循環器トライアルデータベース

HERS
Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study

目的 冠動脈心疾患(CAD)が確認された閉経後の女性における,エストロゲン(estrogen)とプロゲスチン(progestin)の併用療法のCAD二次予防効果および安全性を検討。
一次エンドポイントは,CADイベント:致死性および非致死性MI,CAD突然死あるいは他のCAD死。
コメント ホルモン補充療法(HRT)の冠動脈イベントの抑制効果については議論のあるところである。本試験は二次予防という高リスク患者約3000例という大規模試験であり,信頼性が高い。結果としては,HRTに冠動脈イベント抑制効果は認められず,HRTを冠動脈イベント抑制のために用いることに否定的な結果である。(寺本
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(アメリカ20施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は平均4.2年。
1993年1月~1994年9月登録。
対象患者 2763例。平均年齢66.7歳(44~79歳)の子宮を有している女性。心筋梗塞(MI)の既往,CABG,PTCA,その他の血行再建術施行者,あるいは主要な冠動脈の50%以上の閉塞を有するもの。登録前6か月以内にCADを発症したものは除外。
治療法 conjugated equine estorogens 0.625mg+medroxyprogesterone acetate 2.5mg/日群1380例,あるいはプラセボ群1383例にランダム化。
4か月ごとにCADイベント(CAD死,非致死性MI)の発生を,また血行再建術および不安定狭心症による入院を含む主要なCADイベントも評価。
結果 過去あるいは現在の喫煙者62%,高血圧59%(収縮期血圧≧140mmHgが38%,>160mmHgが約10%,拡張期血圧≧90mmHgは5%),LDL-C≧100mg/dLが90%,糖尿病23%と,冠動脈疾患リスク因子の罹患率は高かった。エストロゲン群で1年後82%が,3年後75%がエストロゲン療法を受けていた。
一次エンドポイントおよび二次エンドポイント(血行再建術,不安定狭心症,うっ血性心不全,心停止からの蘇生,脳卒中,一過性虚血発作,末梢動脈疾患)の発生率において,両群間に有意差は認められなかった。MIあるいはCHD死の発生数はエストロゲン群172例,プラセボ群176例(相対ハザード0.99)。一方,プラセボ群に比べエストロゲン群ではLDL-Cが11%低下,HDL-Cが10%上昇(各p<0.001)。
エストロゲン群におけるCADイベントの発生は1年後はプラセボ群より多く,4および5年後は少ないという,有意な経時的傾向(time trend)がみられた。また同群では静脈血栓塞栓性イベント(34例 vs 12例),胆嚢疾患(84例 vs 62例)の発症がプラセボ群より多かった。
文献
  • [main]
  • Grady D et al: Heart and estrogen/progestin replacement study (HERS); design, methods, and baseline characteristics. Control Clin Trials. 1998; 19: 314-35. PubMed
  • Hulley S et al for the heart and estrogen/progestin replacement study (HERS) research group: Randomized trial of estrogen plus progestin for secondary prevention of coronary heart disease in postmenopausal women. JAMA. 1998; 280: 605-13. PubMed
  • [substudy]
  • CADを有する閉経後女性における心臓死の半数以上は心臓突然死。
    平均追跡期間6.8年で心臓死は254例,うち心臓突然死(SCD)は136例(54%;0.79%/年,95%信頼区間0.67~0.94%)。SCDの独立予測因子は心筋梗塞,うっ血性心不全,eGFR<40mL/分/1.73m2,心房細動,身体活動の低下,糖尿病。保有因子数が増えるほどSCDの年間発生率は上昇(0因子[683例;25%]:0.3%/年,1因子[1,224例;44%]:0.5%/年,2因子[610例;22%]:1.2%/年,3因子以上[246例;9%]:2.9%/年)。SCD予測のC統計量は,EFのみ0.600,臨床的因子のみ0.666だが,両者を併せると0.681に改善し,net reclassification improvementは20%となった(p<0.001):Arch Intern Med. 2011; 171: 1703-9. PubMed
  • 冠動脈疾患を有する女性において,腎機能障害(eGFR<40mL/分)は心臓突然死の独立予測因子(追跡期間を中央値2.7年追加し6.8年追跡)。
    ベースライン時にクレアチニンを測定した2760例でmodification of diet in renal disease equation (MDRD)による推定糸球体濾過量(eGFR)を評価。eGFR>60mL/分;1027例(37%),40~60mL/分;1503例(54%),<40mL/分;230例(8%)。
