循環器トライアルデータベース

VALIANT
Valsartan in Acute Myocardial Infarction

目的 左室収縮機能障害,心不全,あるいはその両方を合併した急性心筋梗塞(AMI)患者において,AII 受容体拮抗薬valsartan単独投与あるいはACE阻害薬captoprilとの併用投与の死亡抑制効果を,すでに有効性の確立しているcaptoprilと比較する。
コメント 本試験はアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が急性心筋梗塞後の予後改善効果において,ACE阻害薬よりも優れたものではないことを明瞭に示した。本試験でのvalsartanは最大用量1日320mg,captopril 150mgであるが,ELITE II やOPTIMAALの反省もふまえてARBを最大限まで増量している。それでもACE阻害薬のもっとも古典的なcaptoprilに勝てなかった訳であるが,ARBの320mg(結果的には1日平均247mg)は日本では認可されておらず,現実的にも困難である。したがってARBの用量がこの半分の160mgではむしろACE阻害薬(結果的に117mg/日)よりも劣っていた可能性もあるといえよう。これはELITE II,OPTIMAALでも証明されていたが,これでARBによるレニン-アンジオテンシン系の完全なる抑制は少なくとも心臓でも期待された程のものではないことが証明された。また,両薬剤の併用は単に副作用を増強するに過ぎないことを示した点は注目すべきである。(桑島
デザイン 無作為割付け,二重盲検,3群比較(valsartan群,captopril群,valsartan+captopril群),多施設(24か国931施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は24.7か月(中央値)。登録期間は1998年12月~2001年6月。
対象患者 14703例。18歳以上。AMI発症後0.5~10日。臨床的あるいは画像で認められる心不全,左室収縮機能障害(心エコーまたは血管造影でEF≦35%,放射性核種(RI)心室造影で≦40%),あるいは両方を合併している患者。ランダム化時の収縮期血圧>100mmHg,血清クレアチニン<2.5mg/dL。ランダム化12時間以上前のACE阻害薬,AII 受容体拮抗薬投与例は許可。
除外基準:試験薬への不忍容あるいは禁忌,臨床上重大な心臓弁膜症,余命を著しく制限する疾患を有するもの。
■患者背景:平均年齢;valsartan群65.0歳,captopril群64.9歳,valsartan+captopril群64.6歳,血圧(122.7/72.3mmHg,122.8/72.4mmHg,122.5/72.3/mmHg),EF;3群とも35.3%,Killip分類class I(26.5%,29.1%,28.4%),II(49.2%,48.0%,47.9%),III(17.9%,16.6%,17.3%),IV(6.4%,6.3%,6.4%),BMI(27.34,27.14,27.24),クレアチニン;3群とも1.1mg/dL,AMI発症からランダム化までの時間(4.8日,4.9日,4.9日)。
ランダム化時使用薬剤:血栓溶解療法(35.5%,35.0%,35.0%),β遮断薬(70.6%,70.1%,70.4%),aspirin(91.3%,91.4%,91.1%),その他の抗血小板薬(25.1%,24.6%,24.7%),カリウム保持性利尿薬(9.1%,9.1%,9.0%),その他の利尿薬(51.3%,49.4%,50.3%),スタチン(33.8%,34.4%,34.1%)。ACE阻害薬(39.4%,38.5%,40.8%),AII 受容体拮抗薬(1.1%,1.4%,1.1%)はランダム化前に中止された。
治療法 現行治療を受けている患者を次の3群にランダム化。valsartan群(4909例):20mgで投与を開始し,入院中の目標投与量80mg×2回/日に3段階で漸増,臨床上可能な場合,3か月後の来院時までに160mg×2回/日に増量(他の2群も同様に4段階で漸増投与),captopril群(4909例):6.25mg→ 25mg×3回/日→ 50mg×3回/日,valsartan+captopril群(4885例):valsartan 20mg+captopril 6.25mg→ 40mg×2回/日+25mg×3回/日→ 80mg×2回/日+50mg×3回/日。試験薬の増・減量は医師の裁量に委ねた。
結果 一次エンドポイントである全死亡はvalsartan群979例(19.9%),captopril群958例(19.5%),valsartan+captopril群941例(19.3%)と,3群間で同様[valsartan群 vs captopril群のハザード比(HR)1.0(97.5%信頼区間0.90-1.11),p=0.98,valsartan+captopril群 vs captopril群のHR 0.98(0.89-1.09),p=0.73]。Kaplan-Meier推定量による1年後の死亡率は各群12.5%,13.3%,12.3%。
二次エンドポイントである心血管死+MI再発+心不全による入院は3群間で同様[31.1%,31.9%,31.1%,valsartan群 vs captopril群のHR 0.95(0.88-1.03),p=0.20,valsartan+captopril群 vs captopril群のHR 0.97(0.89-1.05),p=0.37]。β遮断薬の投与例においても,valsartan+captopril群で一次・二次エンドポイントのハザードは増加しなかった。
