循環器トライアルデータベース

MASS II
Medicine, Angioplasty, or Surgery Study

目的 症候性多枝疾患,安定狭心症を有し,心機能が保持されている患者において,薬物療法,PCI,CABGのイベント抑制効果を比較する。

一次エンドポイントは全死亡,Q波梗塞,血行再建術を要する難治性狭心症。
コメント Circulation. 2007; 115: 1082-9. へのコメント
左冠動脈主幹部病変を除外し,左室収縮機能が保たれた(駆出率≧40%)安定狭心症を対象としているとはいえ,多枝疾患治療の比較試験に薬物療法を加えたトライアルは非常に珍しい。1年後にはエンドポイント非発生生存率において,薬物療法がPCI を上回りCABGに次ぐ結果であったが,5年後にはCABG群のみが他群を凌ぐ結果となった。エンドポイントの評価を1年で区切ると,CABG・PCI の手技に関連した死亡・心筋梗塞(MI),PCIでの再血行再建(TLR)が前面に出てバイアスがかかることになる。その意味で5年間を検討した今回の結果の方が治療間の優劣を反映する。
シングルセンター試験であること,サンプルサイズが小さいこと,PCIの成功率が92%でPCI群での完全血行再建率が41%と低いこと,糖尿病合併症例が23~36%と低頻度であることなど,本試験の限界も多いが,狭心症状の緩解以外はPCIと同等との結論は薬物療法の重要性を再認識させる。最近発表されたCOURAGE trialでも,ハードエンドポイント(死亡,MI,ACS,脳卒中発症)において,強力な薬物療法(二次予防)がPCI と同等の効果をもたらすことが示されており,PCI 偏重の流れに警鐘を促す。
これまでのバルーンやベアメタルステント時代に検討されてきたPCI/薬物療療法(RITA-2・COURAGEなど)やPCI/CABG(BARI・CABRI・RITA・GABI・ARTS・SOS・ERACI IIなど)の比較試験では,PCI は狭心症状(quality of life)を緩和する治療であって,予後(quantity of life)を改善するというデータは得られていない。またCABGに比して再治療(TLR)が有意に多く,また完全血行再建率が低いためか,特に糖尿病症例においてはCABGに劣るとされてきた(BARI,EAST)。
本試験のもう一つのサブスタディーでは,PCI 群で「意図しない」3枝疾患や複雑病変が多く,これも1年後のエンドポイントの発生に関与していた。PCIとCABGの適応を無作為に選択することの限界,そしてこの時代のPCIの限界を示唆する結果だが,裏を返せば,モダリティーやテクニックの進歩によりPCIにはまだまだ“糊しろ”が残っているという見方もできる。現在,より強力な抗血小板薬や薬剤溶出性ステントを用いたPCIとCABGとの比較試験(CARDIA・VA CARDS・SYNTAX・FREEDOM・ARTS IIなど)が進行中であり,その答えが出るかも知れない。(中野中村永井
デザイン 無作為割付け,単施設(サンパウロの大学病院),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は5年。スクリーニング期間は1995年5月~2000年5月。
対象患者 611例。冠動脈近位部に目測で70%を超える狭窄を有する多枝疾患でPCI,CABGともに可能と判断された症例;虚血*の記録のあるもの。
* 虚血:負荷試験またはCanadian Cardiovascular Society(CCS)の安定狭心症の評価により確認されたもの(class II~III)。
除外基準:難治性狭心症/緊急血行再建術を要する急性心筋梗塞,外科的修復を要する心室動脈瘤,EF<40%,PCI/CABG既往,一枝病変,先天性の心疾患/弁膜疾患/心筋症既往,左主幹動脈の狭窄が50%以上など。
■患者背景:平均年齢60歳,女性(薬物療法群31%,PCI群33%,CABG群28%),既往:心筋梗塞(39%, 52%, 41%;p=0.02),高血圧(55%, 61%, 63%),糖尿病(36%, 23%, 29%),CCS class II~IIIの狭心症(78%, 78%, 86%;p=0.006),喫煙(33%, 27%, 32%;p=0.013),2枝病変(41%, 42%, 42%),3枝病変(59%, 58%, 58%),左冠動脈前下行枝病変(89%, 93%, 93%)。
