循環器トライアルデータベース

VADT
Veterans Affairs Diabetes Trial

目的 罹病期間が長い2型糖尿病患者において,強力な血糖コントロールの心血管イベントへの影響を検討する。

一次エンドポイントは心血管イベント(心筋梗塞[MI],脳卒中,心血管死,うっ血性心不全[CHF]新規発症/悪化,心臓・脳血管・末梢血管外科手術,インターベンションが不可能な冠動脈疾患,虚血性壊疽による切断の複合)初発。
デザイン 無作為割付け,オープン,多施設,intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は5.6年(中央値)。
登録期間は2000年12月1日~2003年5月30日,追跡終了は2008年5月30日。
対象患者 1,791例。経口糖尿病治療薬あるいはインスリン最大用量投与にもかかわらず十分な血糖コントロールができない2型糖尿病の退役軍人。
除外基準:HbA1c<7.5%;6か月以内の心血管イベント発症例;進行したCHF;重症狭心症;BMI>40kg/m²;クレアチニン>1.6mg/dL;アラニンアミノトランスフェラーゼ異常(正常上限値の>3倍);余命<7年。
■患者背景:平均年齢(強力血糖コントロール群60.5歳,標準血糖コントロール群60.3歳),糖尿病罹病期間(両群とも11.5年),心血管イベント既往(355例[39.8%],368例[40.9%]),高血圧(642例[72.0%],650例[72.3%]),クレアチニン(両群とも1.0mg/dL)。インスリン投与例52%。
治療法 両群とも,BMI≧27kg/m²例はビグアナイド系薬剤metformin+インスリン抵抗性改善薬rosiglitazone,<27kg/m²例はSU薬glimepiride+rosiglitazoneで投与を開始する。
強力血糖コントロール群(892例):最大用量を投与。標準血糖コントロール群に対してHbA1cの1.5%絶対低下が目標。試験薬以外の治療を追加する前にHbA1c<6%を達成できない場合インスリンを追加投与,標準血糖コントロール群(899例):最大用量の半量から投与を開始し,HbA1c<9%を達成できない場合インスリンを追加投与。追加併用投与する糖尿病治療薬は試験医に委ねた。
その他の治療可能な危険因子の治療は並行して行い,禁忌でない限り全例にaspirin,スタチン系薬剤を投与した。
結果 検査値の変化
HbA1c(強力血糖コントロール群:試験開始時[平均]9.4%→終了時[中央値]6.9%,標準血糖コントロール群:9.4%→ 8.4%),体重(97→ 105.2kg, 97→ 101.2kg;終了時p=0.01),BMI(31.3→ 33.8kg/m², 31.2kg→ 32.3kg/m²;終了時p=0.01),血圧(131/76→ 127/68mmHg, 132/76→ 125/69mmHg),総コレステロール(182→ 150mg/dL, 185→ 153mg/dL),LDL-C(107→ 80mg/dL, 108→ 80mg/dL),HDL-C(36→ 40mg/dL, 36→ 41mg/dL),トリグリセライド(201→ 151mg/dL, 223→ 159mg/dL)。
心血管イベント(一次エンドポイント)
強力血糖コントロール群235例 vs 標準血糖コントロール群264例:ハザード比[HR]0.88;95%信頼区間0.74~1.05(p=0.14)。両群間に有意差のあった構成イベントもなかった。最も多かったイベントは冠動脈血行再建術(107例 vs 127例;p=0.19),次いでCHF(76例 vs 82例;p=0.57),MI(64例 vs 78例;p=0.24)。心血管死は38例 vs 29例(HR 1.32;0.81~2.14, p=0.26)
全死亡,細小血管疾患,低血糖,有害イベント
全死亡:102例 vs 95例(HR 1.07;0.81~1.42, p=0.62)。
細小血管疾患:アルブミン尿の増加(微量アルブミン尿→蛋白尿,アルブミン正常→微量アルブミン尿,蛋白尿)は4.1% vs 6.6%(p=0.05),糖尿病性網膜症の2ポイント以上(23-point Early Treatment Diabetic Retinopathy Study: ETDRS)の進行(17.0% vs 22.1%;p=0.07),自律神経障害新規発症(8.2% vs 5.2%;p=0.07)以外,両群間に差はみられなかった。
低血糖:症候性(1333件/100例・年 vs 383件/100例・年),非症候性(233件/100例・年 vs 49件/100例・年):いずれもp<0.001。
有害イベントは24.1% vs 17.6%でほとんどが低血糖であった。
