循環器トライアルデータベース

WENBIT
The Western Norway B Vitamin Intervention Trial

目的 冠動脈疾患(CAD),大動脈弁狭窄患者において,葉酸およびビタミンBによるホモシステイン低下療法の2次予防効果を検討する。
一次エンドポイントは全死亡,非致死的急性心筋梗塞(AMI),不安定狭心症による緊急入院,非致死的脳梗塞の複合。
コメント これまでの観察研究により,血中ホモシステイン値は冠動脈疾患や脳卒中の発症リスクと相関する。西ノルウェーのprospectiveな研究でもホモシステイン値は冠動脈疾患症例や大動脈弁狭窄症例の予後と関連している。また,ビタミン(Vit)B6摂取と冠動脈疾患発症リスクや血中Vit B6値と心血管イベント発症リスクとが反比例することが報告されており,血中Vit B6値はCRP値と強い逆相関を示す。ホモシステイン値は葉酸摂取により低下させることが可能であり,1990年代後半から葉酸にVit B6やVit B12を併用したBビタミン療法による心血管疾患の二次予防研究が始まったが,臨床効果は明らかではない。PCI後の再狭窄に対しても葉酸(+Vit B6, Vit B12)の効果は一定していない。
本研究は,葉酸+Vit B6,Vit B12によるホモシステイン低下療法やVit B6補充療法が冠動脈疾患症例や大動脈弁狭窄症例に対して死亡や心血管イベントを抑制するか否かをprospectiveに検討しており,結果としてホモシステインの低下もVit B6の補充も有意な効果は得られなかった。本論文では炎症に関するマーカーは示されていないが,同じWENBITの他の報告では今回用いたBビタミン療法はCRPの低下をもたらしていない。ホモシステインは心血管イベントリスクのマーカーではあるが治療対象ではないと考えられる。血中Vit B6値の低下は冠動脈疾患の存在や喫煙に伴う炎症反応の軽度亢進の原因ではなく結果として生じているのであろう。
一方,葉酸摂取により本論文やNORVIT trialでは癌の発生率が有意ではないが上昇している。葉酸は癌化の初期過程を抑制するが出来上がった癌の進行を促進するともいわれている。USやカナダでは食品への葉酸の添加が行われており,脳卒中の死亡率の低下が報告されている。現在行われている他の研究やメタ解析の結果によりBビタミン療法の安全性にも今後注目していきたい。(星田
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,2×2 factorial,多施設(西ノルウェーの2大学病院),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は38か月(中央値)。
ランダム化期間は1999年4月~2004年4月。
対象患者 3090例:安定狭心症2585例(83.7%),急性冠症候群461例(14.9%),大動脈弁狭窄症44例(1.4%)。18歳以上のCAD/大動脈弁狭窄の疑いにより血管造影を実施したもの。
除外基準:アルコール依存症,重篤な精神疾患,癌など。
■患者背景:75歳以上9.6%,女性20.5%,2~3枝病変59.3%。
ビタミンBのサプリメントを日常的に店頭で購入しているもの329例(10.8%)。
ホモシステイン値:>100µmol/Lの重症高ホモシステイン血症0例,中等度(30~100µmol/L)25例(0.8%),軽度(15~30µmol/L)271例(8.8%)。
治療状況:抗血小板薬92%,スタチン系薬剤88.4%,β遮断薬78.2%。
ランダム化後の手技:2072例(67.1%)がPCI,CABGを施行し,うち55例が弁手術も施行,弁手術のみは46例。ベースライン時血管造影から手技までの時間は21日(中央値)。
治療法 I群(771例):葉酸+ビタミンB12+ビタミンB6,II群(769例):葉酸+ビタミンB12,III群(771例):ビタミンB6,プラセボ群(779例)にランダム化。
葉酸は0.8mg/日,ビタミンB12は0.4mg/日,ビタミンB6は40mg/日投与。
最初の2週間はI群とII群は葉酸5mg/日,その他の群はプラセボを投与。
ビタミンB群を含むサプリメントは控えるよう要請し,現行薬物治療,血行再建術,弁手術は担当医の判断とした。
結果 ノルウェーで実施されている同様のトライアル(NORVIT)の中間報告からビタミンB治療による有効性はなく,むしろ癌リスクの上昇が示唆されたとする2005年9月のメディアの発表が参加者を不安にさせたため,中間報告で死亡リスクが懸念されたわけではなかったものの,参加者の遵守の観点から安全委員会は試験中止を勧告した。

投与中止は456例(14.8%)で,うち46例が有害事象により中止したが,有害事象に治療群間差はなかった。遵守率は葉酸+ビタミンB12群が葉酸非投与群に比べやや良好であった(83.9% vs 80.0%,p=0.005)。
ホモシステイン値は1年後に葉酸およびビタミンB12を投与した群でベースライン時の10.8µmol/Lから7.6µmol/Lへと30%低下した(p<0.001)が,ビタミンB6およびプラセボ群(葉酸非投与群)では変化しなかった。終了時には葉酸およびビタミンB12投与群は葉酸非投与群より2.8μmol/L,26%低かった。
一次エンドポイントはI群94例(12.2%),II群125例(16.3%),III群106例(13.7%),プラセボ群97例(12.5%)で,葉酸投与群(219例[14.2%])vs葉酸非投与群(203例[13.1%])のハザード比(HR)は1.09(95%信頼区間0.90~1.32,p=0.36)と,ホモシステイン値低下による有意な心血管疾患抑制効果は認められなかった。一次エンドポイントを構成する各エンドポイントでも同様であった。
またビタミンB6投与群(200例[13.0%])vs ビタミンB6非投与群(222例[14.3%])もHR0.90(0.74~1.09,p=0.28)で効果はみられなかった。
多変量解析後,ベースライン時のホモシステイン値は一次エンドポイントの有意な予測因子であった。3µmol/L上昇するごとのHRは1.07(1.02~1.13,p=0.01)。
★結論★冠動脈疾患患者において,葉酸およびビタミンBを用いたホモシステイン低下療法による心血管疾患抑制効果は認められなかった。
ClinicalTrials.gov No: NCT00354081
文献
  • [main]
  • Ebbing M et al: Mortality and cardiovascular events in patients treated with homocysteine-lowering B vitamins after coronary angiography: a randomized controlled trial. JAMA. 2008; 300: 795-804. PubMed

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収載年月2008.12