循環器トライアルデータベース

Niigata Preventive Medicine

目的 新潟県成人病予防協会(Niigata Association for Comprehensive Health Promotion and Research)の健診結果に基づく地域ベースのコホート研究。
(1) 心房細動(AF)の危険因子である心電図(ECG)上の異常とAF発症との関連を検討する。
(2) メタボリックシンドローム(MetS)とAF発症との関連を検討する。
コメント ・新潟県の定期健康診断による心房細動の疫学調査の成績で,ST異常,期外収縮(心房性,心室性)が心房細動の新規発症を増すことが明らかにされた。
・高血圧,糖尿病,肥満は欧米のデータでも心房細動の危険因子として知られているが,現在注目を集めているメタボリック症候群が心房細動の危険因子であること,構成要因の累積によって心房細動発症リスクが高まることなど,貴重なデータが示された。(井上
デザイン 前向きコホート観察研究。
期間 (1) 追跡期間は10年(1991年4月~2002年3月)。
(2) 平均追跡期間は4.5年(1996~’98年の空腹時血液検査をベースライン値とし,2005年の健診時まで追跡)。
参加者 (1) 63,386人(男性19,292人,女性44,094人:平均年齢61.3歳)。50歳以上,新潟県で20歳以上の住民に年に1回実施している健康診断を1991年から10年間受けたもの,心房粗動を含むAF既往のないもの,ベースラインのECG測定時に洞調律のもの。
除外基準:器質的心疾患,うっ血性心不全,永久ペースメーカーの植込み例,ST異常をきたす病態(ただし高血圧は除く),追跡期間中に器質的心疾患,心不全を発症したもの。
(2) 28,449人(男性9,805人,女性18,644人)。高脂血症治療薬投与例は除外。
■参加者背景:平均年齢59.2歳,男性34%,BMI 22.9kg/m²,血圧129.8/77.8mmHg,HDL-C 62.2mg/dL(男性59.3mg/dL;女性63.7mg/dL),トリグリセライド(TG)104.2mg/dL,空腹時血糖値94.6mg/dL,降圧薬投与20%,糖尿病12%。
調査方法 健康診断項目は問診,病歴,身体検査,血液・尿検査,胸部X線,12誘導ECG。AFは追跡期間中のECGにより判断。
(1) AFを発症した患者(AF群)と非発症例(非AF群)とで患者背景(年齢,性別,BMI,血圧,高血圧[≧140/90mmHg],糖尿病[空腹時血糖≧110mg/dL,HbA1c≧6.0g/dL]),心電図異常(左室肥大[LVH],mild ST異常*,severe ST異常**,低頻度期外収縮,高頻度期外収縮,右脚・左脚ブロック)を比較。
* mild ST異常:flat T波(Minnesota code 5-3,5-4),陰性T波または陰性相<1.0mmの二相性T波(code 5-3)。
** severe ST異常:陰性T波,陰性相≧1.0mmの二相性T波(code 5-1, 5-2);ST部が水平あるいは下り坂で≧0.5mm低下(code 4-1, 4-2);ST部が上り坂で≧1.0mm低下(code 4-4)。
高頻度期外収縮:心電図記録上,心房あるいは心室期外収縮が全心拍の10%以上。
(2) AF発症リスクをMetS群と非MetS群で比較。
MetSの定義:NCEP-ATP IIIおよびAHA/NHLBIの診断基準を使用。以下の危険因子のうち3つ以上を有する場合。BMI≧25kg/m²(欧米と日本に差があるため日本肥満学会の定義に拠る);TG≧150mg/dL;低HDL-C(男性<40mg/dL,女性<50mg/dL);血圧≧130/85mmHg,高血圧治療歴;耐糖能異常(IGT:NCEP-ATP III ≧110mg/dL, AHA/NHLBI ≧100mg/dL),糖尿病既往。
結果 (1) AF群は873例(うち男性496例,1.4例/1000人・年),非AF群62,513人。
・年齢,男性の割合,BMI,血圧,高血圧,糖尿病のすべての危険因子において,AF群のほうが非AF群よりも有意に高かった。
平均年齢(AF群64.5歳vs 非AF群61.2歳:オッズ比(OR)1.08;95%信頼区間1.07~10.9, p<0.001),男性(56.8% vs 30.1%:3.06;2.67~3.50, p<0.001),BMI(23.2 kg/m² vs 22.9 kg/m²:1.04;1.01~1.06, p=0.003),血圧(134.8/78.1mmHg vs 129.0/76.1mmHg:1.02/1.02;1.02~1.02/1.01~1.03, p<0.001),高血圧(25.7% vs 16.7%:1.73;1.48~2.01, p<0.001),糖尿病(5.4% vs 4.0%:1.37;1.02~1.84, p=0.038)。
・危険因子で調整した心電図異常は右脚ブロックと左脚ブロックを除きすべてAF群のほうが非AF群よりも有意に多かった。
LVH(9.9% vs 5.8%:OR1.43;1.13~1.80, p=0.002),mild ST異常(3.3% vs 2.0%:1.63;1.11~2.38, p=0.012),severe ST異常(0.8% vs 0.1%:5.02;2.27~11.12, p<0.001),低頻度期外収縮(5.2% vs 1.7%:2.46;1.80~3.35, p<0.001),高頻度期外収縮(3.6% vs. 0.8%:3.48;2.39~5.06, p<0.001),右脚ブロック(1.1% vs 1.3%:0.84; 0.46~1.53, p=0.57),左脚ブロック(0.1% vs 0.1%:0.96;0.13~7.09, p=0.96)。
LVHを伴わないST異常はAF群のほうが有意に高く(OR1.89;1.34~2.67),期外収縮も同様にAF発症と強い関連がみられた(2.89;2.26~3.69)。
・危険因子とECG指標で多変量調整後の心電図異常も右脚ブロックと左脚ブロックを除きすべてAF群のほうが有意に高かった。
LVH(OR 1.39;1.11~1.75, p=0.005),mild ST異常(1.66;1.13~2.43, p=0.009),severe ST異常(5.12;2.30~11.38, p<0.001),低頻度期外収縮(2.52;1.84~3.44, p<0.001),高頻度期外収縮(3.49;2.40~5.08, p<0.001),右脚ブロック(0.84; 0.46~1.53, p=0.56),左脚ブロック(0.98;0.13~7.23, p=0.98)。
★結論★ST異常と高頻度の期外収縮はAF発症リスクの増加と関連する。

