりも心血管イベント発症率が高かった:21.5% vs 13.3%;1.98(1.10~3.58)(Simon T et al for the French registry of acute ST-elevation and non–ST-elevation myocardial infarction (FAST-MI) investigators: Genetic determinants of response to clopidogrel and cardiovascular events. N Engl J Med. 2009; 360: 363-75.)。 PubMed
    Freedman JE and Hylek EM: Clopidogrel, genetics, and drug responsiveness. N Engl J Med. 2009; 360: 411-3. PubMed

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収載年月2009.04
更新年月2015.02