治療法 全例で至適薬物療法(硝酸薬,aspirin,β遮断薬,Ca拮抗薬,ACE阻害薬の単剤/併用による段階的治療,および主にスタチン系薬剤による脂質低下治療+食事療法)を開始後,次の3群にランダム化。
薬物療法群(203例):薬物療法のみ。
PCI群(205例):薬物療法+3週間以内のPCI(ベアメタルステント/レーザー/方向性アテレクトミー/バルーン血管形成等のカテーテル治療。血小板GP IIb/IIIa受容体拮抗薬を使用せず。血管径の50%未満の残存狭窄,TIMI grade 3の再灌流を血行再建の成功とする)。
CABG群(203例):薬物療法+12週以内のCABG(伏在静脈グラフト/内胸動脈グラフト/橈骨動脈あるいは胃大網動脈等による完全血行再建をめざす。オフポンプCABGは実施せず)。
6か月ごとにECG,血液検査,年に一度トレッドミル運動負荷試験を実施。
結果 血管造影上のPCI成功率は92%で平均2.1枝が治療され,72%の症例で1つ以上のステントが植込まれた。PCIでの完全血行再建率は41%だった。一方,CABGは平均3.3枝で74%の症例が完全血行再建された。
一次エンドポイントは薬物療法群36%,PCI群32.7%,CABG群21.2%とCABG群は薬物療法群に比べ47%有意に抑制した(95%信頼区間[CI] 0.36~0.77, p=0.0010)。PCI群 vs 薬物療法群の相対リスクは0.93(95%CI 0.67~1.30)と有意差はみられなかった。
全死亡率はそれぞれ16.2%, 15.5%, 12.8%で群間差はなく,血行再建術再施行は9.4%, 11.2%, 3.9%(p=0.021),非致死的心筋梗塞は15.3%, 11.2%, 8.3%(p<0.001)とCABG群で有意に低かった。狭心症状の緩解は54.8%, 77.3%, 74.2%と薬物療法群で有意に低く(p<0.001),PCI群,CABG群間に差はなかった(p=0.615)。
★結論★安定多枝疾患患者において,薬物療法群,PCI群,CABG群群は同様に死亡を抑制した。薬物治療群の長期予後はPCI群と差がなかったが,CABG群は薬物療法群にくらべ一次エンドポイントを有意に抑制した。
文献
  • [main]
  • Hueb W et al: Five-year follow-up of the Medicine, Angioplasty, or Surgery Study (MASS II): a randomized controlled clinical trial of 3 therapeutic strategies for multivessel coronary artery disease. Circulation. 2007; 115: 1082-9. PubMed
  • [substudy]
  • 薬物治療,PCI,CABGと10年後の収縮機能-治療を問わず駆出率は保持。
    平均10.32年後の生存例は422/611例。EFを再評価した350例(薬物治療群108例;57.8歳,PCI群131例;58.4歳,CABG群111例;58.1歳)の結果:試験開始時のEF全群0.61→試験終了時はそれぞれ0.55(Δ:-7.54%)vs 0.56(-7.2%)vs 0.55(-9.08%)。
    10年後の主要有害イベントは,急性心筋梗塞(AMI):16例(14.81%)vs 13 例(9.92 %)vs 9例(8.11%);p=0.255,PCI追加:15例(13.89%)vs 36例(27.48 %)vs 10例(9.01%);p<0.001,CABG追加:31例(28.70%)vs 15例(11.45 %)vs 4例(3.60%);p<0.001,複合イベント:62例(57.41%)vs 64例(48.45 %)vs 23例(20.72%);p<0.001,脳血管イベント:6例 vs 3例 vs 7例 (p=0.277)。
    追跡期間中のEF低下(≦45%)と関連したのは,AMI既往例(オッズ比2.50;95%信頼区間1.40~4.45, p=0.0007),追跡中のAMI発症例(2.73;1.25~5.92, p=0.005)。
