AHA2009
J-CHFjapanese
Japanese Chronic Heart Failure

日本人心不全患者において,β遮断薬carvedilol 3用量(2.5・5・20mg/日)の死亡,入院抑制効果に有意な群間差は認められなかった。
presenter:Masatsugu Hori, MD, PhD ( Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Disease, Japan )


目的  

日本で実施されたMUCHA試験*に基づきわが国のcarvedilolの推奨維持投与量は5~20mg/日とされているが,欧米の推奨量50~100mg/日に比べると,はるかに少用量である。そこで,carvedilol 3用量の有効性,安全性の比較により至適用量を検討し,carvedilolに対するレスポンダーの予測因子を検証する。
* Multicenter Carvedilol Heart Failure Dose Assessment
日本人の軽度~中等度の慢性心不全(CHF)患者において,carvedilolはCHFおよびEFを用量依存的に改善し,CVDによる入院を顕著に減少させた。Am Heart J. 2004; 147: 324-30. PubMed

   
コメント  

β遮断薬carvedilolは現在,慢性心不全の標準的治療のひとつである。MUCHA試験の結果から,わが国での推奨維持投与量は5~20mg/日と定められたが,欧米の推奨量50~100mg/日に比べてはるかに少用量であり,carvedilolの至適用量に関する人種差の存在が推定されていた。本試験は,日本人の慢性心不全患者においてcarvedilol 3用量群の有効性,安全性の比較により至適用量を検討する,また,carvedilolに対するレスポンダーの予測因子を検証するという目的で,日本循環器学会・日本心不全学会が後援し,医師主導で行われた多施設(131施設),PROBE 法による試験である。NYHA分類II~III度の安定慢性心不全,かつ平均EF30%の収縮不全患者360例をcarvedilol 2.5mg/日,5.0mg/日,20mg/日の3用量にランダム化し平均3年間追跡した。今回は至適用量の検討結果である。 結果としては,忍容性に関してcarvedilol投与中止例はそれぞれ1.7%,2.6%,3.4%と少なかったが,投与量変更は0.7%,4.2%,23%と20mg/日群で多く,低血圧,徐脈などの有害イベントも投与量依存的に増加した。これに対し,一次エンドポイントである死亡,心血管疾患あるいは心不全による入院は治療群間に有意差は認められず,二次エンドポイントである死亡,突然死,心不全死,心血管疾患にも差は認められなかった。多変量解析によると観察期における心拍数と血漿BNPの変化は一次エンドポイントの予測因子であった。また,EFは全群で有意に改善したが,投与量依存性ではなかった。しかし,血漿BNPおよび心拍数は投与量依存で有意に改善した。 日本人の軽度~中等度の慢性心不全(収縮不全)患者においてはcarvedilol2.5mg/日がEFを有意に改善するという結論は妥当であり,重要な結果であると考えられるが,プラセボ群がないためcarvedilolが臨床的転帰を改善したかどうかは結論できない。また,このサンプルサイズとイベント数では2.5mg/日投与は20mg/日投与と遜色がないという結論を導き出すことはできない。過去のいくつかの無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検試験によるとcarvedilolには用量依存性に左室駆出率の改善効果が示されており,carvedilolの心不全に対する有効性が確立している現状でプラセボを用いることが倫理上難しかったということが,過去の試験と異なる結果が得られた理由の一つと考えられる。多変量解析の結果も納得できるものであるが,用量依存性である心拍数と血漿BNPの変化が,用量依存性でない一次エンドポイントに対する予測因子であるという結論には無理があり,今後より大規模なランダム化試験により証明されるべき仮説であると言わざるを得ない。いずれにせよ,日本人の慢性心不全においてcarvedilolが標準的治療であるという位置づけに変わりはなく,至適用量に関しては,現状では交感神経遮断作用の指標である心拍数の変化と臨床的効果の指標である血漿BNPの変化を目安に,可能な限りcarvedilolを増量することが望ましいが,20mg/日群の有害イベントと投与量変更の率の高さから,欧米の推奨量を一様に目指すことは難しいと考えられる。この人種差を証明し,世界のガイドライン作成に寄与するためにも,carvedilolに対するレスポンダーの予測因子を検証したサブ解析の結果が待たれるところである(原田・桑島)。

   
   
