循環器トライアルデータベース

TNT
Treating to New Target

目的 安定冠動脈疾患(CHD)患者において,HMG-CoA reductase阻害薬atorvastatinによりLDL-Cを100mg/dLよりもさらに下げた場合の有効性と安全性を検討。

一次エンドポイントは主要な心血管複合イベント(CHD死,治療に関連しない非致死的心筋梗塞[MI],心停止後の蘇生,致死的/非致死的脳卒中)。
コメント N Engl J Med. 2005; 352: 1425-35..へのコメント
ハイリスク患者におけるLDL-C低下療法の有効性は確立されたものの,どこまで下げるべきかという根源的な疑問に答えるエビデンスが今まで十分ではなかった。これまで行われた試験として,PROVE ITやREVERSALがそれに近いが,異なったスタチンでの比較になっており,純粋にLDL-Cの値による差であるのか議論のあるところであった。TNTは以前より,このような疑問に答える究極的な試験であると期待されていた。TNTの結果から,安定した冠動脈疾患でもLDL-Cを100mg/dl未満,75mg/dlまでは,下げたほうがリスク低減化に繋がることが証明された。比較が同じ薬剤であるので,薬剤のもつ特異性には関係なく、直接LDL-Cの値に関連したエビデンスが得られといえる。ただし,強力なLDL-C低下群では,死亡率には差はないものの肝機能の悪化は認められるので,リスクの高い患者に限って強力な治療が許されるものと考えられる。(寺本
デザイン 無作為割付け,二重盲検,多施設(14か国256施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は中央値4.9年(最長6年)。ランダム化期間は1998年7月~'99年12月。
対象患者 10,001例。35~75歳。臨床的に明白なCHD(以前のMI,アテローム動脈硬化性CHDの客観的な証拠を伴う現在/以前の狭心症,血行再建術の既往)。
■患者背景:平均年齢(atorvastatin 10mg群60.9歳,80mg群61.2歳),男性(80.8%, 81.2%),白人94.1%,血圧131/78mmHg, BMI(28.6, 28.4), LDL-C(98mg/dL, 97mg/dL),総コレステロール175mg/dL,トリグリセライド151mg/dL, HDL-C 47mg/dL。心血管既往:高血圧(54.4%, 53.9%),MI(57.7%, 59.0%),狭心症(81.2%, 81.8%),糖尿病15%,脳血管イベント(5.3%, 5.1%),末梢血管疾患(11.4%, 12.1%),不整脈(18.5%, 18.2%),うっ血性心不全(8.1%, 7.6%),血管形成術(54.3%, 53.8%),CABG(46.7%, 46.4%)。
治療法 1~8週のwashout後,LDL-C 130~250mg/dL,トリグリセライド≦600mg/dLの場合はオープンラベルでのatorvastatin 10mg投与による8週のrun-in期間により平均LDL-C<130mg/dLとなった例を次の2群にランダム化。
atorvastatin 10mg/日群(5006例):目標LDL-C 100mg/dL, 80mg/日群(4995例):目標LDL-C 75mg/dL。
結果 平均LDL-Cは80mg群77mg/dL, 10mg群101mg/dL。80mg群では12週後の総コレステロール,トリグリセリドがベースライン時に比べ有意に低下したが(p<0.001),以後の治療期間中は安定していた。
一次エンドポイントは80mg群434例(8.7%)vs 10mg群548例(10.9%)で80mg群で有意に低下した[絶対リスク低下2.2%,相対リスク低下22%:ハザード比(HR)0.78, 95%信頼区間(CI )0.69~0.89, p<0.001)]。CHD死は101例(2.0%) vs 127例(2.5%):HR 0.80(p=0.09),治療に関連しない非致死的MI 243例(4.9%) vs 308例(6.2%):HR 0.78(p=0.004),心停止からの蘇生25例(0.5%) vs 26例(0.5%):HR 0.96(p=0.89),全脳卒中117例(2.3%) vs 155例(3.1%):HR 0.75(p=0.02)。
全死亡のリスクは両群間に有意差はなかった(HR 1.01, p=0.92)。
治療関連の有害事象は80mg群406例(8.1%)vs 10mg群289例(5.8%)で(p<0.001),治療関連の有害事象による治療の中止は7.2% vs 5.3%であった(p<0.001)。トランスアミナーゼ値は80mg 60例(1.2%),10mg群 9例(0.2%)で持続的に上昇(正常値上限の3倍超)した(p<0.001)。
