循環器トライアルデータベース

OAT
Occluded Artery Trial

目的 急性心筋梗塞後の梗塞責任血管完全閉塞症例において,至適薬物治療にPCIを加えた場合の有効性を検討する。
一次エンドポイントは死亡,再梗塞,NYHA心機能分類IV度の心不全の複合エンドポイント。
コメント まずはじめに,この臨床的意義が大きくかつ実施困難な試験を完遂した著者らに敬意を表したい。心筋梗塞の亜急性期における梗塞責任血管の血行再建施行が一般的となっている中で無作為化試験(RCT)を行う困難さは,登録に要した6年という長い期間が良く物語っている。
 本試験の結論は,「急性心筋梗塞発症から3~28日後の梗塞責任血管が閉塞した安定症例においては,閉塞血管に対するPCIによる心血管イベント(死亡/再梗塞/NYHA IV度の心不全)の抑制効果は認められない」というものであった。
 本試験ではPCIの成功率は87%と高く,サブスタディにおける1年後の責任血管の開存率も83%と高く,PCIの質は高いと判断される。また至適薬物治療単独群のPCIへのクロスオーバーは30日以内3%,30日以降6%と低い。従って,intention-to-treat解析ではなくas-treated解析で評価しても結論は変わらない。
 急性心筋梗塞における血栓溶解療法やprimary PCIの初期の時代には,再疎通療法の適応は,発症後6~12時間という心筋サルベージのためのゴールデンタイムに限定されていた。1990年頃から心筋サルベージ効果が期待出来ない時間帯でも,閉塞血管の再開通は患者の長期予後を改善するという,いわゆる"open artery hypothesis"が提唱された。その根拠となったデータとしては,梗塞血管開存例でイベント発生率が低いという観察研究であり,大規模なRCTによる評価はなかったが,PCIの急速な普及も相まって"open artery hypothesis"は臨床の現場で広く受け入れられてきた。予後改善のメカニズムとしては左室リモデリングの進展抑制,電気的安定化による心室性不整脈や突然死の抑制さらには側副血行路のドナー血管としての機能などが指摘されていた。
 本試験は臨床の現場における診療プラクティスに大きな影響を及ぼすものと予測される。特に米国ではprimary PCIの施行率が低いために,OAT試験の登録基準を満たす患者は多く,これらの患者の多くが待期的な状況で閉塞血管に対するPCIを受けていると推定される。本試験の結論が臨床の現場で受け入れられれば,PCIの症例数の減少に繋がるはずであるが,今後そのような傾向が見られるのかどうかは興味深いところである。日本においてはprimary PCIが広く普及しているために,急性心筋梗塞患者でOAT試験の登録基準を満たす患者の比率は米国に比べると少ない。それでもゴールデンタイムを過ぎて医療機関を受診される患者は少なからずあり,今後,閉塞血管に対するPCIの適応を議論する必要がある。
 本試験の解釈で注意を要する点は,安静時狭心症を有する患者や高度虚血の証明されている患者,さらには3枝疾患や心不全症例は除外されている点である。いわゆるゴールデンタイムを過ぎていても,安静時狭心症を訴える患者では心筋壊死がなお進行していて,PCIにより心筋サルベージが得られる患者もある。また高度虚血症例ではPCIにより心機能の改善が期待できる症例も多い。診療の現場では個々の症例の総合的評価を行った上で,PCIの適応を考えていくべきであろう。(木村
デザイン 無作為割付け,intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は4年。登録期間は2000年2月~2005年12月。
対象患者 2166例。急性心筋梗塞発症から3~28日後に梗塞責任血管が完全閉塞(TIMI grade 0~1)した安定症例,EF<50%,近位閉塞。
除外基準:NYHA III~IV度の心不全,ショック,クレアチニン>2.5mg/dL,血管造影上の有意な左主幹部病変あるいは3枝病変,安静時の狭心症,負荷試験において高度虚血が証明された場合。
■患者背景:平均年齢(薬物治療+PCI群58.6歳,薬物治療群58.7歳),男性(両群とも78%),白人(81%, 80%),喫煙(両群とも39%),発症中のKillip分類II~IV(20%, 18%),NYHA I度(両群とも83%),EF(47.4, 48.0),新規Q波(両群とも67%),ST部上昇(68%, 66%),ST上昇あるいはQ波,R波loss(87%, 86%),発症後24時間以内の血栓溶解療法(21%, 18%),発症からランダム化までの時間(両群とも中央値8日)。既往:狭心症(22%, 23%);心筋梗塞(12%, 11%);糖尿病(18%, 23%;p=0.02);高血圧(48%, 49%)。
血管造影背景:責任梗塞血管;左前下行枝(35%, 37%);左回旋枝(16%, 14%),右冠動脈(両群とも49%),TIMI grade 0(両群とも83%),側副血管(87%, 89%),多枝病変(両群とも18%)。
治療法 至適薬物治療群(1084例):aspirin,抗凝固療法,ACE阻害薬,β遮断薬,脂質低下治療。ステント植込み例は,thienopyridineを手技前に投与を開始し2~4週間継続投与。
至適薬物治療+PCI群(1082例):PCIはランダム化後24時間以内に施行。GP IIb/IIIa受容体拮抗薬の使用を強く推奨した。ステント植込みは閉塞部位同様,主要な近位部あるいは遠位部の高度な狭窄にも推奨。非梗塞責任血管へのステント植込みは両群とも可とした。
結果 4年後の一次エンドポイントは薬物治療+PCI群17.2%,薬物治療群15.6%で薬物治療群に比較した薬物治療+PCI群のハザード比(HR)は1.16;95%信頼区間[CI]0.92~1.45(p=0.20)。
致死的,非致死的心筋梗塞は7.0% vs 5.3%(HR 1.36;95%CI 0.92~2.00, p=0.13),非致死的再梗塞は6.9% vs 5.0%(HR 1.44;95%CI 0.96~2.16, p=0.08)であった。
NYHA IV度の心不全は4.4% vs 4.5%,死亡は9.1% vs 9.4%で両群間差はみられなかった。
治療効果とサブグループ(年齢,性,人種,梗塞責任血管,EF,糖尿病,Killip分類,発症からランダム化までの時間)に相互関連はみられなかった。
★結論★急性心筋梗塞発症から3~28日後の梗塞責任血管が閉塞した安定症例において,PCIによる4年間の死亡+再梗塞+NYHA心機能分類IV度の心不全抑制効果は認められず,再梗塞が増加する傾向がみられた。
ClinicalTrials.gov No.: NCT0004562
文献
  • [main]
  • Hochman JS et al for the occluded artery trial investigators: Coronary intervention for persistent occlusion after myocardial infarction. N Engl J Med. 2006; 355: 2395-407. PubMed
  • [substudy]
  • 心筋梗塞発症から8日後(中央値)の症例において,閉塞病変の側副血行路は主要転帰と関連するが,予測因子ではない。
    患者背景でみた低リスク例は側副血行路のgradeが高く,高gradeは低死亡率(p=0.009),NYHA III~IV度の心不全(p<0.0001),あるいはいずれか(p=0.0002)と関連したが,再梗塞リスクとは関連しなかった。多変量解析によると,側副血行路は死亡,一次エンドポイントいずれの独立した予測因子ではなかった。冠動脈造影上の側副血行路とランダム化された治療結果に交互作用はみられなかった:Circulation. 2010; 121: 2724-30. PubMed

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収載年月2007.02
更新年月2010.08