循環器トライアルデータベース

ADVANCE-血糖コントロール試験
Action in Diabetes and Vascular Disease: Preterax and Diamicron MR Controlled Evaluation

目的 高リスクの2型糖尿病患者において,血圧コントロール(ACE阻害薬perindopril-利尿薬indapamide)+血糖コントロール(スルホニル尿素[SU]薬gliclazide)による大血管および細小血管障害への有効性を検討する。

一次エンドポイントは,大血管障害(非致死的脳卒中,非致死的心筋梗塞[MI],心血管死)および細小血管障害(腎症*,糖尿病性網膜症**の新規発症あるいは悪化)。
* 顕性腎症(尿中アルブミン/クレアチニン比>300μg/mg cre,>2.26mg/dLのクレアチニン値の倍増),腎代償療法の必要,腎疾患死。
** 増殖糖尿病網膜症, 黄斑浮腫,糖尿病による失明,網膜光凝固。
コメント N Engl J Med. 2008; 358 :2560-72. へのコメント
本試験は,ACCORD試験と同時に発表された血圧コントロールに加えて血糖の厳格治療による大血管障害と細小血管障害の予防効果をみる大規模臨床試験である。一次エンドポイントである両者を合わせた有効性は示せたものの,大血管障害の予防効果は示し得なかった。つまり,ACCORD試験と同様,糖尿病の厳格な治療による心血管病予防効果は示し得なかったことになる。本試験では,死亡率の上昇は認められなかったことがACCORD試験と異なる点である。本試験では,厳格な治療の標準的な治療法が示されており,インスリンの使用量が少なく,むしろチアゾリジンの使用量が多かった。このような標準的治療法を示したことが死亡率を上昇させなかったことにつながった可能性はある。いずれにしても糖尿病が大血管障害の重要な危険因子で得あることは揺るがぬ事実であり,いかなる治療法が大血管障害予防につながるのか今後の課題として十分な検討が必要である。(寺本
デザイン 無作為割付け,2×2 factorial,多施設(20か国*215施設),intention-to-treat解析。
* オーストララシア(オーストラリア,ニュージーランド),アジア,ヨーロッパ,北アメリカ
期間 追跡期間は5年(中央値)。
登録期間は2001年6月~’03年3月,試験終了は2008年1月。
対象患者 11,140例。55歳以上,30歳以上で2型糖尿病の診断を受けたもの,大血管,小血管障害の既往あるいは血管疾患の危険因子を1つ以上有するもの。
HbA1c値の登録・除外基準はなし。
除外基準:試験治療への特別な適応あるいは禁忌,長期インスリン治療の明確な適応。
■患者背景:平均年齢66歳,最初に糖尿病と診断された平均年齢は58歳,糖尿病罹病期間(厳格血糖コントロール群7.9年,標準コントロール治療群8.0年),平均BMIは28kg/m²,体重(78.2kg, 78.0kg),腹囲(99cm, 98cm)。
既往:主要な大血管障害(32.2%, 32.3%):心筋梗塞(両群とも12.0%);脳卒中(9.2%, 9.1%),主要な細小血管障害(10.3%, 10.5%):顕性腎症(3.4%, 3.9%);眼疾患(7.2%, 7.0%),微量アルブミン尿(27.0%, 26.7%)。
オーストララシア(13.4%, 13.3%),アジア(両群とも37.1%),ヨーロッパ(45.6%, 45.7%),北アメリカ(4.0%, 3.9%)。
治療法 6週間のrun-in期間中,通常の血糖コントロールは継続し,降圧試験薬であるperindopril, indapamideの合剤を投与。
厳格血糖コントロール群(5571例):HbA1c≦6.5%を目標に,gliclazide MR 30~120mg/日を投与。その他のSU薬の投与は不可。目標達成のためのその他の治療は担当医に委ねたが,プロトコールでは受診時のHbA1c値に基づいてgliclazideを増量,metformin, thiazolidinediones, acarbose,インスリン(基礎インスリンからの開始を推奨)の追加・増量とした。
標準血糖コントロール群(5569例):目標血糖値は参加国のガイドラインに則った。試験開始時にgliclazideを投与していたものは,継続投与が必要な場合はその他のSU薬を投与。
結果 最終受診時のgliclazideの投与率は90%,120mg/日投与は70.4%。
治療状況の変化
[血糖降下薬]gliclazide:厳格治療群(ベースライン時7.6%→試験終了時90.5%),標準治療群8.0%→ 1.6%,その他のSU薬:64.2%→ 1.9%, 63.1%→ 57.1%,metformin:61.0%→ 73.8%, 60.2%→ 67.0%,thiazolidinedione:3.6%→ 16.8%, 3.7%→ 10.9%,acarbose:9.2%→ 19.1%, 8.0%→ 12.6%,glinide:1.8%→ 1.2%, 1.5%→ 2.8%,全経口血糖降下薬:91.3%→ 93.7%, 90.6%→ 84.4%,インスリン:1.5%→ 40.5%, 1.4%→ 24.1%。
[その他の薬剤]aspirin:44.2%→ 57.0%, 43.7%→ 54.9%,その他の抗血小板薬:4.9%→ 7.1%, 4.2%→ 6.2%,スタチン系薬剤:27.9%→ 45.6%, 28.6%→ 47.7%,その他の脂質治療薬:9.0%→ 7.0%, 7.8%→ 7.0%,降圧薬:75.1%→ 88.9%, 75.1%→ 88.4%。
[HbA1c]
厳格治療群(試験開始時7.5%→試験終了時6.5%),標準的治療群(7.5%→ 7.3%)。
空腹時血糖値:154.4mg/dL→ 119.0mg/dL, 153.9mg/dL→ 140.7mg/dL。
時間加重平均で厳格治療群は標準治療群に比べHbA1cは0.67ポイント,空腹時血糖は21.6mg/dL(1.2mmol/L)それぞれ低下した。
終了時の収縮期血圧は厳格治療群135.5mmHg,標準治療群137.9mmHgで平均差は1.6mmHg(p<0.001),体重は厳格治療群の方が0.7kg重かった(p<0.001)。
[一次エンドポイント]
2125例発生し,厳格治療群18.1% vs 標準治療群20.0%:ハザード比(HR)0.90;95%信頼区間0.82~0.98(p=0.01)。
52例を5年間厳格に血糖コントロール治療をすることにより1件の大血管障害あるいは細小血管障害を予防できる。
厳格治療は標準治療に比べ細小血管障害を有意に抑制したが(9.4% vs 10.9%:HR 0.86;0.77~0.97, p=0.01),大血管障害は抑制しなかった(HR 0.94;0.84~1.06, p=0.32)。
死亡:心血管死(HR 0.88;0.74~1.04, p=0.12),全死亡(0.93;0.83~1.06, p=0.28)。
細小血管障害で厳格治療の抑制効果が大きかったのは,腎症で(4.1% vs 5.2%:HR 0.79;0.66~0.93, p=0.006),網膜症への有意な有効性はみられなかった。
血糖降下治療と降圧治療間の相互作用は認められなかった(全p>0.50)。

