循環器トライアルデータベース

J-WIND
Japan Working Group Studies on Acute Myocardial Infarction for the Reduction of Necrotic Damage by Human Atrial Natriuretic Peptide or Nicorandil

目的 急性心筋梗塞(AMI)におけるPCIによる再灌流後の梗塞サイズ,心血管イベントへの効果を,(1) ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(J-WIND-ANP:ANP試験),(2)硝酸薬様作用を有するカリウムチャネル開口薬nicorandil(J-WIND-KATP:KATP試験)で検討する。
一次エンドポイントはクレアチンキナーゼ曲線下面積による梗塞サイズ,左室造影によるEF(入院後6~12か月)。
コメント わが国で単離精製され急性心不全治療薬として広く用いられているヒト心房性ナトリウム利尿ペプチドと,ATP感受性カリウムチャネル開口薬と硝酸薬の両方の効果を持つnicorandilはともに,虚血プレコンディショニングに関係した機序により急性心筋梗塞後の心筋障害を低下させることが基礎研究や小規模の臨床研究で示唆されている。本試験は,ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP試験)とnicorandil(KATP試験)の急性期投与が,緊急PCIを行ったST上昇型急性心筋梗塞初発患者において,梗塞サイズ,左心機能,心血管イベントを改善するかを検討した多施設,無作為割付け,プラセボ対照単盲検試験である。
結果としては,ANP試験でANP群は対照群に比べ,一次エンドポイントである梗塞サイズが14.7%縮小し,6~12か月後のEFはベースラインと比較して5.1%上昇した。また,二次エンドポイントである再灌流傷害も25.9%低下したが,全死亡と心血管イベントの減少については有意ではなかった。しかし,ANP群の心臓死と心不全による再入院のハザード比は0.267と有意に低下していた。一方,KATP試験でnicorandil群は対照群に比べ,一次エンドポイントおよび二次エンドポイントに有意な差はなかったが,慢性期にnicorandilの経口投与を行った例におけるEFの改善は非経口投与例に比べ有意に大きかった。
ANP試験569例,KATP試験545例という規模で行われ,平均追跡期間はそれぞれ2.7年,2.5年と,その信頼性は高く,心疾患の終末型としての心不全の原因のひとつである急性心筋梗塞に対する,ごく初期の薬物治療介入によって将来の心不全を予防する手段を与えたという意味で,今後の急性心筋梗塞治療に影響を与えそうである。問題点としては,各試験に割り付けられた施設間の治療の偏りのためか,二つの試験の対照群の結果に違いがみられることである。また,β遮断薬やACE阻害薬の投与率が比較的低く,試験の間で投与率にも違いがみられている。さらに,梗塞サイズの縮小が示されたANP群においてすら全死亡も,心血管イベントもプラセボと有意差がみられなかった。これは,日本のように急性心筋梗塞に緊急PCIが多く行われる状況で,エビデンスのある慢性期治療薬を高率に併用するならば予後はあまり悪くないことから,治療介入による上乗せ効果を示すことが難しいためであると考えられる。また,安定狭心症患者の予後改善がIONA試験にて示されているnicorandilの慢性期経口投与によるEFの改善がKTAP試験にて示されたが,少数例のサブ解析の結果であるため今後の検討が必要であると考えられる。(原田桑島
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,単盲検,多施設:(1)ANP試験27施設;(2)KATP試験38施設,intention-to-treat解析(有効性の解析)。
期間 追跡期間中央値は(1)ANP試験2.7年,(2)KATP試験2.5年。
登録期間は2001年10月24日~2005年12月13日,心血管イベントに関する追跡終了は2006年8月末。
対象患者 1114例。20~79歳のAMI新規発症例;30分以上の胸痛;ECG上の隣接する2誘導でのST上昇≧0.1mV;発症から12時間以内の入院症例。
除外基準:心筋梗塞既往;左主幹部病変;重症肝腎機能障害;大動脈解離が疑われる症例;CABG既往;薬剤アレルギー既往。
■患者背景
(1)ANP試験:平均年齢(ANP群63歳,プラセボ群61.8歳),男性(76.2%, 83.2%:p=0.04),BMI(24.3kgm², 24.0kg/m²),Killip分類class I(88.6%, 90.3%),梗塞前狭心症(44.5%, 46.1%),危険因子:高血圧(56.1%, 62.1%);糖尿病(33.8%, 33.9%);高脂血症(54.3%, 50.6%);喫煙(63.7%, 67.3%)。
梗塞責任血管:左冠動脈(55.3%, 52.3%);右冠動脈(38.3%, 37.1%),ステント(63.5%, 66.1%),rescue PCI(21.3%, 31.5%)
(2)KATP試験:平均年齢( KATP群61.1歳,プラセボ群63.7歳:p=0.004),男性(89.1%, 81.8%),BMI(24.2kg/m², 23.4kg/m²),Killip分類class I(91.1%, 92.0%),梗塞前狭心症(44.6%, 43.9%),危険因子:高血圧(48.5%, 53.9%);糖尿病(39.5%, 32.9%);高脂血症(46.7%, 46.2%);喫煙(68.7%, 66.1%)。
治療法 (1)ANP試験:ANP群(277例):0.025μg/kg/分を3日間静注,プラセボ群(292例):5%グルコース溶液。
(2)KATP試験:nicorandil(NIC)群(276例*):nicorandil 0.067mg/kgをボーラス投与後,1.67μg/kg/分を24時間静注,プラセボ群(269例):0.9%生理食塩水。
* 61例は担当医師の判断で追跡期間中にも経口投与した。
結果 (1)ANP試験
・梗塞サイズの解析対象はANP群255例,プラセボ群280例。
総クレアチンキナーゼはANP群66459.9IU/L/時 vs プラセボ群77878.9IU/L/時,両群間のクレアチニンキナーゼ比は0.85;95%信頼区間0.75~0.97(p=0.016)で,梗塞サイズがANP群でプラセボ群に比べ14.7%縮小(3.0~24.9)した。サブ解析の結果,ANPの梗塞サイズの関連因子は認められなかった。
・EFの解析対象は199例,199例。
6~12か月後のEFはANP群でプラセボ群に比べ高かった(1.05;1.01~1.10,p=0.024)。
・二次エンドポイントの解析対象は274例,292例。
二次エンドポイントである再灌流傷害はANP群でプラセボ群より低下した:0.743;0.58~0.952(p=0.019)。生存率,心血管イベントは両群同程度であったが,心臓死,心不全による入院はANP群でプラセボ群に比べ低下:ハザード比(HR)0.267;0.089~0.799(p=0.0112)。
・急性期の重篤な低血圧症がANP群で29例発症したが,その他の重篤な有害事象はみられなかった。