    6.8年で心臓突然死は136例:eGFR>60mL/分;0.5%/年,40~60mL/分;0.6%/年,<40mL/分;1.7%/年(p for trend<0.001)。多変量解析後,eGFR 40~60mL/分は心臓突然死の有意な予測因子ではなかったが,<40mL/分は強く相関した(ハザード比3.2;1.9~5.3)。追跡期間中の心不全,心筋梗塞を調整すると相関度は小さくなった(2.3;1.3~3.9):Hypertension. 2008: 51: 1578-82. PubMed
  • 糖尿病,心房細動,心筋梗塞,クレアチニンクリアランス<40mL/分,収縮期血圧>120mmHg,喫煙,BMI>35kg/m2,左脚ブロック,左室肥大は心不全の独立した予測因子で,糖尿病が最も強い因子,特にコントロールされていない腎障害,肥満,あるいはそれらを併発している場合に強い予測因子であった:Circulation. 2004; 110: 1424-30. PubMed
  • 収縮機能が維持されている例,収縮機能が低下している例で,腎不全は心不全死の重要な予測因子である(クレアチニンクリアランスが40~60mL/分の場合調整後ハザード比1.53,<40mL/分の場合2.40)。このリスクはACE阻害薬に使用により軽減される:J Am Coll Cardiol. 2004; 44: 1593-600. PubMed
  • 空腹時血糖値はプラセボ群で有意に上昇したが,エストロゲン群では変化しなかった。糖尿病は6.2% vs 9.5%でエストロゲン群でリスクが35%低下した。体重および腹囲の変化はエストロゲン群の有効性に関連しなかった。糖尿病1例を予防するためのNNTは30例:Ann Intern Med. 2003; 138: 1-9. PubMed
  • 1993~'98年(平均追跡期間4.1年):非致死的心筋梗塞(MI)232例(うち24例がCHD死),CHD死129例:致死的MI 35例;突然死38例;うっ血性心不全あるいは肺浮腫死16例;その他40例。CHDは糖尿病,高血圧,2回以上のMI既往,心不全,狭心症,クレアチニンクリアランス≦40mL/分,リポ蛋白≧25.3mg/dL,プラセボ投与,運動不足,アフリカ系アメリカ人と相関した。
    5つ以上危険因子を有している例の冠動脈イベント率は8.7%/年で,危険因子を有していない例(1.3%/年)の6倍に増加。aspirin,その他の抗血小板薬の服用率(登録時→終了時)は83%→79%,β遮断薬33%→35%,ACE阻害薬18%→28%,脂質低下薬53%→66%であったが,保有危険因子の多い高リスク例のaspirin(p<0.001),脂質低下薬(p=0.006)の服用率は低い:Ann Intern Med. 2003; 138: 81-9. PubMed
  • 黒人女性はCHDリスクが高い(白人の2倍)にもかかわらず適切な予防療法(aspirin,スタチン治療)およびリスク因子(血圧やLDL-C)のコントロール率が低い:Circulation. 2003; 108: 1089-94. PubMed
  • スタチン使用は心血管イベント,静脈血栓塞栓死イベント,死亡の低発生率と関係がある:Circulation. 2002; 105: 2962-7. PubMed
  • 心保護効果を有するエストロゲンの代替となる可能性の一つであるACE阻害薬ramiprilと,conjugated estrogenによるプラスミノーゲン活性化因子インヒビター抗原の減少は同様である:Circulation. 2002; 105: 304-9. PubMed
  • ベースライン時の患者背景により86のサブグループを検討した結果,HRTが明確に有効だったグループも有害だったグループもなかった:Circulation. 2002; 105: 917-22. PubMed
  • ホルモン補充療法の効果は閉経後の症状に依る:ホットフラッシュを有する例ではQOLの感情面が改善し,有していない場合は身体機能がより低下する:JAMA. 2002. 287: 591-7. PubMed
  • エストロゲン受容体α IVS1-401 C/C遺伝子型,あるいはその他の密接に関連した遺伝子型を有する例は,HRTへのHDL-Cの応答を増強する:N Engl J Med. 2002; 346: 967-74. PubMed
  • エストロゲン+プロゲスチン療法に脳卒中リスクに対する有意な効果は認められなかった:Circulation. 2001; 103: 638-42. PubMed
  • 腎不全は心血管イベントの独立したリスク因子である:J Am Coll Cardiol. 2001; 38: 705-11. PubMed
  • エストロゲンは死亡あるいは脳卒中の再発を抑制しない。エストロゲンは脳血管疾患の2次予防として処方すべきではない:N Engl J Med. 2001; 345: 1243-9. PubMed
  • エストロゲン+プロゲスチン療法はCHD既往の更年期女性において末梢動脈イベントの有意な低下とは関連せず:Circulation. 2000; 102: 2228-32. PubMed
  • リポ蛋白(a)は更年期女性のCHDの再発の独立したリスク因子であり,エストロゲンとプロゲスチン併用療法はリポ蛋白(a)値を下げる:JAMA. 2000; 283: 1845-52. PubMed

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収載年月2001.04
更新年月2011.08