循環器トライアルデータベース

ECASS III
European Cooperative Acute Stroke Study III

目的 急性期脳梗塞患者において,発症から3時間以上経過後(3~4.5時間後)の血栓溶解薬alteplase静注の有効性および安全性を検討。
一次エンドポイントは90日後の障害*
* modified Rankin scale [mRs];無症状を0,死亡を6とする0~6の尺度で0~1を転帰良好,2~6を転帰不良とした。
コメント ■コメント 堀 正二
■コメント 後藤 信哉

急性期の脳梗塞に対して組織プラスミノーゲン・アクチベータ(tPA)の投与が有効であり,本邦でも発症3時間以内のalteplase(アルテプラーゼ)投与が保険適用されている(2005年10月)。しかし,発症後3時間以内の投与は時間的制約が厳しく,実際にtPA静注療法の恩恵にあずかる患者は,ごく限られた対象となる。治療時間の延長を期待して幾つかの試験が国内外で実施されているが,発症6時間以内の脳梗塞に対する試験では,その有用性は示せなかった。しかし,本邦で行われたMELT試験は発症6時間以内の中大脳動脈閉塞を伴う脳梗塞患者に対してウロキナーゼの局所動注が有効であった。今回の発表は,発症後4.5時間以内の脳梗塞に対してtPA(アルテプラーゼ)の静注療法が有効であることを示したもので,急性期治療の時間窓が広がることを意味し,我々にとっても朗報である。海外とはtPAの用量も異なり,出血のリスクは日本人の方が高い可能性もあり,本邦における検証が必要であろうが,今後治療時間窓の拡大が期待されることは間違いない。(


脳梗塞と包括される疾患には重症度,発症メカニズムなどに多様性が多い。臨床医は経験により各々脳梗塞の特徴を文章に記述する以上に詳細に理解しているが,その感覚の文章化,数値化は難しい。急性期脳梗塞と包括される疾患の中にも多様性があり,発症後3時間以内においてのみt-PAが有効ないし発症後3時間以内でもt-PAが有効ではない症例がいるのと同じように,発症後4時間以上経過してもt-PAが有効な症例のいることは想像できる。ランダム化比較試験では一つの仮説が検証されるに過ぎない。しかし,その検証された仮説の蓄積が臨床的エビデンスとなり,実臨床に影響を与えるとなると,臨床医の裁量権を広く保証する結果の方が日本人医師には歓迎されるべきであろう。この試験の結果は,4.5時間以内であってもt-PA投与が有効な症例がいることを示したとも理解されるし,4.5時間以内であってもt-PAによる頭蓋内出血する症例がいることを示したとも理解される。このような臨床研究成果を実臨床に応用するためには,臨床医の感性が極めて重要であることを改めて強調すべきである。(後藤
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(ヨーロッパ19か国130施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は90日。
ランダム化期間は2003年7月29日~2007年11月13日。
対象患者 821例。18~80歳。急性期脳梗塞発症から3~4.5時間以内;治療開始前30分以上症状に顕著な改善がみられないもの。
除外基準:頭蓋内出血(CT,MRIで確認); National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア>25,画像診断から重篤な梗塞と判断されたもの;3か月以内の脳卒中,頭部外傷;脳卒中と糖尿病の併発既往;血小板数<10万/mm³;血圧>185/110 mmHgあるいは血圧降下のための積極的治療(静注);血糖<50mg/dLあるいは>400mg/dL;経口抗凝固薬治療例など。
■患者背景:平均年齢(alteplase群64.9歳,プラセボ群65.6歳),男性(63.2%, 57.3%),NIHSS score(10.7, 11.6;p=0.03),血圧(152.6/84.4mmHg, 153.3/83.9mmHg),糖尿病(14.8%, 16.6%),aspirin,抗血小板薬の使用歴(31.1%, 32.5%),高血圧(62.4%, 62.8%),脳卒中既往(7.7%, 14.1%;p=0.03),非喫煙(48.6%, 46.2%)。
治療法 alteplase群(418例):0.9mg/kg静注(最大90mgまで),プラセボ群(403例)にランダム化。
結果 発症からalteplase投与開始までの所要時間(中央値)は,alteplase群3時間59分,プラセボ群3時間58分:3.0~3.5時間;9.6% vs 10.4%,>3.5時間~4.0時間;45.7% vs 47.9%,>4.0時間~4.5時間;41.6% vs 36.7%。
一次エンドポイントは,転帰良好(mRs 0~1)はalteplase群のほうがプラセボ群よりも有意に多かった(alteplase群52.4% vs プラセボ群45.2%:オッズ比[OR]1.34;95%信頼区間1.02~1.76, p=0.04)。
二次エンドポイントである全体の転帰:4つの神経学的障害で評価したスコア(mRs, Barthel index, NIHSS, Glasgow outcome scale)の総合解析結果も,alteplase群のほうがプラセボ群よりも有意に改善された(1.28;1.00~1.65, p<0.05)。
しかし頭蓋内出血の発生率はalteplase群のほうがプラセボ群より有意に高かった(すべての頭蓋内出血:alteplase群27.0% vs プラセボ群17.6%:1.73;1.24~2.42, p=0.001,症候性頭蓋内出血:2.4% vs 0.2%:9.85;1.26~77.32, p=0.008)。症候性頭蓋内出血はすべて治療から22~36時間後に発生した。
死亡率は両群間に有意差はなかった:alteplase群7.7% vs プラセボ群8.4%:OR 0.90;0.54~1.49(p=0.68)。また他の重篤な有害事象の発生率も両群間に有意差はなかった。
★結論★急性期脳梗塞患者において,発症から3~4.5時間後の血栓溶解薬alteplase静注は転帰を有意に改善するが,頭蓋内出血が有意に高頻度にみられた。
ClinicalTrials.gov No: NCT00153036
文献
  • [main]
  • Hacke W et al for the ECASS investigators: Thrombolysis with alteplase 3 to 4.5 hours after acute ischemic stroke. N Engl J Med. 2008; 359: 1317-29. PubMed
    Lyden P: Thrombolytic therapy for acute stroke--not a moment to lose. N Engl J Med. 2008; 359: 1393-5. PubMed

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収載年月2009.01