(2)KATP試験
・梗塞サイズの解析対象はKATP群269例,プラセボ群260例
総クレアチンキナーゼは両群同程度であった:KATP群70520.5IU/L*時 vs プラセボ群70852.7IU/L*時(p=0.94)。梗塞サイズに両群間差はなかった:両群間のクレアチニンキナーゼ比は0.995(0.878~1.138)。
・EFの解析対象は190例,187例。
EFの変化率は,KATP群のうち静注のみの例(1.47%)ではプラセボ群と同程度,経口投与継続例(3.66%)ではプラセボ群に比べ高値となった。静注のみと経口投与の差は2.20;0.17~4.22(p=0.0338)。
・二次エンドポイントの解析対象は272例,266例。
二次エンドポイントの心臓死,心不全による入院はNIC群でプラセボ群より少なかったが,有意差は認められなかった:HR 0.799;0.307~1.973(p=0.5972)。
・重篤な低血圧症がNIC群で3例発生したが,その他の重篤な有害事象はみられなかった。
★結論★急性心筋梗塞患者において,PCI実施後のヒト心房性ナトリウム利尿ペプチドは梗塞サイズを縮小し,再灌流傷害を抑制し,転帰も良好であることより,安全かつ有効な補助療法であることが示された。
文献
  • [main]
  • Kitakaze M et al for the J-WIND investigators: Human atrial natriuretic peptide and nicorandil as adjuncts to reperfusion treatment for acute myocardial infarction (J-WIND): two randomised trials. Lancet. 2007; 370: 1483-93. PubMed

▲pagetop
EBM 「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収載年月2008.01