★結論★安定CHD患者においてatorvastatin 80mg/日による強力脂質低下療法は10mg/日による治療に比べ有意な臨床効果が認められたが,トランスアミナーゼ値上昇の発生を多く伴った。
ClinicalTrials gov No.: NCT003273691
文献
  • [main]
  • John C. LaRosa et al for the treating to new targets (TNT) investigators: Intensive lipid lowering with atorvastatin in patients with stable coronary disease. N Engl J Med. 2005; 352: 1425-35. PubMed
  • [substudy]
  • LDL-C値の受診毎変動とCVD-変動が大きいほどリスクが高い。
    受診毎のLDL-C値の変動と心血管疾患(CVD)の関係を評価したpost hoc解析の結果(9,572例):LDL-Cの変動はランダム化から3か月後以降の測定値を用いて,SD,average successive variability(ASV;連続測定値間の平均絶対差)などで評価。LDL-C値の受診毎変動はatorvastatin 80 mg /日群が10 mg/日群にくらべ有意に小さかった(SD:12.03 vs 12.52;p=0.005, ASV:12.84 vs 13.76;p<0.0001)。治療効果と平均LDL-C値で調整後,変動の大きさは冠イベント(ASV 1-SD増加ごとのハザード比1.16;95%信頼区間1.10~1.23;p<0.0001),心血管イベント(1.11;1.07~1.15;p<0.0001),死亡(1.23;1.14~1.34;p<0.0001),MI(1.10;1.02~1.19;p=0.02),脳卒中(1.17;1.04~1.31;p=0.01)と有意に関連した。服薬アドヒアランスで調整後も結果はほぼ同様であった:J Am Coll Cardiol 2015; 65: 1539-48. PubMed
  • OxPL-apoBとMACE-ランダム化時のOxPL-apoB高値はMACEを予測。この関係はatorvastatin 80 mg群では認められず。
    [背景]oxidized phospholipids on apolipoprotein B-100(OxPL-apoB;アポリポ蛋白B-100上の酸化リン脂質成分)とCVDの相関が冠動脈疾患(CAD)を非発症の一般住民で報告されている。
    CAD既往例で上記の関連性を検証した結果(OxPL-apoBを測定した1,503例;平均61.5歳,男性78.8%):主要有害心血管イベント(MACE;CAD死,非致死的心筋梗塞,蘇生した心停止,脳卒中)発症は156例。MACE発症例は非発症例にくらべランダム化時のOxPL-apoB値が高かった(4.4 vs 3.7nmol/L)。
    コホート全体では,ランダム化時のOxPL-apoB値はMACE発症を有意に予測(第3 vs 第1三分位群の調整ハザード比1.69;1.14~2.49)。この関係はatorvastatin 10mg群で認められたが(2.08;1.20~3.61;p=0.01),80mg/日群では認められなかった(1.40;0.80~2.46):J Am Coll Cardiol 2015; 65: 1286-95. PubMed
  • この論文は撤回されました retraction notice
    atorvastatin 10mg群で血中PCSK9濃度は心血管イベントを予測,80mg群では関連せず:J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1778-84. PubMed
  • この論文は撤回されました retraction notice
    安定冠動脈疾患患者において,1年間のatrovastain投与により脂質以外のバイオマーカーも改善したが,そのほとんどは主要心血管イベントを予測せず:J Am Coll Cardiol. 2011; 57: 63-9. PubMed
  • 非HDL-C(総コレステロール マイナス HDL-C),アポリポ蛋白BはLDL-Cよりも心血管イベントと関連する(IDEALと合わせた結果):Circulation. 2008; 117: 3002-9. PubMed
