循環器トライアルデータベース

PEACE
Prevention of Events with Angiotensin Converting Enzyme Inhibition

目的 心機能が正常あるいはやや低下した安定冠動脈疾患患者において,現行治療へのACE阻害薬の上乗せ効果を検討する。

一次エンドポイントは心血管死+非致死的心筋梗塞(MI)+血行再建術。
コメント N Engl J Med. 2004; 351: 2058-68. へのコメント
冠動脈疾患症例に対するACE阻害薬の予後改善効果を検討した臨床試験としてはHOPE試験とEUROPA試験がすでにあるが,いずれもプラセボ群に比べて20%前後の一次エンドポイント抑制効果を示している。それに対して今回のPEACE試験ではACE阻害薬群でプラセボ群と比べて一次エンドポイント予防効果を見い出すことができなかった。その原因として,1つは対象群の72%が血行再建術をすでに受けていること(HOPEでは44%,EUROPAでは55%)やスタチン治療を受けている症例が70%(HOPE 29%,EUROPA 58%)であるなど,リスクがかなり低いためにエンドポイントそのものの発生が低くなり有意差がつきにくくなった可能性がある。逆にいえば,現在のようなPCIやスタチン治療全盛時代の冠動脈疾患の二次予防にはACE阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬などを追加するメリットは非常に少ない可能性を示唆している。本試験の成績をCa拮抗薬の冠動脈疾患に対する有用性を示したCAMELOT試験と対比してみると両薬剤の違いが明らかになる。すなわち,心筋梗塞,死亡などのハードエンドポイント発生ではACE阻害薬,Ca拮抗薬とも追加によるさらなるメリットは得られないが,狭心症発症とそれに続くPCIなどのソフトエンドポイントの抑制は冠スパスム予防効果も合わせて有するCa拮抗薬でのみメリットがみられているのである。本試験の結果はまた,ACE阻害薬の違いそのものに起因する可能性も否定はできない。すなわちEUROPAでは薬効の持続性がきわめて長いペリンドプリルが用いられたことが有益性につながった可能性である。(桑島
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設[米国(プエルトリコを含む),カナダ,イタリアの187施設],intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は4.8年(中央値)。2003年12月31日追跡終了。
対象患者 8290例。50歳以上,次の3つのうち1つ以上に該当する冠動脈疾患例(3か月以上前のMI;3か月以上前のCABGあるいはPTCA;冠動脈造影で1枝以上のnative血管径で≧50%の閉塞が認められる)。EF>40%。run-in phaseを終了した忍容性良好でかつ服薬コンプライアンスが80%以上の例。
除外基準:ACE阻害薬使用例あるいは必要とする例,AII受容体拮抗薬使用例,2か月以内の不安定狭心症による入院,外科的手術を要すると思われる心臓弁膜症,3か月以内のCABGあるいはPTCA,待機的血行再建術予定例,血清クレアチニン>2.0mg/dLなど。
■患者背景:平均年齢64歳,EF 58%,血圧133/78mmHg,総コレステロール192mg/dL,女性18%,糖尿病17%,MI既往55%,PTCAあるいはCABG既往72%。薬物治療状況:脂質低下薬投与例70%,β遮断薬60%,利尿薬13%,Ca拮抗薬(trandolapril群36%,プラセボ群35%),aspirinあるいは抗血小板薬(90%, 91%)。
治療法 2週間のrun-in(ACE阻害薬trandolapril 2mg/日を投与)後,trandolapril群(4158例):6か月後に4mg/日,プラセボ群(4132例)にランダム化。
2002年2月,糖尿病例および腎疾患例におけるACE阻害薬,AII受容体拮抗薬の有効性を示すエビデンスの増加を受け,運営委員会はデータ安全監視委員会の承認を得て,糖尿病,顕性蛋白尿,微量アルブミンを合併している高血圧患者についてはACE阻害薬の盲検をオープンラベルに変えるようアドバイスした。
結果 脱落は134例(両群とも1.6%)。1年後にtrandolaprilあるいはオープンラベルのACE阻害薬投与例は81.9%,2年後は78.5%,3年後は74.5%。プラセボ群での1年後のACE阻害薬投与例は1.5%,2年後4.6%,3年後8.3%。trandolaprilの目標投与量4mg/日投与率はtrandolapril群68.6%,プラセボ群77.7%。ベースライン時の糖尿病あるいは2002年2月1日までに糖尿病を新規発症した2118例中,それまでにACE阻害薬オープンラベル投与していたのは402例(19.0%),それ以降初めて投与したのは286例(13.5%)。
36か月後の降圧はtrandolapril群で4.4/3.6mmHg,プラセボ群で1.4/2.4mmHgでプラセボ群に比べtrandolapril群で有意に低下した(p<0.001)。
一次エンドポイントはtrandolapril群21.9%,プラセボ群22.5%で両群間に有意差は認められなかった[trandolapril群のハザード比(HR)0.96;95%信頼区間0.88~1.06, p=0.43]。心血管死:HR 0.95;0.76~1.19(p=0.67),非致死的MI:HR 1.00;0.83~1.20(p=1.00),CABG:HR 0.91;0.77~1.07(p=0.24),PCI:HR 1.03;0.91~1.16(p=0.65),非心血管死あるいは原因不明死:HR 0.83;0.67~1.03(p=0.09),全死亡:HR 0.89;0.76~1.04(p=0.13)。
trandolapril群でわずかに有効性が認められたのはrun-in前の収縮期血圧<140mmHgあるいは拡張期血圧<90mmHg例でHR 0.88;0.78~0.99であった。
投与中止につながる副作用はtrandolapril群14.4%,プラセボ群6.5%(p<0.001)。咳が39.1% vs 27.5%(p<0.01),失神が4.8% vs 3.9%(p=0.04)とtrandolapril群で多かった。
