循環器トライアルデータベース学会情報 ACC2008 第57回米国心臓病学会 シカゴ

HYVET

Hypertension in the Very Elderly Trial

80歳以上の超高齢高血圧患者において,サイアザイド系利尿薬indapamideをベースとした降圧治療により脳卒中発症率,死亡率が有意に低下。

presenter: Nigel S. Beckett, MD, Imperial College London ( UK )

背景
超高齢者における血圧は高めの方が生存率が良好なことを示唆する疫学研究があるが,臨床試験はほとんどない。1997年のGueyffierらのメタ解析によると脳卒中リスクが36%低下(ベネフィット)と全死亡率が14%上昇する(リスク)という結果が出ている。HYVETパイロット試験の結果もメタ解析と同様である。

目的
超高齢高血圧患者における降圧治療の有効性,安全性を検討する。
一次エンドポイントは致死的/非致死的脳卒中

コメント
80歳以上の後期高齢者でも,積極的な降圧が脳心血管合併症を抑制することを明瞭に示した点で画期的な成績である。これまで後期高齢者のみを対象とした試験はなく,高齢者全体を対象とした試験における二次エンドポイントからのメタ解析からの予測では,後期高齢者での降圧治療は死亡率に対しては影響しないか,むしろ悪化するとの予測もあった。しかし今回の脳卒中発症(一次エンドポイント)と死亡(二次エンドポイント)というもっとも重要なイベントを評価項目に設定しての試験結果は,これらの予測を大きく覆し,年齢を問わず降圧薬治療の有用性を明らかにした。

それぞれの内訳をみると,脳卒中を30%,脳卒中死亡を39%,総死亡を21%減少させ,2年間のNNT(number needed to treat)でみると,脳卒中は94,死亡は40という驚異的ともいえる数字を示した。しかもその予防効果,すなわち降圧薬のメリットは試験開始早々の1年以内に明らかになっている点は,いかに高齢者でも速やかな降圧が重要であるかを明瞭に示している。高齢者ではゆっくり降圧という古典的考え方も見直すべきではなかろうか。本試験での降圧目標値は150/80mmHgであったが,2年で実薬群は平均143.5/77.9mmHg,プラセボ群は158.5/84mmHgまで下降している。5年目にはプラセボ群でも150mmHg, 実薬群では140mmHgに到達している。降圧治療に年齢は関係がなく,後期高齢者といえども収縮期血圧はほぼ140mmHgを目標とすべきことを示している。

注目すべきは,本試験では第一次選択薬としてインダパミドという古典的,かつ安価なサイアザイド類似降圧利尿薬を用いている点であり,薬剤に起因する低カリウム血症,血糖上昇などの副作用発現は両群に差がなかったことは,我が国でも降圧利尿薬を今後人口増加が予測される高齢者高血圧治療の第一選択薬として積極的に用いるべきことを示している。試験では後期高齢者を対象としていることから,試験中にプラセボ群448例,実薬群358例という多数の有害事象が発生している。しかし担当医によって試験薬に関連すると認識された有害事象は各々3例,2例しか発症していないことも注目すべきである。めまいなど降圧に伴う有害事象を怖れるあまり,後期高齢者の降圧をためらうことは,致命的イベントである脳卒中や死亡を回避する機会を失するということを明瞭に示している。

本試験の対象となった後期高齢者は糖尿病や腎障害などの合併症が比較的少ない,健康な症例である。現実には非常に多い,合併症を有している後期高齢者での降圧のあり方に対しての回答を与えるものではないが,多様性に富む後期高齢者では,個々の合併症に応じた個別的対応も重要である。
本試験は,血圧は“血管への負荷”であり,「老いた血管ほど負担を少なく」という考え方を実証したものであり,長年の高齢者高血圧の降圧目標値論争には終止符をうつべきである (桑島)


デザイン
無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(西欧,東欧,中国,オーストララシア,チュニジア),intention-to-treat(ITT)解析。

期間
追跡期間は1.8年(中央値)。

対象患者
3,845例。80歳以上;収縮期血圧(SBP)160〜199mmHg,拡張期血圧(DBP)<110mmHg。
除外基準:立位SBP<140mmHg,6ヵ月以内の脳卒中,認知症,日常的に介護が必要なもの。

■患者背景:東欧2144例,中国1526例,西欧86例,チュニジア70例,オーストララシア19例。
平均年齢(降圧治療群83.6歳,プラセボ群83.5歳),女性(60.7%,60.3%),座位血圧(両群とも173.0/90.8mmHg),起立性低血圧(SBP≧20mmHgの低下/DBP≧10mmHgの低下:7.9%,8.8%),収縮期高血圧(32.3%,32.6%)。
既往:心血管疾患(11.5%,12.0%),高血圧(両群とも89.9%),降圧治療(64.2%,65.1%),脳卒中(6.7%,6.9%),心筋梗塞(3.1%,3.2%),心不全(両群とも2.9%)。


治療法
2か月のプラセボによるrun-in期間後,ランダム化。
降圧治療群(1933例):indapamide 1.5mgで治療を開始し,標的血圧値150/80mmHgに達しない場合,ACE阻害薬 2mg→4mgを追加投与する,プラセボ群(1912例)

結果
試験終了時,デザイン通りに二重盲検で投与されていたのは1882例,オープンラベルは220例。2年後の併用投与は実薬群の73.4%。 2年間のカリウム,尿酸,血糖,クレアチニンの変化における両群間差はなかった。

[降圧]
降圧治療群はプラセボ群より−15/6mmHg。

[心血管イベント]
一次エンドポイント:降圧治療群はプラセボ群よりリスクが30%低下(P=0.055)。
二次エンドポイント:全死亡リスクは降圧治療群で21%低下(P=0.019)。
致死的脳卒中は同群で39%(P=0.046),心不全が64%(P<0.0001)リスクが低下した。

・ITT解析によるプラセボ群と比較した降圧治療群のハザード比(HR)は,脳卒中0.70(95%信頼区間0.49〜1.01),致死的脳卒死0.61(0.38〜0.99),総死亡0.79(0.65〜0.95),心血管死0.77(0.60〜1.01),心臓死0.71(0.42〜1.19),心不全0.36(0.22〜0.58),心血管イベント0.66(0.53〜0.82)。
2年間の治療によるNNTは脳卒中94例,死亡40例。

・per-protocol解析によるプラセボ群と比較した降圧治療群のHRは,脳卒中0.64(0.46〜0.95,P=0.025),致死的脳卒中0.55(0.33〜0.93,P=0.021),総死亡0.72(0.59〜0.88),心血管死0.73(0.55〜0.97,P=0.029),心不全0.28(0.17〜0.48,P<0.001),心血管イベント0.63(0.51〜0.71,P<0.001)。

[安全性]
重篤な有害イベント:降圧治療群358例 vs プラセボ群448例(P=0.001),うち試験薬によるものと判断されたのは5例のみ(2例 vs 3例)


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