重症の低血糖の頻度は高くなかったが,厳格治療群の方が多かった(2.7% vs 1.5%:HR 1.86;1.42~2.40, p<0.001)。
★結論★gliclazideおよびその他の血糖治療薬によりHbA1cを厳格に6.5%まで下げることで大血管障害,細小血管障害を標準治療よりも10%抑制するが,本効果は主に腎症を予防したことによるものである。
ClinicalTrials. gov No: NCT00145925
文献
  • [main]
  • The ADVANCE collaborative group: Intensive blood glucose control and vascular outcomes in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008; 358: 2560-72. PubMed
  • [substudy]
  • 5年の血糖降下治療終了から6年後-終了時のHbA1cの差は消失,厳格血糖コントロール群の長期のCVD抑制効果は認められず(試験終了後の観察研究ADVANCE-ON)。
    試験終了から2年後に観察研究参加に同意した80%の施設で,2010年1月~’14年2月28日,長期の有効性,試験期間中にみられた両群間差が持続するかを検証した結果(8,494例・本試験5.0年+観察研究5.4年:全追跡期間9.9年[中央値]):本試験終了後は通常治療を再開。観察期間終了時の生存例7,279例中,観察を終了したのは5,131例(70%)。観察研究の初回外来は試験終了後2.9年で,患者背景に本試験との違いはなかった。
    試験終了時にみられたHbA1cの有意な両群間差は観察研究開始時には消失し,観察終了時にも両群同等であった(厳格群7.2%,標準群7.4%)。インスリン使用の増加は標準群のほうが多く,SU薬(試験薬のgliclazide MR を含む)の使用は両群で減少した。
    観察期間中の全死亡は1,234例。全追跡期間でも,本試験同様(ハザード比0.93;95%信頼区間0.83~1.06),有意な両群間差は認められなかった(厳格群1,139例 vs 標準群1,126例: 1.00;95%信頼区間0.92~1.08)。主要大血管イベント(1,019例)も,本試験同様(0.94;0.84~1.06),有意差はなかった(1,089例 vs 1,077例:1.00;0.92~1.08)。
    細小血管イベントでは末期腎不全が厳格群で少なかった(29例 vs 53例:0.54;0.34~0.85, p=0.007)。
    ClinicalTrials gov. No: NCT00949286:N Engl J Med. 2014; 371: 1392-406. PubMed
  • 厳格血糖コントロールの大血管・細小血管障害抑制効果に地域間差なし。
    主結果で認められた厳格な血糖コントロールの有効性が,アジア(中国,インドなどの4,136例),既存市場(EME)(オーストラリア,ニュージーランド,イギリス,オランダなどの4,862例),東欧(ハンガリー,ポーランドなどの2,142例)の3地域で異なるかを評価した:患者背景には,細小血管障害の既往を除き有意な地域間差が認められた(p≦0.02)。
    EMEを対照とすると,ベースライン変数で調整後,アジアは一次エンドポイント(ハザード比1.33;95%信頼区間1.17~1.50, p<0.001),大血管障害(1.31;1.11~1.56, p=0.002),細小血管障害(1.36;1.15~1.60, p<0.001)のリスクが最大であった。東欧は一次エンドポイントについてはEMEと差がなかったが,大血管障害リスクはEMEよりも高く(1.19:1.00~1.42, p=0.05),細小血管障害リスクは低かった(0.77;0.62~0.94, p=0.01)。全死亡と心血管死のリスクが最も高かったのは東欧で(それぞれ1.43;1.20~1.71, 1.64;1.29~2.09),アジアはEMEと同等。HbA1cの平均治療群間差はEMEが最小であった(-0.55%,アジア-0.78%,東欧-0.71%)。厳格血糖コントロールが大血管・細小血管障害に及ぼす効果はアジアで他の地域よりも高い傾向が示されたものの,有意な地域間差は認められなかった(p≧0.23)。重症低血糖の発生についても有意な地域間差はみられなかった:Diabetes Care. 2011; 34: 2491-5. PubMed