★結論★安定冠動脈疾患で心機能の保たれている低リスクの現行治療例において,ACE阻害薬の追加投与による心血管死,MI,血行再建術の抑制効果は認められなかった。
文献
  • [main]
  • Braunwald E et al for the PEACE trial investigators: Angiotensin-converting-enzyme inhibition in stable coronary artery disease. N Engl J Med. 2004; 351: 2058-68. PubMed
  • [substudy]
  • 高感度トロポニンIと予後-トロポニンTなどの危険因子とは独立して心血管リスクと関連。
    高感度アッセイで測定した心筋トロポニンI(hs-TnI)の予後予測能を,高感度トロポニンT(hs-TnT)と比較検証した結果(追跡期間中央値5.2年):hs-TnIが検出限界値(1.2pg/mL)を超えたのは98.5%。カットオフ値(健康な一般住民の99パーセンタイル値:女性;15.6pg/mL,男性;34.2pg/mL)以上だったのは105例(2.9%)。一方で,hs-TnT値がカットオフ値(10.0pg/mL, 14.2pg/mL)以上だったのは395例(10.9%)。
    hs-TnIと中等度の相関がみられたリスクマーカは,hs-TnT(r=0.44),N末端プロB型ナトリウムペプチド(NT-proBNP, r=0.39)で,年齢(r=0.17),推算糸球体濾過量(eGFR, r=-0.11)との関連は弱かった。対照的にhs-TnTと年齢(r=0.33),eGFR(r=-0.16)とは強く相関した。
    心血管死,心不全による入院は203例,非致死的心筋梗塞(MI)は209例。
    一般的な危険因子,NT-proBNP,hs-TnTで調整後,hs-TnI値の第4四分位群(女性:1.2~2.5 pg/mL[症例数180例];2.6~3.9[166例];4.0~6.3[176例];6.4~577.17[168例],男性:1.2~3.0 pg/mL[743例];3.1~4.5[748例];4.6~7.3[710例];7.4~610.1[732例])は第1~3四分位群にくらべて,心血管死,心不全による入院リスクが高かった(ハザード比1.88;95%信頼区間1.33~2.66, p<0.001)。非致死的MIも有意ではあるが,弱い関連がみられた(1.44;1.03~2.01, p=0.031)。一方,hs-TnTは心血管死,心不全による入院リスクとは関連がみられた(1.43;1.01~2.04, p=0.045)が,MIとは関連しなかった(0.93;0.65~1.31, p=0.67):J Am Coll Cardiol. 2013; 61: 1240-9. PubMed
  • 高感度アッセイで測定したトロポニンT値は心血管死,心不全と関連したが,心筋梗塞との関連は認められず。
    新しい高感度アッセイで心筋トロポニンT値を測定した3,679例・追跡期間5.2年(中央値)の結果:検出限界(0.001μg/L)以上は3,593例(97.7%)で,健常者の99パーセンタイル値(0.0133μg/L)以上は407例(11.1%)。
    他の独立した予測因子で調整後,トロポニンT値上昇に伴い,心血管死(トロポニンT値の自然対数の1単位増加ごとのハザード比は2.09;95%信頼区間1.60~2.74, p<0.001),心不全(2.20;1.66~2.90, p<0.001)リスクが上昇した。この関連は従来のアッセイによる測定で検出限界以下の症例,健常者の99%パーセンタイル値以下の値でも認められた。しかし,心筋梗塞発症とは関連はみられなかった(1.16;0.97~1.40, p=0.11):N Engl J Med. 2009; 361: 2538-47. PubMed
  • アルブミン尿は正常域の低レベルであっても,心血管死,全死亡の独立した予測因子である。
    ベースライン時に尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)が正常(男性<17μg/mg,女性<25μg/mg)だったものは73%。推定濾過量,その他の背景因子とは独立してACR高値はたとえ正常域内でも,全死亡リスク(p<0.001),心血管死(p=0.01)の上昇と関連。trandprilの効果におけるアルブミン尿レベルによる有意な違いはみられなかったが,追跡時のACRが有意に低下した:Circulation. 2007; 116: 2687-93. PubMed
  • 収縮期能が保たれた安定した冠動脈疾患3761例:Bタイプナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびN-末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)は心血管死,心不全,脳卒中と強く関連するが,心筋梗塞とは相関しない。多変量解析後も,BNPは心不全リスクと関連,NT-proBNPは心血管死,心不全,脳卒中リスクの上昇と関連する。C-statisticsによると,BNPおよびNT-proBNPは心不全発症予測能を有意に改善し,さらにNT-proBNPは心血管死の予測度を上昇させる。ACE阻害薬の心血管疾患への有効性は,ベースライン時のBNP,NT-proBNPとは関係しない:J Am Coll Cardiol. 2007; 50: 205-14. PubMed
  • 高感度C反応性蛋白(hs-CRP)の上昇は,たとえ>1mg/Lであっても,有害心血管イベントの独立した有意な予測因子である:Circulation. 2007; 115: 1528-36. PubMed
  • 推定糸球体濾過率(eGFR)は77.6mg/mL/1.73m²,腎機能低下(eGFR<60mg/mL/1.73m²)例は1355例(16.3%)。腎機能低下例でtrandolapril群は全死亡を抑制したが(ハザード比[HR]0.73;95%信頼区間0.54~1.00),腎機能の保たれた症例ではしなかった(HR0.94):Circulation. 2006; 114: 26-31. PubMed

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収載年月2004.12
更新年月2014.01