(2) MetSはNCEP-ATP III基準で3716例(13%),AHA/NHLBI基準で4544例(16%)。MetS群のほうが非MetS群に比べ男性がやや多く,年齢,BMI,HDL-C,TG,空腹時血糖,降圧薬使用率,糖尿病すべてにおいて高かった。
・MetS構成危険因子
肥満:5899例(全体の21%),血圧上昇例:14,628例(53%),低HDL-C:3785例(13%),高TG:4119例(15%),IGT:NCEP-ATP III 2691例(9%),AHA/NHLBI 6420例(23%)。
・集積している危険因子数:NCEP-ATP III・AHA/NHLBI;0(8103例[28%]・7298例[26%]),1因子(10,049例[35%]・9232例[32%]),2因子(6581例[23%]・7375例[26%]),3因子以上(3716例[13%]・4544例[16%])。AF発症は265例(女性105例:1.3例/1000人・年 vs 男性4.1例/1000人・年)。
保有危険因子数はNCEP-IIIではAF発症例1.6 vs 非発症例1.2(p<0.001),AHA/NHLBIでは1.8 vs 1.4(p<0.001)。
・AF発症例をMetS群,非MetS群でみると,NCEP-III:MetS群56例/15,439人・年(年齢調整後3.3例/1000人・年),非MetS群209例/112,222人・年(1.9例/1000人・年),AHA/NHLBI:61例/19,126人・年(2.9例/1000人・年),204例/108,535人(1.9例/1000人・年)。
AF発症に対するMetSの年齢,性で調整後のハザード比(HR)はNCEP-ATP IIIでは1.88(95% 信頼区間1.40~2.52, p<0.001),治療高血圧と糖尿病を除いた後のHRは1.78(1.07~2.96, p=0.03)。AHA/NHLBIでは1.61(1.21~2.15, p=0.001), 1.28(0.78~2.1, p=0.33)。
・AF発症に対するMetS構成危険因子のHR(年齢,性で調整)は高TGを除くすべての因子で有意に上昇した。
肥満1.64(1.26~2.15, p<0.001),血圧上昇1.69(1.26~2.27, p<0.001),低HDL-C 1.52(1.09~2.14, p=0.01),TG上昇1.13(0.81~1.57, p=0.47),IGT;NCEP-ATP III:1.44 (1.09~1.90, p=0.01),AHA/NHLBI:1.35(1.06~1.73, p=0.01)。
さらに,危険因子が集積するほどAF発症リスクは増加した。
NCEP-ATP III:1因子(HR)1.95→ 2因子2.05→ 3因子以上3.27,
AHA/NHLBI:1因子2.33→ 2因子2.54→ 3因子以上3.39。
★結論★メタボリックシンドロームは心房細動のリスク増大と関連する。

[主な結果]
  • (1) Watanabe H et al: ST-segment abnormalities and premature complexes are predictors of new-onset atrial fibrillation: the Niigata preventive medicine study. Am Heart J. 2006; 152: 731-5. PubMed
  • (2) Watanabe H et al: Metabolic syndrome and risk of development of atrial fibrillation: the Niigata preventive medicine study. Circulation. 2008; 117: 1255-60. PubMed
    Nguyen JT and Benditt DG: Atrial fibrillation susceptibility in metabolic syndrome: simply the sum of its parts? Circulation. 2008; 117: 1249-51. PubMed

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収載年月2008.10