  • 重症低血糖は多くの有害臨床転帰と強く関連するが,マーカーにすぎない可能性が示される。
    重症低血糖と有害臨床転帰の関係を検証した結果:重症低血糖は231例(2.1%)(厳格治療群150例[2.7%],標準治療群81例[1.5%])。これらの患者における重症低血糖発生後の有害転帰発生率は,大血管障害16.8%(35/208例),細小血管障害11.5%(24/209例),死亡19.5%(45/231例)で,重症低血糖を報告しなかった患者ではそれぞれ10.2%(1,112/10,932例),10.1%(1,107/10,931例),9.0%(986/10,909例)。重症低血糖発生から大血管障害初発までの時間(中央値)は 1.56年(四分位範囲0.84~2.41年),細小血管障害0.99年(0.40~2.17年),死亡1.05年(0.34~2.41年)。重症低血糖を報告した患者は,報告しなかった患者に比べて,大血管障害(調整後のハザード比2.88;95%信頼区間2.01~4.12),細小血管障害(1.81;1.19~2.74),心血管死(2.68;1.72~4.19),全死亡(2.69;1.97~3.67)のリスクが有意に高かった(すべてp<0.001)。呼吸器,消化器,皮膚疾患などの非血管転帰のリスクも,重症低血糖報告例は非報告例に比べて有意に高かった(すべてp<0.05)。重症低血糖の再発と血管転帰または死亡との用量-反応関係は認められなかった:N Engl J Med. 2010; 363: 1410-8. PubMed
  • 中間報告
    ベースライン時患者背景:平均年齢66歳,女性43%,糖尿病罹病期間8年(診断から>10年の症例36%),血管疾患既往:主要な大血管障害32%,細小血管障害10%。
    危険因子:喫煙14%, TC 201.1mg/dL(>232.0mg/dLは24%),HDL-C 50.3mg/dL(<38.7mg/dLは20%),トリグリセライド177.0mg/dL,アルブミン/クレアチニン比14.2μg/mg(微量アルブミン尿:30~300μg/mgは24%),BMI 28kg/m²,ウエスト周囲99cm。
    血圧関連:血圧145/81mmHg(カナダ138/77mmHg~オランダ155/84mmHg),高血圧既往69%,降圧薬治療例75%:ACE阻害薬43%(うちperindopril投与例47%);AII受容体拮抗薬5%,β遮断薬24%,Ca拮抗薬31%,サイアザイド/サイアザイド系利尿薬14%,その他の利尿薬11%,その他の降圧薬12%。単剤治療例32%,2剤25%,3剤以上18%。
    aspirin,その他の抗血小板薬47%,脂質低下薬35%。
    血糖関連:ヘモグロビンA1c 7.5%(リトアニア6.6%~エストニア8.5%),食事療法のみ9%,経口血糖低下薬投与91%:SU薬71%(うちgliclazide投与例8%);metformin 61%;acarbose 9%。単剤治療例43%,2剤42%,3剤以上6%。
    国別特徴
    アジア(中国,インド,マレーシア,フィリピン)37%,女性は約半数(カナダ27%~エトアニア,フィリピン75%)。大血管および細小血管合併症の既往例はドイツ26%~リトアニア,マレーシア52%。喫煙率はポーランド(23%),オランダ(20%)が高い。BMIはアジアで低く(およそ25kg/m²),白人が多い国で高い(およそ30kg/m²)。
    薬物治療以外の血糖コントロール率はマレーシア(1%)~ドイツ(28%)。脂質低下薬の使用はエストニア,ロシアでは限られており,抗血小板治療はチェコ共和国(26%)~アイルランド,スロバキア(67%):Diabet Med. 2005; 22: 882-8. PubMed

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収載年月2008.07
更新年月2014.10