循環器トライアルデータベース

Val-HeFT
Valsartan Heart Failure Trial

目的 慢性心不全患者において,通常治療にアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)valsartanを追加した場合の死亡率,合併症発生率(蘇生法を実施した心停止,心不全による入院,4時間以上の強心薬あるいは血管拡張薬の静注)に対する効果を検討。
コメント ACE阻害薬とARBはその作用メカニズムに差異があるため,両者の併用が更なる有効性を発揮するものと期待されていた。本試験の結果,死亡率の改善は認められなかったが,心不全の悪化が抑制されQOLが改善することが示された。しかし,β遮断薬との併用は却って成績が悪く,ACE阻害薬+β遮断薬の併用効果を超えるものではなかった。従って,valsartanの併用はACE阻害薬やβ遮断薬に忍容性のない場合にその適応があると考えられる。他のARBに関しても同様か否かは今後の検討が必要であろう。(

→サブスタディ(Am Heart J. 2005; 149: 548-57.)へのコメント
valsartanの併用で心房細動(AF)の発生が抑制されたことは,主試験で死亡率に差は認められていないが,AF発生の危険因子のある例ではvalsartanの併用を考慮する価値はある。(井上
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(16か国)。
期間 追跡期間は平均23か月。
対象患者 5010例。18歳以上。心不全既往あるいは3か月以上の心不全の臨床所見を有するNYHA II~IV度の例。2週間以上ACE阻害薬,利尿薬,digoxin,β遮断薬療法を受けている者。EF<40%の左室不全かつ心エコーによる拡張末期径が>2.9cm/体表面積(m²)の左室拡張。
治療法 valsartan群(2511例):40mg×2回/日で投与を開始し,2週間ごとに投与量を倍増,目標投与量は160mg×2回/日,あるいはプラセボ群(2499例)にランダム化。
結果 全死亡率は両群で同様であった。しかし死亡+合併症の発生率はプラセボ群よりvalsartan群の方が13.2%低かった(相対リスク0.87,97.5%信頼区間0.77-0.97,p=0.009)。これは主に心不全による入院が同群で低下したことによる[346例(13.8%) vs 455例(18.2%),p<0.001]。
valsaratan群ではプラセボ群と比較してNYHA分類,EF,心不全徴候および症状,QOLが有意に改善した(p<0.01)。
post hocサブ解析によると,ベースライン時にACE阻害薬およびβ遮断薬の両者が投与されていないか,どちらか一方の薬剤のみを投与されていた群では,valsartanは死亡,死亡+合併症に有効であったが,両薬剤を併用投与されていた群では有害であった。
★結論★valsartanは現行治療に追加投与した場合,死亡率+合併症の発生率を低下し,心不全の徴候および症状を改善した。しかしながら,post hocサブ解析によるとvalsartan+ACE阻害薬+β遮断薬の場合,死亡率および合併症に有害な影響がみられたことから,この組合わせの併用投与の安全性には懸念がある。
文献
  • [main]
  • Cohn JN et al for the valsartan heart failure trial investigators: A randomized trial of the angiotensin-receptor blockes valsartan in chronic heart faiure. N Engl J Med. 2001; 345: 1667-75. PubMed
  • [substudy]
  • 心不全患者におけるCKDは約6割。蛋白尿は1割以下であるが予後は不良。valsartanによるeGFR低下はCKDの有無を問わず,CKD合併患者のイベントリスクを低下。
    CKD(eGFR<60mL/分/1.73m2)と尿蛋白(試験紙陽性)の有無により4群に層別:CKD58%,尿蛋白8%,尿蛋白+非CKD 2.3%,非蛋白尿+CKD 52%,蛋白尿+CKD 5.8%。
    尿蛋白は死亡およびイベント初発とCKDとは独立して関連した:死亡ハザード比;1.28(95%信頼区間1.01~1.62,p=0.05),イベント初発;1.28(1.06~1.55,p=0.01)。この関連はCKD合併を問わずみられた(CKD合併例:死亡1.26[0.96~1.66],イベント初発1.26[1.01~1.57]),非合併例:1.37[0.83~2.26],1.42[0.98~2.07])。
    valsartanによるeGFR低下(プラセボ調整後)はCKD vs 非CKDで同等(-3.6 mL/分/1.73m2 vs -4.0 mL/分/1.73m2,p=0.52)。valsartan群ではCKD合併例のイベント初発のリスクが有意に低下したが(0.86;0.74~0.99),CKD非合併例のリスクも低下したものの有意ではなかった。死亡リスクはCKD合併例:1.01(0.85~1.20),CKD非合併例:0.91(0.69~1.25):Circulation. 2009; 120: 1577-84. PubMed
  • ランダム化時と4か月後にN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)を測定。追跡期間24.5か月(中央値)における死亡267例から4か月以内に死亡した117例を除外して解析した結果:4か月後のNT-proBNPは全死亡の独立した有意な予測因子(ハザード比1.993,p<0.0001)で,ベースライン時のNT-proBNP(0.776,p=0.0228)よりも予測能は高い。
    4か月後にNT-proBNPが改善した例(高値→低値)の対照(低値→低値)と比べたハザード比は0.614で有意ではなく(95%信頼区間0.290~1.302,p=0.2036),悪化した例(低値→高値)は1.699(1.051~2.745,p=0.0305)は有意に死亡リスクが上昇し,高値→高値例も上昇した(1.877;1.180~2.986,p=0.0079):J Am Coll Cardiol. 2008; 52: 997-1003. PubMed
  • 12か月間のヘモグロビン値の低下はベースライン時の貧血やその他の予測因子とは独立して死亡率,合併症の発症率上昇と関連する:Circulation. 2005; 112: 1121-7. PubMed
  • valartanの追加投与により心房細動(AF)が37%有意に低下。brain natriuretic peptide (脳性ナトリウム利尿ペプチド:BNP)および高齢はAFの最も強い独立した因子で,AFは予後の悪化(死亡率を40%増加)と独立して関連した:Am Heart J. 2005; 149: 548-57. PubMed
  • 心エコーsubstudy:LVIDd(left ventricular internal diastolic diameter)およびEFが改善すると,生存率が高くなる。ベースライン時のリモデリングの重症度による層別により,イベント発症の高リスクであるLVIDdおよびEFの低下例が判明する:J Am Coll Cardiol. 2004; 43: 2022-7. PubMed
  • BNP,NEは死亡および合併症の初発(M&M)の予測因子であるが,BNPの方が強く関連している。ベースライン時からBNP,NEが最大に上昇した例はM&Mの発生率も最大であった:Circulation. 2003; 107: 1278-83. PubMed
  • valsartanの心不全治療追加投与により,アルドステロンが持続的に低下する:Circulation. 2003; 108: 1306-9. PubMed
  • valsartanはBNPを低下させ血中ノルエピネフリン(NE)濃度の上昇を抑制する:Circulation. 2002; 106: 2454-8. PubMed
  • 心エコーsubstudy:ACE阻害薬あるいはβ遮断薬いずれかとの併用例においてvalsartanは左室リモデリングをリバースした:J Am Coll Cardiol. 2002; 40: 970-5. PubMed

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収載年月2000.09
更新年月2009.12