★結論★血糖コントロール不良の2型糖尿病患者において,強力な血糖コントロールによる大血管合併症,死亡,細小血管合併症の有意な抑制効果は認められなかった。
ClinicalTrials. gov No: NCT00032487
文献
  • [main]
  • Duckworth W et al for the VADT investigators: Glucose control and vascular complications in veterans with type 2 diabetes. N Engl J Med. 2009; 360: 129-39. PubMed
  • [substudy]
  • 強力血糖コントロール治療終了後,通常ケア5年追跡結果-追跡期間約10年で,心血管イベントは強力コントロール群のほうが有意に少なかったが,全死亡・心血管死には有意差なし。
    本試験終了後,通常ケアに戻った全例をさらに5年間追跡した結果(追跡期間中央値:一次エンドポイント9.8年・死亡11.8年):全例の転帰を国のデータから抽出したほか,国のデータからは取得困難なデータを検出するため,同意例のみにおいて年1回自記式調査とカルテ調査も実施(調査コホート)。
    HbA1cの差は試験終了時の1.5パーセンテージポイント(中央値:強力血糖コントロール群6.9% vs 標準コントロール群8.4%)から,3年後0.2~0.3パーセンテージポイントに縮小し,この差が追跡終了まで持続した。
    調査コホート(1,391例・平均年齢61.1歳)において,一次エンドポイント(初発主要心血管イベント:心筋梗塞,脳卒中,うっ血性心不全の新規発症・増悪, 虚血性壊疽による切断,心血管死の複合)のリスクは,強力コントロール群が有意に低かった(ハザード比0.83;95%信頼区間0.70~0.99[p=0.04];絶対リスク低下8.6/1,000人・年)。この結果は全例を対象とした感度分析でも同様で,サンプリングバイアスはみられなかった。一方,全例(1,655例・60.5歳)の解析で,死亡には有意差は認められなかった(心血管死:74/837例vs 83/818例,全死亡:275/837例 vs 258/818例):N Engl J Med 2015; 372: 2197-206. PubMed
  • 強力な血糖コントロールと9か月後の脂質・炎症マーカー―アディポネクチン,脂質が改善,LDL・HDL亜分画が良好な変化を示す。
    7施設が参加したサブスタディRACED(Risk Factors, Atherosclerosis, and Clinical Events in Diabetes);ベースライン時および9か月後に血漿脂質サブクラス,その他のリスクマーカー濃度を測定した266例において,それらのマーカーに対する試験治療の影響を評価した結果:患者背景(HDL-C:強力血糖コントロール[INT]群41mg/dL,標準群38mg/dL[p=0.04],HDL3:34, 31mg/dL[p=0.02],IL-6:2.8, 3.3pg/mL[p=0.02],プラスミノーゲン活性化因子阻害物質[PAI]-1:32, 40units/mL[p=0.04];中央値)。
    INT群では標準群よりHbA1cが有意に低下し(中央値:-2% vs -0.7%), BMI(4% vs 1%), HDL-C(9% vs 4%), HDL2(14% vs 0%), LDL2(36% vs 1%),アディポネクチン(130% vs 80%)が有意に上昇した。また,トリグリセライド(-13% vs -4%),small dense LDL4(-39% vs -13%)が有意に低下した。一方,アポリポ蛋白B-100・B-48, CRP, IL-6,リポ蛋白関連ホスホリパーゼA2,ミエロペルオキシダーゼ,フィブリノゲン,PAI-1への影響はみられなかった。
    5年間(中央値)の追跡で大血管イベントは76例発生。このリスクはベースライン時のIL-6,LDL-C,アポリポ蛋白B-100,フィブリノゲンと関連したが,9か月後の古典的・新規危険因子の変化とは関連しなかった:Diabetes Care. 2013; 36: 2408-14. PubMed
  • スタチンの使用と血管石灰化-高頻度使用は石灰化進展と関連。
    7施設が参加したサブスタディRACED(Risk Factors, Atherosclerosis, and Clinical Events in Diabetes);2型糖尿病と広範囲の動脈硬化を合併した197例において,試験期間中のスタチンの使用と冠動脈石灰化(CAC),腹部大動脈石灰化(AAC)の伸展との関係を評価した結果(平均4.6年追跡):ベースライン時のスタチン使用例は121例(61%,うち7割がsimvastatin)。スタチン高頻度使用例(試験期間中の受診日数の>50%でスタチン使用を報告)は161例(82%),低頻度使用例(同≦50%)は36例(18%)。高頻度使用例はCVD既往が有意に多かった。