死亡率に関しては,valsartan群 vs captopril群の片側97.5%信頼区間の上限はvalsartanがcaptoprilに劣らないとする仮説の範囲内であり(p=0.004),全心血管イベントも同様であった(p<0.001)。
1年後の試験薬中止は15.3%,16.8%,19.0%(valsartan群 vs captopril群:p=0.07,valsartan+captopril群 vs captopril群:p=0.007)。1年後に投与中の例の平均投与量:247mg,117mg,116mg+107mg。
薬剤関連有害イベントによる投与中止率は,valsartan+captopril群が最も高く,valsartan群が最も低かった(5.8%,7.7%,9.0%)。低血圧,腎障害はvalsartan+captopril>valsartan>captoprilの順で多く,咳,発疹,味覚障害はcaptopril>valsartan+captopril>valsartanの順で多かった。
★結論★MI後の心血管イベントに高リスク例において,valsartanの有効性はcaptoprilと同等であった。valsartanとcaptoprilの併用は生存率を改善することなく,有害事象を増加する。
文献
  • [main]
  • Pfeffer MA et al for the Valsartan in acute myocardial infarction trial investigators: Valsartan, captopril, or both in myocardial infarction complicated by heart failure, left ventricular dysfunction, or both. N Engl J Med. 2003; 349: 1893-906. PubMed
  • [substudy]
  • 急性心筋梗塞後の消化管出血の予測因子
    重篤な消化管出血は98例(0.7%):上部消化管21例(21.4%);下部消化管16例(16.3%);不明61例(62.3%)で死亡リスクが増大した(35例[35.7%]が死亡,心血管死は21例)。
    消化管出血の最も強い予測因子は2種類の抗血小板薬併用投与(ハザード比3.18),その他の独立した因子は非白人(3.26),アルコール依存症の既往(4.71),年齢(10歳加齢ごと:1.51),NYHA III~IV度(2.27),抗凝固療法(2.13),糖尿病(1.76),糸球体濾過量(10mL/分/1.73m2低下ごと:1.18),男性(1.82):Eur Heart J. 2009; 30: 2226-32. PubMed
  • EF,梗塞部分長,右室機能,僧帽弁減速時間(mitral deceleration time)に腎機能の影響はない。腎機能障害(推定糸球体濾過量比低下)は小さい左室,大きい左心房容量,左室筋重量係数の上昇と相関。収縮機能の低下とMI後の腎機能障害患者の転帰の不良とは関連しない:Am Coll Cardiol. 2007; 50: 1238-45. PubMed
  • 心筋梗塞から45日以内に発症した脳卒中の最も強い予測因子は,全体では拡張期血圧>90mmHg,脳卒中既往,心房細動で,洞調律の場合は推定糸球体濾過量および心拍数。
    脳卒中の発症は463例(3.2%):致死的脳卒中124例;非致死的は339例。45日以内の発症は134例。虚血性脳卒中348例;出血性40例;確定できないもの75例:Eur Heart J. 2007; 28: 685-91. PubMed
  • 致死的・非致死的心筋梗塞はvalsartan群796件,captopril群798件,併用群756件:valsartan群 vs captopril群(p=0.965),併用群 vs captopril群(p=0.350:J Am Coll Cardiol. 2006; 47: 726-33. PubMed
  • 65歳未満の3年後の死亡率は13.4%,65~74歳は26.3%,75~84歳は36.0%,85歳以上は52.1%。心血管死+心不全による再入院+再梗塞+脳卒中+心停止からの蘇生はそれぞれ25.2%,41.0%,52.3%,66.8%,心不全による再入院は12.0%,23.1%,31.3%,35.4%とβ遮断薬,ACE阻害薬および/あるいはAII受容体拮抗薬投与にもかかわらず高齢者の転帰は不良である:Circulation. 2005; 112: 3391-9. PubMed
  • AMIから20か月後の心室重量,EF,狭窄部分の長さにおいて3群間に差はなかった。ベースライン時の心電図上の変数はすべての主要な転帰の独立した強い予測因子である:Circulation. 2005; 111: 3411-9. PubMed
  • 突然死のリスクは心筋梗塞後30日が最も高く1か月1.4%であったが2年後は0.14%に低下。最初の30日間で最もリスクが高かったのはEF≦30%例で2.3%:N Engl J Med. 2005; 352: 2581-8. PubMed
  • 心不全および/あるいは左室収縮能不全例が42%で,MI後の死亡例の80.3%を占めた:Enr Heart J. 2004; 25: 1911-9. PubMed
  • 糖尿病は新規に診断されたものであれ既往であれ,1年後の死亡率,心血管イベントの上昇と関連した:Circulation. 2004; 110: 1572-8. PubMed
  • 糸球体濾過率の評価で軽症であっても,腎疾患は心筋梗塞後の心血管疾患の重要な危険因子と考えるべきである:N Engl J Med. 2004; 351: 1285-91. PubMed

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収載年月2001.04
更新年月2009.08