    拡張機能を再評価した300例のうち,ベースライン時に拡張不全だったのは110例で再評価時も90%が不全。一方,拡張機能が正常であった190例のうち再評価時にも正常を保持されていたのは34例(17.99%)で,82.11%は終了時には拡張不全であった(それぞれの治療群:47例,59例,49例;p=0.331):Eur Heart J 2013; 34: 3370-7. PubMed
  • 多枝疾患患者における至適治療は?-10年後の予後はCABGが最も良好(vs PCI,薬物療法)。
    10年後の追跡結果:2010年5月に追跡終了,生存者の平均追跡期間は11.4年,脱落例なし。
    一次エンドポイント(死亡,Q波MI,血行再建を要する治療抵抗性狭心症)はCABG群33.0%,PCI群42.4%,薬物療法群59.1%(p<0.001)。累積生存率はそれぞれ74.9%, 75.1%, 69%で有意な群間差なし(p=0.089)。MI発症率は10.3%, 13.3%, 20.7%(p<0.010),再血行再建術は7.4%, 41.9%, 39.4%(p<0.001)。
    多変量Cox回帰分析の結果,CABG群と比較した一次エンドポイントのハザード比は薬物療法群2.29(95%信頼区間1.69~3.10, p<0.001),PCI群1.46(1.06~2.02, p=0.021)であった。
    10年後の狭心症非発症率(二次エンドポイント)はCABG群(64%),PCI群(59%)に比べて薬物療法群(43%)が有意に低かった(p<0.001):Circulation. 2010; 122: 949-57. PubMed
  • 臨床心臓医による治療の選択と無作為に割り付けられた治療が一致した患者は292例(48.2%)で治療群間に差がなく(p=0.11),不一致例は314例(51.8%)で一致例に比し1年後の複合エンドポイント(死亡+MI+血行再建術を要する虚血の再発)の発生率が有意に高く(p=0.02),これは主として血行再建術を要する難治性虚血の発症率の差(p=0.007)に起因する。また群間の比較では薬物療法群(p=0.52),CABG群(p=0.64)では有意差がなく,PCI群においてのみ不一致例で有意に複合エンドポイントが多かった(p=0.003)。PCI群内での検討では不一致例で有意に3枝病変が多く,type c病変が多い傾向であった。臨床的な判断は,多変量Cox比例ハザードモデルにおいて他の共変量による調整後もエンドポイント発生の有力な予測因子であった(相対リスク0.57;95%信頼区間0.36~0.89, p=0.01):J Am Coll Cardiol. 2006; 48: 948-53. PubMed
  • 糖尿病(血清グルコース値140mg/dL以上)190例:薬物療法群75例,PCI群56例,CABG群59例,非糖尿病421例:それぞれ128例,149例,144例の5年間(平均追跡期間1702日)の死亡率を分析。1年後の死亡率および5年間の累積死亡率は糖尿病例,非糖尿病例とも3治療群間で有意差がなく,2~5年後の死亡率は非糖尿病例では3群間で同等であったが,糖尿病例では薬物療法群に比べPCI群およびCABG群で有意に低かった(p=0.039):Circulation. 2006; 114 Suppl: I420-4. PubMed
  • 1年後の結果:生存率は薬物療法群98.5%,PCI群95.6%,CABG群96.0%で有意な治療群間差はなかった(p=0.23)が,1年後のQ波梗塞を伴わない生存率はそれぞれ93.5%, 87.8%, 94.1%,一次エンドポイント非発生生存率は85.7%, 75.6%, 93.6%とPCI群で有意に低かった(p<0.0001)★結論★多枝病変において,薬物療法群では短期間のイベント発生,血行再建術の再施行がPCI群より少なく,CABGは薬物療法に比べ狭心症症状低減の点で優れていた。心臓関連死は3治療群とも比較的少なかった:J Am Coll Cardiol. 2004; 43: 1743-51. PubMed

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収載年月2007.05
更新年月2013.12