    試験終了時,スタチン高頻度使用例は低頻度使用例に比べ総コレステロール(TC:151 vs 167mg/dL),LDL-C(79 vs 91mg/dL)が有意に低く(いずれもp=0.01),TC/ HDL-C比が低かった(3.6 vs 4.1, p=0.05)。
    CVDの発生率には有意差は認められなかったが(30% vs 19%, p=018),CACの進展はスタチン高頻度使用例のほうが有意に大きかった(p<0.01)。CACの進展が加速している可能性があるCVD既往例を除外した105例でも,結果はかわらなかった(7.1 vs 4.3mm³, p=0.03)。AACの進展には有意差はみられなかったが,ベースライン時のスタチン非投与例(CAC:76例,AAC:73例)におけるCAC,AACの進展は,スタチン高頻度使用例のほうが大きかった:Diabetes Care. 2012; 35: 2390-2. PubMed
  • 強力血糖コントロールは腎機能障害の進展を抑制しなかったが,細小血管疾患進展症例でACR増加の抑制がみられた。
    患者背景:60.4歳;罹病期間11.5年;HbA1c 9.4%;血圧132/76mmHg。
    尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)進展:強力血糖コントロール群は独立して抑制しなかったが,光凝固術既往例(オッズ比0.28;95%信頼区間0.09~0.89),白内障の手術既往例(0.05;0.01~0.43),あるいは両方の既往例(0.02;<0.01~0.16)では抑制した。強力血糖コントロールと交互作用がみられたのは,BMI(>34kg/m²例で抑制,p=0.009),拡張期血圧(<64mmHg例で有意に抑制,p=0.03),光凝固術(p=0.06),白内障の手術(p=0.009)。
    eGFR進展:収縮期血圧が10mmHg上昇するごとにeGFRは8%低下し,光凝固既往例はeGFR悪化のリスクが増大(1.69;1.15~2.47),トリグリセライドもリスク増大と関連(1.22;0.99~1.50)。インスリンの使用はeGFRの悪化を抑制(0.79;0.62~1.0)。強力血糖コントロールは,ACR高値例のeGFRの低下を抑制した:Diabetes Care. 2011; 34: 2090-4. PubMed
  • 収縮期血圧≧140mmHg,拡張期血圧<70mmHgで心血管疾患リスクが増大。
    ベースライン時(ハザード比1.508, p<0.001)および試験期間中(1.469, p=0.002)の収縮期血圧(SBP)≧140mmHgは心血管疾患(CVD)が有意に上昇。拡張期血圧(DBP)<70mmHgもCVDリスクが上昇(ベースライン時:1.482, p<0.001,試験期間中:1.491, p<0.001)。SBPとDBPを合わせる(≧140/<70mmHg)と,ベースライン時:1.785, p=0.03,試験期間中:2.042, p=0.003。DBP<70mmHgは大半のSBP値と合わせてもCVDリスクが上昇した:Diabetes Care. 2011; 34: 34-8. PubMed
  • 罹病期間が約12年の2型糖尿病患者における石灰化の予測因子。
    VADTの7施設が参加したサブスタディ:Risk Factors, Atherosclerosis, and Clinical Events in Diabetes (RACED)の結果:ベースライン時および追跡時にCTスキャンで冠動脈石灰化(CAC:197例),腹部大動脈石灰化(AAC:189例)を評価(平均追跡期間4.6年)したものの結果:糖尿病罹病期間12年,BMI 31kg/m²,HbA1c 9.2%,非ヒスパニック系白人68%,高血圧既往81%,心血管疾患既往37%。
    石灰化の進展に高石灰化度は関連したが,標準的な危険因子は影響せず,アルブミン/クレアチニン比(p=0.02),リポ蛋白関連ホスホリパーゼA2(p=0.01)はCAC進展の予測因子であった。強力血糖コントロールはCAC,AACいずれの進展も抑制しなかった:Diabetes Care. 2010; 33: 2642-7. PubMed

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収載年月2009.04
更新年月2015.08