デザイン  

PROBE (prospective, randomized, open, blinded-endpoint),多施設(131施設)。

   
期間  

平均追跡期間は3年。

   
対象患者  

360例。20~80歳の安定慢性心不全患者:NYHA心機能分類II~III度,EF≦40%;carvedilol非投与例;入院患者,外来患者。
除外基準:心原性ショック;収縮期血圧<80mmHg;重症不整脈;徐脈<50拍/分;2度あるいは進展した房室ブロック;亜急性心筋梗塞発症例,CABGまたはPCI施行例。

■患者背景:平均年齢(2.5mg/日群58.8歳,5mg/日群61.4歳,20mg群60.5歳),女性(全群31例),BMI(24.1kg/m2,23.3kg/m2,23.4kg/m2),NYHA II度(99例,100例,100例),非虚血性(90例,91例,90例),EF(30.4%,29.9%,30.4%),身体活動指数SASスコア(5.0,5.0,5.2),収縮期血圧(120.9mmHg,118.6mmHg,120.6mmHg),心拍数(82.6拍/分,79.0拍/分,79.8拍/分),BNP(337.1pg/mL,375.5 pg/mL,457.2 pg/mL)。 治療背景:digitalis(33%,32%,33%),利尿薬(90%,89%,91%),血管拡張薬(24%,42%,29%),抗不整脈薬(12%,9%,11%),ACE阻害薬/ARB(46/61%,44/64%,44/58%)。

   
治療法  

観察期8週間→用量設定期8週間→固定期48週間→追跡期3年。
基礎疾患,重症度,年齢,性別に基づきcarvedilol 3用量にランダム化。
2.5mg/日群(119例):1.25mg×2回/日投与,5.0mg/日群(121例):2.5mg×2回/日,20mg/日群(120例):10mg×2回/日。

   
結果  

3用量の安全性に差はなく有効性も同等であったためデータ安全性モニタリング委員会の勧告により試験は予定より早く終了した。

[投与量,忍容性]
達成用量:2.5 mg/日群;2.4mg,5mg/日群;4.8mg,20mg/日群;16.7mg
carvedilol投与中止例:それぞれ1.7%,2.6%,3.4%
投与量変更:それぞれ0.7%,4.2%,23%

[一次エンドポイント(死亡,心血管疾患あるいは心不全による入院の複合エンドポイント)]
74例発生し治療群間に有意差は認められなかった:2.5mg/日群27/118例,5mg/日群22/116例,20mg/日群25/118例。
2.5 mg/日群を対照とした場合のハザード比は5.0mg/日群:0.86;95%信頼区間0.491-1.514(P=0.606),20mg/日群:1.00;0.583-1.731(P=0.990)。
・死亡**:2.5mg/日群9例,5.0mg/日群7例,20mg/日群8例,うち突然死**はそれぞれ5例,3例,6例,心不全死**は2例,2例,1例。
心血管疾患による入院**:8例,10例,5例,心不全による入院**:21例,14例,18例。
** 二次エンドポイント

[その他]
・EFは固定期の24週間目から全群で有意に改善し(P<0.05 vs 観察期),この有効性は用量依存性ではなかった。
2.5mg/日群:観察期30.4%→固定期24週目41.2%;48週目42.6%
5mg/日群:29.8%→41.3%;42.6%
20mg/日群:30.4%→42.4%;43.2%
・多変量解析によると血漿BNP,心拍数の変化は一次エンドポイントの予測因子である。
血漿BNPおよび心拍数は用量依存性に有意に改善した(P<0.05 vs 観察期)。
BNP
2.5mg/日群:観察期335.1pg/mL→固定期:0週目216.2pg/mL;24週目260.5pg/mL;48週目148.6 pg/mL
5mg/日群:378.0 pg/mL→217.0 pg/mL;186.5 pg/mL;165.4 pg/mL
20mg/日群:453.1 pg/mL→220.4 pg/mL;162.2 pg/mL;155.8 pg/mL
心拍数
2.5mg/日群:82.5拍/分→77.1拍/分;74.3拍/分;73.9拍/分
5mg/日群:79.0拍/分→72.0拍/分;70.8拍/分;69.3拍/分
20mg/日群:79.8拍/分→68.8拍/分;68.0拍/分;68.9拍/分

[有害イベント]
用量依存性に増加した。
低血圧,徐脈:2.5mg/日群3.4%,5mg/日群6.0%,20mg/日群11.2%
頻拍,頻脈性不整脈:各群 10.3%,5.1%,3.2%
心不全関連:各群 19.7%,9.4%,14.7%

   

←「AHA2009」topへ

 

「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収録年月2009.11