循環器トライアルデータベース

J-LIT
Japan Lipid Intervention Trial

目的 日本人の高脂血症患者において,脂質値と冠動脈疾患(CHD)発症の関連を検討する。
HMG-CoA reductase阻害薬simvastatin低用量治療による一次予防コホートと二次予防コホートから成る。
一次エンドポイントは主要な冠イベント(急性心筋梗塞,突然心臓死)。
コメント わが国で行われた最も大規模な脂質介入型のコホート研究である。すべての高脂血症患者に低用量のシンバスタチンを用いて治療効果を観察しており,低用量で十分LDL-C低下効果があることが示された。対照群がないため,イベント抑制に関する有効性を論ずることはできないが,実地の医療の中で,どの程度まで治療することがイベント抑制に有効であるかという判断に寄与したという点で評価できる。本結果の一部が動脈硬化性疾患診療ガイドラインの治療目標値決定の参考にされた。本結果のもう一つの成果は,危険因子の重なりがきわめて重要であるという情報を発信したことがあり,これもガイドライン作成の参考にされている。様々な限界はあるとしてもわが国の現状を知る上で重要な情報源となっている。(寺本
デザイン 観察研究,オープンラベル,多施設(日本全国の一般開業医6500人が参加)。
期間 追跡期間は6年。一次予防コホートの平均追跡期間は5.39年,二次予防コホートは5.3年。
対象患者 52,421例(一次予防コホート47,294例,二次予防コホート5,127例)。総コレステロール(TC)≧220mg/dL;35~70歳(男性),70歳未満の閉経後の女性。
除外基準:最近発症した心筋梗塞(MI)あるいは1か月以内の脳卒中発症例;治療抵抗性糖尿病;重篤な肝疾患あるいは腎疾患併発例;二次性高脂血症など。CHDの記録のないもの,冠動脈インターベンション既往のないものは一次予防コホートとした。
■患者背景:一次予防コホート(表1参照),二次予防コホート(表2参照)。

(表1)
(表2)
治療法 スクリーン時に脂質低下薬使用例は4週間以上,probucol使用例は12週間以上のwashout期間を設けた。
simvastatin 5~10mgを投与。
食事の変更および運動療法を推奨。simvastatin投与によりTCが十分低下しない場合のみ他の脂質低下薬の追加を許可。合併症への治療に対する制限は設けなかった。
結果 一次予防コホートの結果(解析数は42,360例)
脂質値の変化:TC-18.4%(ベースライン時270mg/dL→ 6か月後221mg/dL→ 6年間の治療中の平均値220mg/dL),トリグリセリド(TG)-16.1%(196mg/dL→ 167mg/dL→ 164mg/dL),LDL-C-26.8%(182mg/dL→ 132mg/dL→ 134mg/dL),HDL-C+4.5%(52.9mg/dL→ 54.0mg/dL→ 58.1mg/dL)。
一次エンドポイント:209例(0.91イベント/1000例・年)。うち非致死的MIは147例(0.64イベント/1000例・年),致死的MIは51例(0.22イベント/1000例・年),心臓突然死11例(0.05イベント/1000例・年)。
二次エンドポイントの一つである狭心症は146例(0.64イベント/1000例・年)。
冠イベントのリスクはTC≧240mg/dL,LDL-C≧160mg/dLで高く,またTG≧300mg/dL例は<150mg/dL例と比べ高かった。HDL-Cは冠イベントリスクと逆相関した。治療後のTCあるいはLDL-Cの平均値と総死亡間にJカーブ現象がみられた。死因で最も多かったのは悪性疾患であった。
安全性:忍容性は良好。有害事象は3.2%で,最も多かったのは肝機能低下(0.97%)で450例・760症例。筋骨格系の有害事象率は0.84%,横紋筋融解例はみられなかった。
★結論★日本人の高脂血症患者における低用量スタチン治療による冠イベント一次予防戦略は,TC<240mg/dL,LDL-C<160mg/dL,TG<300mg/dL,HDL-C>40mg/dLにコントロールすることだと思われる。

二次予防コホートの結果(解析数は4,673例)
脂質値の変化:TC-19.8%(ベースライン時265mg/dL→ 6か月後213mg/dL[19.6%低下]→ 6年後211mg/dL),TG-15.9%(194mg/dL→ 167mg/dL[13.9%低下]→ 154mg/dL),LDL-C-28.6%(179mg/dL→ 130mg/dL[27.3%低下]→ 125mg/dL),HDL-C+4.7%(50.7mg/dL→ 51.8mg/dL→ 56.1mg/dL)。
一次エンドポイント:110例(4.45イベント/1000例・年)。うち非致死的MIは67例(2.71イベント/1000例・年),致死的MIは38例(1.54イベント/1000例・年),心臓突然死5例(0.20イベント/1000例・年)。
二次エンドポイントの狭心症は95例。全体でCHDは205例(8.29イベント/1000例・年)。
冠イベントのリスクはTC≧240mg/dL例で<240mg/dL例と比べて高く,LDL-Cとは正の相関,HDL-Cとは逆相関した。LDL-Cが10mg/dL低下の場合CHDリスクは8%,HDL-Cが10mg/dL増加に伴いリスクは28.3%低下した。女性と比較した場合の男性のCHD相対リスクは2.61,糖尿病およびMIの既往は2.76,喫煙は1.41であったが,年齢と肥満(BMI≧25kg/m²),高血圧はCHDのリスクとは関連せず,腎疾患はリスク上昇の傾向を示した。
★結論★CHD既往のある高脂血症患者における低用量スタチン治療ではLDL-C<120mg/dL,HDL-C>40mg/dLに管理する必要があると思われる。
文献
  • [main]
  • Matsuzaki M et al and the J-LIT study group: Large scale cohort study of the relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanese patients with hypercholesterolemia; primary prevention cohort study of the Japan lipid intervention trial (J-LIT). Circ J. 2002; 66: 1087-95. PubMed
  • Mabuchi H et al and the J-LIT study group: Large scale cohort study of the relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanese patients with hypercholesterolemia and coronary heart disease: secondary prevention cohort study of the Japan lipid intervention trial (J-LIT). Circ J. 2002; 66: 1096-100. PubMed

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収載年月2005.05