  • CABG既往例は積極治療(80mg/日群)でLDL-Cは79mg/dLまで低下し,10mg/日群(LDL-C 101mg/dL)より一次エンドポイントが27%(p=0.0004),血行再建術(CABGあるいはPCI)再施行が30%低下した(p<0.0001):J Am Coll Cardiol. 2008; 51: 1938-43. PubMed
  • atorvastatin 80mg群はCKD(MDRD式による推定糸球体濾過量[eGFR]<60mL/分/1.73m²)併発症例の心血管イベントを10mg群より32%低下した。
    腎機能データ完備のものは9565例,うちベースライン時のCKDは3107例で正常eGFRに比べ,心血管疾患(高血圧,メタボリックシンドローム,CABG,不整脈,糖尿病,末梢動脈疾患,うっ血性心不全,脳血管事故)合併率が高かった。
    5年(中央値)追跡後,主要な心血管イベントを発症したのはCKD群351例(11.3%),正常eGFR群561例(8.6%)で,CKD例で発症率が高かった(ハザード比[HR]1.35;95%信頼区間1.18~1.54, p=0.0003)。atorvastatin 80mg群は10mg群よりもCKD例の心血管イベントの相対リスクを32%低下した(0.68;0.55~0.84, p=0.0003)。5年間の治療で主要な心血管イベント1例を予防するためのNNTは24。主要な冠イベントのHRは0.65(0.51~0.83),脳血管イベント0.66(0.49~0.89),入院を要する心不全0.54(0.38~0.77)。正常eGFR例では15%抑制した(0.85;0.72~1.00, p=0.049)。atorvastatinの両投与量の忍容性は良好で安全性は本試験と同様で特に問題はなかった:J Am Coll Cardiol. 2008; 51: 1448-54. PubMed
  • スタチン投与例において,HDL-Cは連続変数とみても,5分位層別化(<38mg/dL, 38~<43mg/dL, 43~<48mg/dL, 48~<55mg/dL, ≧55mg/dL)でみても,主要な心血管疾患の予測因子である。
    LDL-Cで層別化した場合,HDL-Cと心血管疾患の関連はボーダーラインで有意であった(p=0.05)。LDL-C<70mg/dL例であっても,HDL-C最高5分位例は最低5分位例よりも心血管疾患リスクは低かった(p=0.03):N Engl J Med. 2007; 357: 1301-10. PubMed
  • 80mg/日群は10mg/日群に比べ心不全による入院を有意に抑制した(2.4% vs 3.3%,ハザード比0.74;95%信頼区間0.59~0.94, p=0.0116)。この効果は心不全既往例で顕著であった(10.6% vs 17.3%, 0.59;0.4~0.88, p=0.009):Circulation. 2007; 115: 576-83. PubMed
  • 80mg/日群は10mg/日群に比べ,脳卒中を20%,脳血管イベントを25%抑制した。LDL-C低値例における脳出血の増加はみられなかった:J Am Coll Cardiol. 2006; 48: 1793-9. PubMed
  • NCEP ATP III基準によるメタボリックシンドローム(MetS)併発例5584例(atrovastatin 10mg群2820例,80mg群2764例)での検討:3ヵ月後のLDL-Cはatorvastatin 10mg群99.3mg/dL,80mg群72.6mg/dL。一次エンドポイントはそれぞれ367例(13%),262例(9.5%)でハザード比(HR)0.71(95%信頼区間[CI]0.61~0.84, p<0.0001)。割付けられた治療にかかわりなくMetSは非MetSに比べ一次エンドポイントの発生率が高かった(11.3% vs 8%, HR 1.44;95%CI 1.26~1.64, p<0.0001)。このリスクの上昇はatorvastatin 80mg群で有意に抑制された。MetS・糖尿病例(1231例)の一次エンドポイントのリスクは有意に高かったが,MetS・非糖尿病例(4353例)は9.9%,非MetS・非糖尿病例(4147例)は7.5%。MetSを併発した冠動脈疾患患者において糖尿病の有無にかかわらず,高用量atorvastastin治療によるさらなる有効性が示唆される:Lancet. 2006; 368: 919-28. PubMed

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収載年月2005.04
更新年月2015.05